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第15話 逃げる私
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私は講義を受けながら前方に座るアルトをじっと見つめていた。
先程、ジュリアさんとリリーさんから聞かされた話が耳にこびりついて離れない。
< つまり、ビクトリアさんはエイミーさんの人気に嫉妬して…婚約者のアルト様に近付いたという訳なんです >
それじゃ…本当はビクトリアさんは始めは私からアルトを奪うつもりで近付いて…それでいつの間にか恋仲に…?
けれど私は首を振った。
「まぁ、可愛らしい…。エイミーさんが首を振ってるわ」
いいえ、きっと違う。アルトは初めから私が婚約者だなんて嫌だったんだ。何故なら私は一度だってアルトから「好き」と言う言葉を貰った事が無いし、ましてやキスなんてした事だってないんだから。
そこで私は頷いた。
「あ、今度はコクコクと頷いたわ。お人形さんみたい」
そうよ。トビーにあそこで会わなければ私は婚約式に出席し、あの場でアルトから婚約破棄を告げられて…甘んじて受け入れようと思っていたのに。けれど今はトビーに脅迫されているので婚約破棄を受け入れて上げることが出来ない。その為に私はアルトを避け続けるしかないのだから。
私は拳を握りしめた。
「まぁっ!今度は小さな手を握りしめたわ」
トビーめ…。見ていらっしゃい。必ず彼を見つけ出して、責任取ってもらうんだから…。
そこで熱い視線を感じ、振り向くとジュリアさんとリリーさんが私をじっと見つめている事に気付いた。
「あ、あの…?」
すると2人は口を揃えて小声で言った。
「「何て可愛いの…」」
****
キーンコーンカーンコーン…
1時限目の講義が終わった。次の講義までは30分の余裕がある。何としてもトビーの居場所を掴まなければ…!
私は急いで片付けを始めた。
「あら?エイミーさん。そんなに慌てて何処へ行くのですか?」
そこへリリーさんが声を掛けてきた。
「え、ええ。これから人を探しに行かなければならないので」
「どなたですか?」
ジュリアさんが尋ねてきた。
「う~ん…ご存知ですか?トビー・ジェラルドさんといって3年生の方なのですが…」
「まぁ?違う学年の方ですか?」
「そうですね…聞いたことがありませんね…」
その時、私はアルトがこちらを見ていることに気がついた。
い、いけないっ!
「す、すみませんっ!わ、私…それでは行きますね!失礼します!」
カバンを抱えると私は逃げるように教室を飛び出した。
ハァハァ言いながら廊下を走っていると、何やら視線を感じる。ふと周りを見渡すと女子学生たちが私を見ている。
「見て、エイミーさんが1人で走っているわ」
「相変わらず可愛らしい…」
「本当…守って上げたくなるわ…」
え?!う、嘘でしょうっ?!
ひょっとして女子学生たちは私をそんな目で見ていたの?!
でも今はそんな視線に構っていられない。
アルトに見つかる前に早くトビーを探し出さなければ…私は破滅だ。
トビーの馬鹿ーっ!
私は心の中で叫ぶのだった―。
先程、ジュリアさんとリリーさんから聞かされた話が耳にこびりついて離れない。
< つまり、ビクトリアさんはエイミーさんの人気に嫉妬して…婚約者のアルト様に近付いたという訳なんです >
それじゃ…本当はビクトリアさんは始めは私からアルトを奪うつもりで近付いて…それでいつの間にか恋仲に…?
けれど私は首を振った。
「まぁ、可愛らしい…。エイミーさんが首を振ってるわ」
いいえ、きっと違う。アルトは初めから私が婚約者だなんて嫌だったんだ。何故なら私は一度だってアルトから「好き」と言う言葉を貰った事が無いし、ましてやキスなんてした事だってないんだから。
そこで私は頷いた。
「あ、今度はコクコクと頷いたわ。お人形さんみたい」
そうよ。トビーにあそこで会わなければ私は婚約式に出席し、あの場でアルトから婚約破棄を告げられて…甘んじて受け入れようと思っていたのに。けれど今はトビーに脅迫されているので婚約破棄を受け入れて上げることが出来ない。その為に私はアルトを避け続けるしかないのだから。
私は拳を握りしめた。
「まぁっ!今度は小さな手を握りしめたわ」
トビーめ…。見ていらっしゃい。必ず彼を見つけ出して、責任取ってもらうんだから…。
そこで熱い視線を感じ、振り向くとジュリアさんとリリーさんが私をじっと見つめている事に気付いた。
「あ、あの…?」
すると2人は口を揃えて小声で言った。
「「何て可愛いの…」」
****
キーンコーンカーンコーン…
1時限目の講義が終わった。次の講義までは30分の余裕がある。何としてもトビーの居場所を掴まなければ…!
私は急いで片付けを始めた。
「あら?エイミーさん。そんなに慌てて何処へ行くのですか?」
そこへリリーさんが声を掛けてきた。
「え、ええ。これから人を探しに行かなければならないので」
「どなたですか?」
ジュリアさんが尋ねてきた。
「う~ん…ご存知ですか?トビー・ジェラルドさんといって3年生の方なのですが…」
「まぁ?違う学年の方ですか?」
「そうですね…聞いたことがありませんね…」
その時、私はアルトがこちらを見ていることに気がついた。
い、いけないっ!
「す、すみませんっ!わ、私…それでは行きますね!失礼します!」
カバンを抱えると私は逃げるように教室を飛び出した。
ハァハァ言いながら廊下を走っていると、何やら視線を感じる。ふと周りを見渡すと女子学生たちが私を見ている。
「見て、エイミーさんが1人で走っているわ」
「相変わらず可愛らしい…」
「本当…守って上げたくなるわ…」
え?!う、嘘でしょうっ?!
ひょっとして女子学生たちは私をそんな目で見ていたの?!
でも今はそんな視線に構っていられない。
アルトに見つかる前に早くトビーを探し出さなければ…私は破滅だ。
トビーの馬鹿ーっ!
私は心の中で叫ぶのだった―。
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