上 下
17 / 38

第17話 褒めてるの?けなしているの?

しおりを挟む
「よし、ここなら誰も来ないだろう」

連れて来られた場所はカビ臭くて埃っぽい資料室だった。部屋の中はとても狭く、小さな小窓が一つあるだけで薄暗い。部屋の左右には木製の棚が並べられ、箱が積み重なっている。ちなみに床の上にも年期の入った黒板やらボールが箱の中に詰め込まれて無造作に置かれていた。

「な、何でこんな変な場所に…」

ハンカチで口元を覆い隠しながらボソリと呟く声がトビーに聞かれてしまった。

「文句を言うな。人目につかない場所で話した方がいいだろう。良くも悪くもお前はどうも目立ち過ぎだからな」

良くも悪くも…?一体どういう意味なのだろう?しかし、尋ねるのはやめた。

一方のトビーは薄汚れた部屋を気にする素振りもなく、腕組みすると壁に寄りかかった。

「あの、全体的に部屋が汚れていますから壁に寄りかからない方がいいですよ。埃まみれになるかもしれません」

「え?何だって?あっ!」

トビーは慌てて壁から離れて、上着を脱ぐと紺色のジャケットの背中部分が埃で白くなっていた。

「うわ…これは酷いな」

そして上着を両手でつかむとバサバサと振るって埃を落とす。その度に部屋の綿埃がぶわっと宙を舞う。

「ちょ、ちょっとやめてくださいっ!埃が舞うじゃないですか!」

「あ、悪い」

まるきり心のこもっていない「悪い」を言うと、トビーは何食わぬ顔で上着を着る。そして私に尋ねた。

「それにしてもよく俺の教室が分ったな」

「ええ。学務課に行って調べてきました。尤も会えるかどうかは不明でしたけど」

「そりゃ運が良かった。丁度忘れ物があって教室に立ち寄ったところだったんだ。お前はラッキーだぞ?この俺に偶然会えたのだから。普段の俺ならほとんどあの教室に行く事は無いからな」

別にこれくらいの事でラッキーだとは言って貰いたくない。何故なら婚約破棄を迫られている今の自分の状況が少しもラッキーだとは思えないからだ。しかもトビーのせいでアルトからの婚約破棄を受け入れてあげる事も出来ない。むしろアンラッキーと言うべきだろう。思わず恨めしそうにトビーを見てしまった。

そんな私の気持が通じたのか、彼が怪訝そうな顔で問いかけて来た。

「何だ?その顔は…随分不満そうだな?」

「不満…?不満しかありませんよ!全部私に丸投げじゃありませんかっ!この間の婚約式だって婚約破棄を阻止しろとかなんとか命令してくるし、バックレろと言った割には協力もしてくれない。大体私とアルトは同じ講義を受講しているんですよ?毎回毎回顔を合わせるんです。いつどこで婚約破棄を迫られるかと思うと生きた心地がしませんよ。とにかく私はアルトに婚約破棄を迫られたら拒否する方法が思いつかないんです。何とか方法を考えて下さいよっ!酷いです、無責任すぎます!男として最低ですっ!」

私は一気にまくしたてた。

「へぇ~…なかなかやるじゃないか」

トビーが何故かニヤリと笑う。

「え?何がですか?」

てっきり怒られると思っていたのに…。

「いや?そんなちっこい身体してるから、言いたい事も何一つ言えなくてそれで婚約者に飽きられてしまったんじゃないかと俺は思っていたんだが…この俺によくそこまで言ったものだ。お前…中々見どころがあるじゃないか?」

トビーは褒めているのか、けなしているのか分からない言葉で私に笑顔を向けた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

輝夜坊

行原荒野
BL
学生の頃、優秀な兄を自分の過失により亡くした加賀見亮次は、その罪悪感に苦しみ、せめてもの贖罪として、兄が憧れていた宇宙に、兄の遺骨を送るための金を貯めながら孤独な日々を送っていた。 ある明るい満月の夜、亮次は近所の竹やぶの中でうずくまる、異国の血が混ざったと思われる小さくて不思議な少年に出逢う。彼は何を訊いても一言も喋らず、身元も判らず、途方に暮れた亮次は、交番に預けて帰ろうとするが、少年は思いがけず、すがるように亮次の手を強く握ってきて――。 ひと言で言うと「ピュアすぎるBL」という感じです。 不遇な環境で育った少年は、色々な意味でとても無垢な子です。その設定上、BLとしては非常にライトなものとなっておりますが、お互いが本当に大好きで、唯一無二の存在で、この上なく純愛な感じのお話になっているかと思います。言葉で伝えられない分、少年は全身で亮次への想いを表し、愛を乞います。人との関係を諦めていた亮次も、いつしかその小さな存在を心から愛おしく思うようになります。その緩やかで優しい変化を楽しんでいただけたらと思います。 タイトルの読みは『かぐやぼう』です。 ※表紙イラストは画像生成AIで作成して加工を加えたものです。

【完結】18年間外の世界を知らなかった僕は魔法大国の王子様に連れ出され愛を知る

にゃーつ
BL
王族の初子が男であることは不吉とされる国ルーチェ。 妃は双子を妊娠したが、初子は男であるルイだった。殺人は最も重い罪とされるルーチェ教に基づき殺すこともできない。そこで、国民には双子の妹ニナ1人が生まれたこととしルイは城の端の部屋に閉じ込め育てられることとなった。 ルイが生まれて丸三年国では飢餓が続き、それがルイのせいであるとルイを責める両親と妹。 その後生まれてくる兄弟たちは男であっても両親に愛される。これ以上両親にも嫌われたくなくてわがまま1つ言わず、ほとんど言葉も発しないまま、外の世界も知らないまま成長していくルイ。 そんなある日、一羽の鳥が部屋の中に入り込んでくる。ルイは初めて出来たその友達にこれまで隠し通してきた胸の内を少しづつ話し始める。 ルイの身も心も限界が近づいた日、その鳥の正体が魔法大国の王子セドリックであることが判明する。さらにセドリックはルイを嫁にもらいたいと言ってきた。 初めて知る外の世界、何度も願った愛されてみたいという願い、自由な日々。 ルイにとって何もかもが新鮮で、しかし不安の大きい日々。 セドリックの大きい愛がルイを包み込む。 魔法大国王子×外の世界を知らない王子 性描写には※をつけております。 表紙は까리さんの画像メーカー使用させていただきました。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

ケットシーの異世界生活

曇天
ファンタジー
猫又 透《ねこまた とおる》は、あるとき目が覚めるとケットシーになって異世界にいた。 トールは女騎士リディオラや王女アシュテアに助けられ異世界生活を送っていく。

処理中です...