上 下
25 / 38

第25話 血の気が引く瞬間

しおりを挟む
「まぁ、お客様。とってもよくお似合いですよ?」

女性店員さんが進めてくれたワンピースドレスは白いブラウスに茶色のチュニック風のロングワンピースドレスだった。
確かに今まで着ていたピンク色のフリルドレスに比べると、かなり大人のデザインになっている。多分…着こなせているとは思うけれども…。

「ほ…本当に似合っていますか…?」

鏡に自分の姿を映しながら恐る恐る女性店員さんに尋ねる。

「ええ、良くお似合いです。お疑いならお連れの男性にも尋ねてみてはいかがでしょうか?」

確かに今回ドレスを買ってくれるのはトビーなのだから、彼にこのドレス姿を見て貰う必要があるだろう。

「そうですね…。確かにその通りかもしれません。では彼に見て貰う事にします」

「ええ、そうですね。恋人に見てもらうのが一番ですから」

え…?恋人…?

「え?ちょ、ちょっと待って下さい!誰が恋人ですかっ?!」

聞き捨てならない台詞に耳を疑う。

「え…?ですが一緒にいらした方は恋人なのですよね?」

「違いますっ!冗談でも変な事言わないで下さいっ!」

この女性店員さん…本気で言っているのだろうか?最初トビーと2人でこの店に入っって来た時は親子だと勘違いしたくせに…。

「そうなのですか…?お似合いだと思いますけど…」

「今の話…私の前ではしてもいいですけど、彼の前では口が裂けても言わない方がいいですよ」

何しろトビーに言わせると、私に今好意を寄せている男がいるとなれば変態かもしれないのだから。

「はい。お客様がそう仰るのであれば、口が裂けても言いません」

女性店員さんが力強く頷く。

「では…彼の所へ行ってきます!」

そして私はトビーの元へと向かった―。



 トビーはソファにもたれかかり、腕組みをして眠っていた。

「トビーさん、トビーさん!」

肩を掴んでトビーさんを揺すぶる。

「う~ん…」

「トビーさんてばっ!」

「ふわぁぁぁあ~…」

ようやくトビーは目が覚めたのか大欠伸をすると私を見た。

「お?エイミー。そのドレスに決めたのか?」

「はい、そうなんです。どうですか?似合っていますか?」

「う~ん…」

トビーは頭のてっぺんから足のつま先までジロジロ私を見た。

「まぁ、こんなもんじゃないか?」

「え?それは似合っているって事ですよねっ?!」

「そうだな…幼女から少女に見えるようになってきた。ビクトリアに比べるとまだまだだがな?」

「何ですか、それ…」

駄目だ、トビーに感想なんか尋ねるべきでは無かった。

「よし、それじゃ早速この服を貰おうか?」

トビーは私の後ろに立っていた女性店員に声を掛けた。

「はい、お買い上げありがとうございますっ!」

店員は嬉しそうに返事をした―。


****

 ガラガラガラガラ…

 私とトビーは町で拾った辻馬車に揺られていた。

「今日はありがとうございました」

向かい側に座るトビーに声を掛けた。

「ああ、そんな事は気にするなって。でもいいか?今度からは今着ている様な服を買うんだぞ?いつまでも親の言いなりになって幼女が着るようなドレスばかり着るんじゃない。ますます幼児化が進むからな」

またしてもトビーはメチャクチャな事を言ってくる。

「幼児化が進むはず無いじゃないですか…。でも、肝に銘じておきます」

「ああ、そうだ。いいか?今日はその服を着て家に帰って親に見せつけてやるんだ。そしてこう言え。『私は今日限り幼女服を着るのはやめます!』ってな」

「はい、分かりました」

私は大きく頷いた。



****


「どうもありがとうございました」

屋敷に到着し、馬車から降りた私はトビーにお礼を述べた。

「何、気にするなって。これも互いの目的を達成するのに必要な事だからな」

同じく馬車から降りたトビーは笑顔で私を見る。

互いの目的…。

その目的とは…渡すはアルトとの婚約破棄を回避し、トビーはビクトリアさんの心を手に入れる事。

「はい。分かりました」

「おう、それじゃ又明日な」

そしてトビーは再び馬車に乗り込むと夕暮れの中、帰って行った―。



「ただいま~」

エントランスから屋敷の中に入ってくると年若いフットマンが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、エイミー様」

「ええ、ただいま」


「エイミー様。そのお召し物はどうされたのですか?初めて目に致しますね」

フットマンはすぐに私のドレスがいつもと違う事に気付いた。

「ええ。ちょっとイメージチェンジを図ろうと思ってね」

「成程、そうでしたか。よくお似合いですよ」

「本当?ありがとう」

嬉しくなって笑みを浮かべる。

「ええ、本当に以前とは違う雰囲気でとてもお似合いです。きっと今いらしているアルト様も驚くでしょう」

「えっ?!ちょ、ちょっと待って。アルトが来てるの?」

「ええ、先程から応接室でお待ちですよ」

「何ですってっ?!」

その言葉に血の気が引いた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです

Rohdea
恋愛
伯爵夫人になったばかりのコレットは、結婚式の夜に頭を打って倒れてしまう。 目が覚めた後に思い出したのは、この世界が前世で少しだけ読んだことのある小説の世界で、 今の自分、コレットはいずれ夫に離縁される予定の伯爵夫人という事実だった。 (詰んだ!) そう。この小説は、 若き伯爵、カイザルにはずっと妻にしたいと願うほどの好きな女性がいて、 伯爵夫人となったコレットはその事実を初夜になって初めて聞かされ、 自分が爵位継承の為だけのお飾り妻として娶られたこと、カイザルがいずれ離縁するつもりでいることを知る───…… というストーリー…… ───だったはず、よね? (どうしよう……私、この話の結末を知らないわ!) 離縁っていつなの? その後の自分はどうなるの!? ……もう、結婚しちゃったじゃないの! (どうせ、捨てられるなら好きに生きてもいい?) そうして始まった転生者のはずなのに全く未来が分からない、 離縁される予定のコレットの伯爵夫人生活は───……

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。 王命での婚約。 クルト・メイナード公爵子息が。 最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。 一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。 それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。 なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。 これは自分にも当てはまる? 王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。 そもそも、王女の結婚も王命だったのでは? それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。 水面下で動く貴族達。 王家の影も動いているし・・・。 さてどうするべきか。 悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。

処理中です...