上 下
9 / 38

第9話 父母の帰宅

しおりを挟む
 午後2時―

昼食を食べ終えた私は1人、部屋で読書をしていた。読んでいるのは恋愛小説。薄幸の女性が紆余曲折を得て、愛する人と最後は結ばれるというよくある内容なのであったが…。

「な、何よ…これ…まるで今の私の状況に…しかもヒロインの恋路を邪魔する悪者役に立場がそっくりじゃないの…!」

 小説のヒロインはある偶然でヒーローと出会って恋に落ちるも、彼には既に子供の頃から決められていた婚約者がいた。2人は婚約者の目を盗んで逢瀬を重ねていたが、徐々に婚約式が迫ってくる。ヒロインは罪の意識に苛まれ、別れを告げようとするも拒絶する彼。そしてとうとう婚約式の当日。これが最後の逢瀬だと覚悟を決めていたヒロインだったが、彼は言った。

『僕の愛する女性は君だけだ。婚約式で彼女との婚約破棄を発表するよ。世間から非難は浴びるかもしれないけれど大丈夫だ。僕がなんとしても君を守るから』

「な、何よっ!こ、この酷い小説はっ!」

私は思い切り本をバタンと閉じるとテーブルの上に突っ伏した。そして横目でチラリと閉じた本に視線を移す。
…本当に何て嫌な小説なのだろう?どう考えてもヒーローの婚約者が被害者なのに、この本はあくまでヒロイン目線。婚約者の女性は性格がきつく、ヒロインを虐め続ける嫌な女として描かれている。
だけど、婚約者がいる男性だと分かっていながら逢瀬を続ける事自体が罪なのではないだろうか?それなのにヒロインの行動を注意するだけで、徹底的に悪女として描かれている。そしてそんな性格だからヒーローに嫌われてもしようがない、とでも言わんばかりの内容である。

「だけど…ヒロインの目線から見れば、愛する人との恋路を邪魔する嫌な女と見られてしまうのかしら…」

それでは私もアルトとビクトリアさんから見れば、2人の恋路を邪魔する嫌な女として見られているのかもしれない…。

「ウッ…ウウ…アルトに嫌われる位なら…婚約破棄に応じて…身を引いてもいいのに…」

再び目に涙が浮かぶ。
アルトとの婚約は家同士が決めた政略的な物だったが、私は子供の頃からアルトの事が大好きだった。だから彼の幸せは私の幸せ。婚約破棄を拒んだら、ますます彼に嫌われてしまうだろう。

「うう…あのおっかないトビーさんとあそこで偶然会わなければ、アルトからの婚約破棄を受け入れてあげる事が出来るのに…」


するとその時、ノックの音と共にアネッサの声が聞こえてきた。

「エイミー様!ご主人様と奥様がお帰りになりましたよ!」

「え?!ほ、本当?!ありがとう、アネッサッ!」

扉越しにアネッサに声を掛けると慌ててベッドの中に入った。


そして5分ほど経過した頃…。

コンコン

扉がノックされ、父の声が聞こえてきた。

「エイミー、具合はどうだ?入るぞ」

そしてカチャリと扉が開かれ、父と母が部屋の中に入ってきた―。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母たちの策略で悪役令嬢にされたばかりか、家ごと乗っ取られて奴隷にされた私、神様に拾われました。

しろいるか
恋愛
子爵家の経済支援も含めて婚約した私。でも、気付けばあれこれ難癖をつけられ、悪役令嬢のレッテルを貼られてしまい、婚約破棄。あげく、実家をすべて乗っ取られてしまう。家族は処刑され、私は義母や義妹の奴隷にまで貶められた。そんなある日、伯爵家との婚約が決まったのを機に、不要となった私は神様の生け贄に捧げられてしまう。 でもそこで出会った神様は、とても優しくて──。 どん底まで落とされた少女がただ幸せになって、義母たちが自滅していく物語。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

愛する人の手を取るために

碧水 遥
恋愛
「何が茶会だ、ドレスだ、アクセサリーだ!!そんなちゃらちゃら遊んでいる女など、私に相応しくない!!」  わたくしは……あなたをお支えしてきたつもりでした。でも……必要なかったのですね……。

悪役令嬢のススメ

みおな
恋愛
 乙女ゲームのラノベ版には、必要不可欠な存在、悪役令嬢。  もし、貴女が悪役令嬢の役割を与えられた時、悪役令嬢を全うしますか?  それとも、それに抗いますか?

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。

hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。 義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。 そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。 そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。 一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。 ざまあの回には★がついています。

死にかけ令嬢は二度と戻らない

水空 葵
恋愛
使用人未満の扱いに、日々の暴力。 食事すら満足に口に出来ない毎日を送っていた伯爵令嬢のエリシアは、ついに腕も動かせないほどに衰弱していた。 味方になっていた侍女は全員クビになり、すぐに助けてくれる人はいない状況。 それでもエリシアは諦めなくて、ついに助けを知らせる声が響いた。 けれど、虐めの発覚を恐れた義母によって川に捨てられ、意識を失ってしまうエリシア。 次に目を覚ました時、そこはふかふかのベッドの上で……。 一度は死にかけた令嬢が、家族との縁を切って幸せになるお話。 ※他サイト様でも連載しています

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

処理中です...