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アルト・クライス ⑥
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「ビクトリア…」
僕は呆然とビクトリアが走り去っていく姿を見送っていた。
「そ、そんな…」
こんな事は初めてだった。僕とビクトリアは出逢ってから今迄一度も口論や揉め事なんか起きたことは無かったのに、今回初めてビクトリアは僕を責めて涙目になって走り去ってしまった。
いや、誰かと揉め事が起きたのはこれが初めてだった。僕はエイミーとも問題が起きた事が無かったのに…。
「ビクトリアの為にもエイミーに婚約破棄を告げなくちゃな…」
ため息をつくと、僕は旧校舎を後にした―。
****
辻馬車を拾い、エイミーの屋敷に向かった。
「どうもありがとう」
御者にお金を支払って馬車から下りると屋敷の呼び鈴を鳴らした。
リーン
リーン
「…」
少しの間待っていると扉が開かれドアマンが姿を現した。
「あの…どちら様でしょうか?」
ドアマンに声を掛けられ、そこで改めて僕は気付いた。そうだ…僕はエイミーの屋敷に滅多に来ることは無かったから、ここの使用人達に顔を覚えられていなかったという事に。
「あ、僕はアルト・クライスです。恐らくこの名前を伝えてくれればすぐに分かると思います」
「アルト…クライス…様…?」
ドアマンは首をかしげていたけれども、すぐに僕が誰だか気付いたようだった。
「!申し訳ございませんっ!お部屋にご案内致します」
「はい、お願いします」
「どうぞ、こちらへお越し下さい」
ドアマンは僕の前に立つと、廊下を歩き出した。
「…」
ドアマンについて歩きながら、屋敷の中を伺う。そう言えばエイミーの屋敷に来るのは何年ぶりだろう…?
通された部屋は応接室だった。
ソファを進めながらドアマンが僕に言った。
「どうぞこちらのお部屋でお待ち下さい。エイミー様はまだお帰りになっておられませんので」
その言葉に驚いた。
「えっ?!まだ帰っていないですって?!」
「はい、まだお戻りになっておられません」
「そ、そんな…」
どう言うことなのだろう?エイミーは僕よりもずっと早く教室を出ていったのに?
壁にかけられた振り子時計を見ると時刻は午後6時を過ぎようとしていた。
一体エイミーは何処へ行ってしまったのだろう―?
****
ドアマンに案内されて30分程が経過していた。僕のテーブルの前にはすっかり生ぬるくなってしまった紅茶のカップが置かれている。エイミーの両親は共に本日は出掛けているらしく、僕は1人でじっと部屋で待っていた。
そして―。
コンコン
扉をノックする音が部屋に響いた。
「エイミー?」
声を掛けると、カチャリと扉が開かれてエイミーが姿を現した。
「い、いらっしゃいませ。アルト様…」
ためらいがちに部屋に入ってきたエイミーは…今迄一度も見たことがなドレスを身につけていた―。
僕は呆然とビクトリアが走り去っていく姿を見送っていた。
「そ、そんな…」
こんな事は初めてだった。僕とビクトリアは出逢ってから今迄一度も口論や揉め事なんか起きたことは無かったのに、今回初めてビクトリアは僕を責めて涙目になって走り去ってしまった。
いや、誰かと揉め事が起きたのはこれが初めてだった。僕はエイミーとも問題が起きた事が無かったのに…。
「ビクトリアの為にもエイミーに婚約破棄を告げなくちゃな…」
ため息をつくと、僕は旧校舎を後にした―。
****
辻馬車を拾い、エイミーの屋敷に向かった。
「どうもありがとう」
御者にお金を支払って馬車から下りると屋敷の呼び鈴を鳴らした。
リーン
リーン
「…」
少しの間待っていると扉が開かれドアマンが姿を現した。
「あの…どちら様でしょうか?」
ドアマンに声を掛けられ、そこで改めて僕は気付いた。そうだ…僕はエイミーの屋敷に滅多に来ることは無かったから、ここの使用人達に顔を覚えられていなかったという事に。
「あ、僕はアルト・クライスです。恐らくこの名前を伝えてくれればすぐに分かると思います」
「アルト…クライス…様…?」
ドアマンは首をかしげていたけれども、すぐに僕が誰だか気付いたようだった。
「!申し訳ございませんっ!お部屋にご案内致します」
「はい、お願いします」
「どうぞ、こちらへお越し下さい」
ドアマンは僕の前に立つと、廊下を歩き出した。
「…」
ドアマンについて歩きながら、屋敷の中を伺う。そう言えばエイミーの屋敷に来るのは何年ぶりだろう…?
通された部屋は応接室だった。
ソファを進めながらドアマンが僕に言った。
「どうぞこちらのお部屋でお待ち下さい。エイミー様はまだお帰りになっておられませんので」
その言葉に驚いた。
「えっ?!まだ帰っていないですって?!」
「はい、まだお戻りになっておられません」
「そ、そんな…」
どう言うことなのだろう?エイミーは僕よりもずっと早く教室を出ていったのに?
壁にかけられた振り子時計を見ると時刻は午後6時を過ぎようとしていた。
一体エイミーは何処へ行ってしまったのだろう―?
****
ドアマンに案内されて30分程が経過していた。僕のテーブルの前にはすっかり生ぬるくなってしまった紅茶のカップが置かれている。エイミーの両親は共に本日は出掛けているらしく、僕は1人でじっと部屋で待っていた。
そして―。
コンコン
扉をノックする音が部屋に響いた。
「エイミー?」
声を掛けると、カチャリと扉が開かれてエイミーが姿を現した。
「い、いらっしゃいませ。アルト様…」
ためらいがちに部屋に入ってきたエイミーは…今迄一度も見たことがなドレスを身につけていた―。
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