64 / 100
第64話 本日限りのビューティーアドバイザー
しおりを挟む
コンコン
扉をノックすると機嫌が悪そうな声が聞こえた。
「誰よ」
「私です、本日ベロニカ様の専属メイドになったゲーテルです」
先程ノイマン家で咄嗟に使用した偽名を名乗る。背後でウィンターが「え?ゲーテル?」と訝しんでいるが、そこは無視だ。
「…お入り」
無愛想な声で許可を貰ったので、私は扉を開けた。
「はい、失礼致します」
カチャリ…
部屋の中に入ると、何やら機嫌の悪そうな様子を隠しもしないベロニカがイライラしながら爪にヤスリをかけていた。
「どうかしましたか?」
近付いていく私、そしてさりげなくついてくるウィンター。
「どうもこうもないわよ。さっきあんたが出ていった後に別のメイドに化粧と爪の手入れを頼んだら…本当にヘッタクソで、爪の先が少し掛けてヒビが入ってしまったのよ?!全く使えないったら…!」
「へ、ヘッタクソって…」
背後ではショックを受けたかのようなウィンターの声が聞こえる。
「どれどれ…私に見せて下さいな」
「え?ええ…いいけど?」
ベロニカは爪を私の前に差し出した。成程、確かに右手人指の爪の先端からヒビが入っている。
「成程、確かにヒビが入っていますね…これは少し危ないので、コーティングを兼ねてマニュキュアをしてみましょうか?」
「え?まぁ…別にいいけどね」
この世界にもマニュキュアは存在している。しかし、ファッションで塗ると言うよりは、爪を保護する意味合いで塗るのだが…私の場合は違う。何しろ前世では副業で一時、ネイルサロンで働いていたことがあるのだから。
「ベロニカ様、マニュキュアはどちらにありますか?」
「ええ、そこのドレッサーに置いてあるわ」
ベロニカがぞんざいに顎で示した先には豪華なドレッサーが置かれていた。真っ白な大きな猫脚の三面鏡。正面に置かれた背もたれ付きの椅子は背中部分と座面に白い革張りのクッション付きである。
「ではマニュキュアを取って参りますね」
言いながら私は、ぼ~っと突っ立っているウィンターに目配せした。
< さっさと黄色いスカーフを探し出しなさいよ! >
すると、私の気持ちが通じたのか、ウィンターが慌てた様子で部屋の角に移動して、あちこ物色を始めた。よしよし…ウィンター。必ず黄色いスカーフを見つけ出すのよ。もし見つけられなければこの屋敷に置き去りの刑だからね。
「お待たせ致しました」
ドレッサーから何種類かの色のマニュキュを持ってくると早速ベロニカに見せた。
「あら?何でこんなに色々持ってきたの?」
「ええ。少しマニュキュアを爪を保護する目的ではなく、ファッション感覚で塗らせて頂こうかと思いまして」
「あら、そんな事が出来るの?」
ファッションと言う言葉でベロニカは食いついてきた。
「ええ、それでは早速塗らせていただきますね」
そして私は早速ベロニカにネイルサロン仕込の施術を開始した―。
****
塗り始めて40分後―
「まぁ!綺麗…何て素敵なのっ?!」
「フフフ…どうですか?白をベースカラーに爪の表面に青いマニュキュアで花柄模様を描いてみました」
塗り終えたマニュキュアを片付けながら私は言う。
「もう最高よっ!この爪を見せれば私は間違いなく社交界の人気者だわっ!もう私の事を馬鹿にする人間なんかいなくなるわよっ!」
鼻息を荒くしながらベロニカは言う。
「お気に召されたようで光栄です」
言いながらチラリと部屋の隅に立っているウィンターを見ると、ニヤリと笑って黄色いスカーフを私に見せてきた。よし、今回は役立ってくれたようだ。…それにしてもベロニカは社交界で馬鹿にされているとは知らなかった。やはり、所詮高級娼婦上がリの女。貴族女性の目はごまかせなかったということだろう。
「決めたわッ!今日からお前は私の専属メイドではなく、ビューティーアドバイザーになってもらうわっ!」
ビシッと私を指さしながら、ベロニカは言う。
「光栄です、謹んでお受け致します」
私はニッコリ笑うと頭を下げた。
ただし、本日限りだけどね…。
何しろ、今夜ベロニカはラファエル共々自滅してもらうのだから―。
扉をノックすると機嫌が悪そうな声が聞こえた。
「誰よ」
「私です、本日ベロニカ様の専属メイドになったゲーテルです」
先程ノイマン家で咄嗟に使用した偽名を名乗る。背後でウィンターが「え?ゲーテル?」と訝しんでいるが、そこは無視だ。
「…お入り」
無愛想な声で許可を貰ったので、私は扉を開けた。
「はい、失礼致します」
カチャリ…
部屋の中に入ると、何やら機嫌の悪そうな様子を隠しもしないベロニカがイライラしながら爪にヤスリをかけていた。
「どうかしましたか?」
近付いていく私、そしてさりげなくついてくるウィンター。
「どうもこうもないわよ。さっきあんたが出ていった後に別のメイドに化粧と爪の手入れを頼んだら…本当にヘッタクソで、爪の先が少し掛けてヒビが入ってしまったのよ?!全く使えないったら…!」
「へ、ヘッタクソって…」
背後ではショックを受けたかのようなウィンターの声が聞こえる。
「どれどれ…私に見せて下さいな」
「え?ええ…いいけど?」
ベロニカは爪を私の前に差し出した。成程、確かに右手人指の爪の先端からヒビが入っている。
「成程、確かにヒビが入っていますね…これは少し危ないので、コーティングを兼ねてマニュキュアをしてみましょうか?」
「え?まぁ…別にいいけどね」
この世界にもマニュキュアは存在している。しかし、ファッションで塗ると言うよりは、爪を保護する意味合いで塗るのだが…私の場合は違う。何しろ前世では副業で一時、ネイルサロンで働いていたことがあるのだから。
「ベロニカ様、マニュキュアはどちらにありますか?」
「ええ、そこのドレッサーに置いてあるわ」
ベロニカがぞんざいに顎で示した先には豪華なドレッサーが置かれていた。真っ白な大きな猫脚の三面鏡。正面に置かれた背もたれ付きの椅子は背中部分と座面に白い革張りのクッション付きである。
「ではマニュキュアを取って参りますね」
言いながら私は、ぼ~っと突っ立っているウィンターに目配せした。
< さっさと黄色いスカーフを探し出しなさいよ! >
すると、私の気持ちが通じたのか、ウィンターが慌てた様子で部屋の角に移動して、あちこ物色を始めた。よしよし…ウィンター。必ず黄色いスカーフを見つけ出すのよ。もし見つけられなければこの屋敷に置き去りの刑だからね。
「お待たせ致しました」
ドレッサーから何種類かの色のマニュキュを持ってくると早速ベロニカに見せた。
「あら?何でこんなに色々持ってきたの?」
「ええ。少しマニュキュアを爪を保護する目的ではなく、ファッション感覚で塗らせて頂こうかと思いまして」
「あら、そんな事が出来るの?」
ファッションと言う言葉でベロニカは食いついてきた。
「ええ、それでは早速塗らせていただきますね」
そして私は早速ベロニカにネイルサロン仕込の施術を開始した―。
****
塗り始めて40分後―
「まぁ!綺麗…何て素敵なのっ?!」
「フフフ…どうですか?白をベースカラーに爪の表面に青いマニュキュアで花柄模様を描いてみました」
塗り終えたマニュキュアを片付けながら私は言う。
「もう最高よっ!この爪を見せれば私は間違いなく社交界の人気者だわっ!もう私の事を馬鹿にする人間なんかいなくなるわよっ!」
鼻息を荒くしながらベロニカは言う。
「お気に召されたようで光栄です」
言いながらチラリと部屋の隅に立っているウィンターを見ると、ニヤリと笑って黄色いスカーフを私に見せてきた。よし、今回は役立ってくれたようだ。…それにしてもベロニカは社交界で馬鹿にされているとは知らなかった。やはり、所詮高級娼婦上がリの女。貴族女性の目はごまかせなかったということだろう。
「決めたわッ!今日からお前は私の専属メイドではなく、ビューティーアドバイザーになってもらうわっ!」
ビシッと私を指さしながら、ベロニカは言う。
「光栄です、謹んでお受け致します」
私はニッコリ笑うと頭を下げた。
ただし、本日限りだけどね…。
何しろ、今夜ベロニカはラファエル共々自滅してもらうのだから―。
25
お気に入りに追加
3,505
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる