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第83話 意外な事実

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 翌朝6時―

私はウィンターと共に厨房に立っていた。

「フンフン~」

鼻歌を歌いながらスープの具材になる野菜を切っていると、隣で玉ねぎの皮を向いているウィンターが声を掛けてきた。

「随分ごきげんですね、ゲルダ様」

「そうかしら?」

「ええ、そうですよ!いつもなら俺1人で朝食の準備をするように言ってくるのに、今朝は何ですか?『ウィンター、1人で食事の用意をするのは大変でしょう?私が手伝って上げるわよ』なんて言いながら厨房に現れてくるのですから」

ウィンターは私の声真似をしながら言う。

「ちょっと、気持ち悪い真似をしないでくれる?人数も増えて忙しくなって大変だろうと思ってわざわざ手伝いに来たっていうのに」

「何言ってるんですか。俺の為じゃないでしょう?手伝いに来たのはあの方のためですよね?ジョシュ…ぐはっ!」

ウィンターが苦痛の声を上げる。

「あら~ごめんなさいね。そんな所に足があるとは思わず、踏みつけてしまったわ」

「ゲ、ゲルダ様…わ、わざとですよね?!」

ウィンターが恨めしそうに私を見る。

「さ、早く次の料理にとりかかるわよ!」

私はお玉を振りかざし、ウィンターに命じた。

「あ!今聞こえないふりしましたねっ?!」

「うるさいわね、さっさと働かないと給料天引きよ!」

「ひっ!そ、それだけは勘弁してくださいっ!」

ウィンターは高速で玉ねぎの皮を再び剥き始めた―。


****


「すごいですね~今朝の料理は何ですか?」

朝食の席に着いたジョシュアさんがテーブルの上に並べられた料理を見て目をみはる。

「あ、これはゲルダさんのお手性のフレンチトーストですね!私、これ大好きなんですよ~」

アネットが嬉しそうに言う。

「ええ、私もこの料理好きです。ほのかな甘みがいいですよね。はちみつをかけても美味しいですし」

ブランカが同意する。

「男の俺でも好きですよ」

「ええ、何枚でもいけそうですね」

ジャンとジェフも同意する。

「…俺も、この料理…大好きですよ」

俊也(ルイス)は感慨深げに皿の上のフレンチトーストを見つめている。…そう言えば俊也は子供の頃、この料理が大好きだったっけ…。するとウィンターが余計なことを口にした。

「この料理、ジョシュアさんの為にゲルダ様が作ったんですぜ」

「「「「「「えっ?」」」」」」

このっ!馬鹿ウィンターめっ!

全員の視線が私に集中する。特に対照的だったのがジョシュアさんと俊也だった。
ジョシュアさんは嬉しそうに私を見ているし、俊也はショックを受けたかのように目を見開いている。その目はこう、語っていた。

『 嘘だよねっ?!母さんっ! 』

「な、何言ってるのよっ!ウィンターッ!いい?この料理はね、牛乳も卵もバターも砂糖も使われていて、とっても栄養価が高いのよ?皆これから働くのだから、朝はこういったメニューが最高なんだから!その為に作ったのよ。さぁ、皆、冷めないうちに頂きましょう!」

「ええ、そうですね。早速頂きましょう」

ジョシュアさんが笑顔で言う。

そして賑やかな朝食が始まった―。


****

 朝食も終わり、皆がそれぞれの持ち場へ去った後。

ダイニングルームに残った私とジョシュアさんは賃貸契約書を交わしていた。

「…はい、それでは毎月の家賃は食費込で10万シリルということで承りました」

書類にサインしながら私は言う。

「…ですが、本当にこんな食付きで、格安で住まわせて頂いて宜しいのですか?しかも食費も混みで…」

ジョシュアさんが申し訳無さそうに言う。

「ええ、いいんですよ。このシェアハウスはまだ稼働したばかりで色々ご不便をおかけするかもしれませんから」

「ですが…」

「大丈夫ですってば。私の本業は別にシェアハウスではありませんので。他にも収入源があるからジョシュアさんは何も気にしないで下さい」

「そうですか…?申し訳ありません。それでは私はそろそろ仕事に行きますね」

ジョシュアさんが鞄を持つと立ち上がった。

「あ、お店にいかれるのですね?」

「いえ、今日はノイマン伯爵家に行くのですよ。近々あの屋敷は売りに出されるので、家財道具の査定を頼まれたのですよ」

「え?!」

ノイマン家の屋敷が売りに出される…?

私はその話に息を呑んだ―。


 
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