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第73話 思い浮かんだ顔は
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翌朝―
鳥のさえずり声で私はふと目が覚めた。カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいる。
「う~ん…よく寝た…」
ベッドから体を起こし、おもいきり伸びをしながら部屋の壁時計を見ると時刻は6時半を指していた。
「どれ、ウィンターは厨房で仕事をしているかしらね?」
昨夜は遅くまで彼を付き合わせてしまった。恐らくまだ疲れが残っているだろうから私も厨房の仕事を手伝ってあげよう。
そしてベッドから下りると着替えを始めた―。
「な、何で俊也が料理を作っているのよっ?!」
厨房へやってきた私はそこに俊也の姿を見て驚いてしまった。本来ならウィンターが厨房担当のはずなのに、ここ、シェアハウスの入居者である俊也が料理を作っているなんて…!
「あ、おはよう。母さん」
俊也は鍋の中にお玉を入れて、ぐるぐる混ぜながら私を見て笑顔を向けてきた。
「ええ。おはよう…じゃなくて!ど、どうしてここにいるのよ?貴方はこれから郵便局で仕事でしょう?ウィンターはどうしたのっ?!」
「ああ、彼なら昨夜の疲れが相当溜まっていたのかな?いくらドアをノックしても起きてこないから、今朝は俺が料理を作ることにしたんだよ。スープとパン、ゆで卵にハムでいいかな?」
「え、ええ…それで構わないど…。俊也、後は私がやるから休んでいなさい。郵便局の仕事は大変なんでしょう?」
無理やり俊也の背中を押して椅子に座らせると厨房に立ち、料理の続きを始めた。
「うん、まぁ確かに郵便局の仕事は大変といえば大変かなぁ…手紙の仕分けなら軽くていいけど、荷物の仕分けと配達は重労働だからね」
「しかも自分で馬車に乗って配達しなければならないのでしょう?御者台に屋根すら無いような馬車で…。でもね…ひょっとするとこれからの郵便業界は変わっていくかもしれないわよ…?」
料理を作りながら俊也に言う。
「え?変わる…?」
俊也が首を傾げる。
「ええ、そうよ。これは私の勘だけどね」
言いながら私はスープの味見をした―。
****
シェアハウスの朝食時間は7時からと決めてある。そしてこの時間に起きてこなければ朝食は抜き、と言う決まりがあった。そして当然彼らはその決まりを集まるために食卓に集まっていたのだが…。
「おはよう、皆。…1人、でも足りないわね」
空いている席を見ながら私は言う。
「ええ、そうです。ウィンターがいません。この部屋へ向かう時、ウィンターの部屋の前を通りかかった時に大きないびきが聞こえていましたから」
ジェフが答えた。
「ゲルダさん、もうウィンターのことは放っておいて食事にしましょうよ」
アネットの言葉にブランカとジャンが頷く。
「ええ、そうね…そうしましょう。しかもウィンターは厨房担当なのに、料理すら作らずに眠っているのだから、それじゃ頂きましょう」
「「「「「いただきます」」」」」
私の言葉にその場にいる全員が手を合せ、食事が始まった―。
****
朝食を食べ終えても未だにウィンターは起きてくる気配は無かった。
「全く、ウィンターの奴め…。こんなんじゃ給料も支払いたくないわね。本当に追い出してやろうかしら」
食器を洗っていると、隣で手伝っていたアネットが賛同してきた。
「ええ、本当にそのとおりですよ!全くルイスさんとは大違いだわ」
「アネット…。貴女相当ルイスの事気に入ったんじゃないの?」
「え?え?分かります?」
アネットが頬を赤らめながら言う。
「それは見れば分かるわよ。でも本当に真面目な青年よ。いいんじゃないかしら?」
「ゲルダさん…前も聞きましたけど、ルイスさんの事…」
「だから、前にも言ったじゃない。私とルイスは恋仲になんかなるような感情持っていないって。それに私はね、うんと年上の中年男性がタイプなのよ」
言いながら、私の脳裏にジョシュアさんの顔が浮かんだのは言うまでも無かった―。
鳥のさえずり声で私はふと目が覚めた。カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいる。
「う~ん…よく寝た…」
ベッドから体を起こし、おもいきり伸びをしながら部屋の壁時計を見ると時刻は6時半を指していた。
「どれ、ウィンターは厨房で仕事をしているかしらね?」
昨夜は遅くまで彼を付き合わせてしまった。恐らくまだ疲れが残っているだろうから私も厨房の仕事を手伝ってあげよう。
そしてベッドから下りると着替えを始めた―。
「な、何で俊也が料理を作っているのよっ?!」
厨房へやってきた私はそこに俊也の姿を見て驚いてしまった。本来ならウィンターが厨房担当のはずなのに、ここ、シェアハウスの入居者である俊也が料理を作っているなんて…!
「あ、おはよう。母さん」
俊也は鍋の中にお玉を入れて、ぐるぐる混ぜながら私を見て笑顔を向けてきた。
「ええ。おはよう…じゃなくて!ど、どうしてここにいるのよ?貴方はこれから郵便局で仕事でしょう?ウィンターはどうしたのっ?!」
「ああ、彼なら昨夜の疲れが相当溜まっていたのかな?いくらドアをノックしても起きてこないから、今朝は俺が料理を作ることにしたんだよ。スープとパン、ゆで卵にハムでいいかな?」
「え、ええ…それで構わないど…。俊也、後は私がやるから休んでいなさい。郵便局の仕事は大変なんでしょう?」
無理やり俊也の背中を押して椅子に座らせると厨房に立ち、料理の続きを始めた。
「うん、まぁ確かに郵便局の仕事は大変といえば大変かなぁ…手紙の仕分けなら軽くていいけど、荷物の仕分けと配達は重労働だからね」
「しかも自分で馬車に乗って配達しなければならないのでしょう?御者台に屋根すら無いような馬車で…。でもね…ひょっとするとこれからの郵便業界は変わっていくかもしれないわよ…?」
料理を作りながら俊也に言う。
「え?変わる…?」
俊也が首を傾げる。
「ええ、そうよ。これは私の勘だけどね」
言いながら私はスープの味見をした―。
****
シェアハウスの朝食時間は7時からと決めてある。そしてこの時間に起きてこなければ朝食は抜き、と言う決まりがあった。そして当然彼らはその決まりを集まるために食卓に集まっていたのだが…。
「おはよう、皆。…1人、でも足りないわね」
空いている席を見ながら私は言う。
「ええ、そうです。ウィンターがいません。この部屋へ向かう時、ウィンターの部屋の前を通りかかった時に大きないびきが聞こえていましたから」
ジェフが答えた。
「ゲルダさん、もうウィンターのことは放っておいて食事にしましょうよ」
アネットの言葉にブランカとジャンが頷く。
「ええ、そうね…そうしましょう。しかもウィンターは厨房担当なのに、料理すら作らずに眠っているのだから、それじゃ頂きましょう」
「「「「「いただきます」」」」」
私の言葉にその場にいる全員が手を合せ、食事が始まった―。
****
朝食を食べ終えても未だにウィンターは起きてくる気配は無かった。
「全く、ウィンターの奴め…。こんなんじゃ給料も支払いたくないわね。本当に追い出してやろうかしら」
食器を洗っていると、隣で手伝っていたアネットが賛同してきた。
「ええ、本当にそのとおりですよ!全くルイスさんとは大違いだわ」
「アネット…。貴女相当ルイスの事気に入ったんじゃないの?」
「え?え?分かります?」
アネットが頬を赤らめながら言う。
「それは見れば分かるわよ。でも本当に真面目な青年よ。いいんじゃないかしら?」
「ゲルダさん…前も聞きましたけど、ルイスさんの事…」
「だから、前にも言ったじゃない。私とルイスは恋仲になんかなるような感情持っていないって。それに私はね、うんと年上の中年男性がタイプなのよ」
言いながら、私の脳裏にジョシュアさんの顔が浮かんだのは言うまでも無かった―。
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