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第17話 褒めてるの?けなしているの?
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「よし、ここなら誰も来ないだろう」
連れて来られた場所はカビ臭くて埃っぽい資料室だった。部屋の中はとても狭く、小さな小窓が一つあるだけで薄暗い。部屋の左右には木製の棚が並べられ、箱が積み重なっている。ちなみに床の上にも年期の入った黒板やらボールが箱の中に詰め込まれて無造作に置かれていた。
「な、何でこんな変な場所に…」
ハンカチで口元を覆い隠しながらボソリと呟く声がトビーに聞かれてしまった。
「文句を言うな。人目につかない場所で話した方がいいだろう。良くも悪くもお前はどうも目立ち過ぎだからな」
良くも悪くも…?一体どういう意味なのだろう?しかし、尋ねるのはやめた。
一方のトビーは薄汚れた部屋を気にする素振りもなく、腕組みすると壁に寄りかかった。
「あの、全体的に部屋が汚れていますから壁に寄りかからない方がいいですよ。埃まみれになるかもしれません」
「え?何だって?あっ!」
トビーは慌てて壁から離れて、上着を脱ぐと紺色のジャケットの背中部分が埃で白くなっていた。
「うわ…これは酷いな」
そして上着を両手でつかむとバサバサと振るって埃を落とす。その度に部屋の綿埃がぶわっと宙を舞う。
「ちょ、ちょっとやめてくださいっ!埃が舞うじゃないですか!」
「あ、悪い」
まるきり心のこもっていない「悪い」を言うと、トビーは何食わぬ顔で上着を着る。そして私に尋ねた。
「それにしてもよく俺の教室が分ったな」
「ええ。学務課に行って調べてきました。尤も会えるかどうかは不明でしたけど」
「そりゃ運が良かった。丁度忘れ物があって教室に立ち寄ったところだったんだ。お前はラッキーだぞ?この俺に偶然会えたのだから。普段の俺ならほとんどあの教室に行く事は無いからな」
別にこれくらいの事でラッキーだとは言って貰いたくない。何故なら婚約破棄を迫られている今の自分の状況が少しもラッキーだとは思えないからだ。しかもトビーのせいでアルトからの婚約破棄を受け入れてあげる事も出来ない。むしろアンラッキーと言うべきだろう。思わず恨めしそうにトビーを見てしまった。
そんな私の気持が通じたのか、彼が怪訝そうな顔で問いかけて来た。
「何だ?その顔は…随分不満そうだな?」
「不満…?不満しかありませんよ!全部私に丸投げじゃありませんかっ!この間の婚約式だって婚約破棄を阻止しろとかなんとか命令してくるし、バックレろと言った割には協力もしてくれない。大体私とアルトは同じ講義を受講しているんですよ?毎回毎回顔を合わせるんです。いつどこで婚約破棄を迫られるかと思うと生きた心地がしませんよ。とにかく私はアルトに婚約破棄を迫られたら拒否する方法が思いつかないんです。何とか方法を考えて下さいよっ!酷いです、無責任すぎます!男として最低ですっ!」
私は一気にまくしたてた。
「へぇ~…なかなかやるじゃないか」
トビーが何故かニヤリと笑う。
「え?何がですか?」
てっきり怒られると思っていたのに…。
「いや?そんなちっこい身体してるから、言いたい事も何一つ言えなくてそれで婚約者に飽きられてしまったんじゃないかと俺は思っていたんだが…この俺によくそこまで言ったものだ。お前…中々見どころがあるじゃないか?」
トビーは褒めているのか、けなしているのか分からない言葉で私に笑顔を向けた―。
連れて来られた場所はカビ臭くて埃っぽい資料室だった。部屋の中はとても狭く、小さな小窓が一つあるだけで薄暗い。部屋の左右には木製の棚が並べられ、箱が積み重なっている。ちなみに床の上にも年期の入った黒板やらボールが箱の中に詰め込まれて無造作に置かれていた。
「な、何でこんな変な場所に…」
ハンカチで口元を覆い隠しながらボソリと呟く声がトビーに聞かれてしまった。
「文句を言うな。人目につかない場所で話した方がいいだろう。良くも悪くもお前はどうも目立ち過ぎだからな」
良くも悪くも…?一体どういう意味なのだろう?しかし、尋ねるのはやめた。
一方のトビーは薄汚れた部屋を気にする素振りもなく、腕組みすると壁に寄りかかった。
「あの、全体的に部屋が汚れていますから壁に寄りかからない方がいいですよ。埃まみれになるかもしれません」
「え?何だって?あっ!」
トビーは慌てて壁から離れて、上着を脱ぐと紺色のジャケットの背中部分が埃で白くなっていた。
「うわ…これは酷いな」
そして上着を両手でつかむとバサバサと振るって埃を落とす。その度に部屋の綿埃がぶわっと宙を舞う。
「ちょ、ちょっとやめてくださいっ!埃が舞うじゃないですか!」
「あ、悪い」
まるきり心のこもっていない「悪い」を言うと、トビーは何食わぬ顔で上着を着る。そして私に尋ねた。
「それにしてもよく俺の教室が分ったな」
「ええ。学務課に行って調べてきました。尤も会えるかどうかは不明でしたけど」
「そりゃ運が良かった。丁度忘れ物があって教室に立ち寄ったところだったんだ。お前はラッキーだぞ?この俺に偶然会えたのだから。普段の俺ならほとんどあの教室に行く事は無いからな」
別にこれくらいの事でラッキーだとは言って貰いたくない。何故なら婚約破棄を迫られている今の自分の状況が少しもラッキーだとは思えないからだ。しかもトビーのせいでアルトからの婚約破棄を受け入れてあげる事も出来ない。むしろアンラッキーと言うべきだろう。思わず恨めしそうにトビーを見てしまった。
そんな私の気持が通じたのか、彼が怪訝そうな顔で問いかけて来た。
「何だ?その顔は…随分不満そうだな?」
「不満…?不満しかありませんよ!全部私に丸投げじゃありませんかっ!この間の婚約式だって婚約破棄を阻止しろとかなんとか命令してくるし、バックレろと言った割には協力もしてくれない。大体私とアルトは同じ講義を受講しているんですよ?毎回毎回顔を合わせるんです。いつどこで婚約破棄を迫られるかと思うと生きた心地がしませんよ。とにかく私はアルトに婚約破棄を迫られたら拒否する方法が思いつかないんです。何とか方法を考えて下さいよっ!酷いです、無責任すぎます!男として最低ですっ!」
私は一気にまくしたてた。
「へぇ~…なかなかやるじゃないか」
トビーが何故かニヤリと笑う。
「え?何がですか?」
てっきり怒られると思っていたのに…。
「いや?そんなちっこい身体してるから、言いたい事も何一つ言えなくてそれで婚約者に飽きられてしまったんじゃないかと俺は思っていたんだが…この俺によくそこまで言ったものだ。お前…中々見どころがあるじゃないか?」
トビーは褒めているのか、けなしているのか分からない言葉で私に笑顔を向けた―。
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