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第54話 口が悪い女

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 メイドの後をついてどこまでも続く長い廊下を歩いていくと、ある扉の前でピタリと足を止めた。その扉だけは明らかに違っていた。真っ白な木の扉に薔薇模様が描かれているのである。

「ここが奥様のお部屋だよ。失礼の無いようにね。余計な真似はせずにお花だけ指してくればいいからね」

「え?は、はい…」

本当に?それだけで良いのだろうか?普通メイドという者は様々な仕事をこなさなければならないのに…?

「それじゃ、私は行くからね。後はうまく立ち回って頂戴」

メイドはそれだけ言い残すと、さっさとその場を急ぎ足で立ち去ってしまった。

「もう、一体何なのよ…?」

花束を抱えながらぼやいた。何故花だけ差して来い等と言うのだろう?しかもうまく立ち回れ?ますます訳がわからない。でも…これはある意味、私に取っては千載一遇のチャンスでもある。元々はこの屋敷に潜入しているブランカを探し出してベロニカの事を聞きだそうと思っていたのだから。

「本人に尋ねるのが一番よね…」

私は深呼吸すると扉をノックした。


コンコン

「…」

しかし、中から返事は無い。

「おかしいわね…?」

コンコン

もう一度ノックをしてみるも中からは何の反応も無い。

「勝手に部屋の中へ入ってもいいのかしら…?」

コンコン

為しに最期にもう一度ノックをしてみるも無反応のままである。こんなにノックをしても出ないのだから、不在なのかもしれない。…部屋にいてくれれば話をする事が出来たのに…仕方ない。花だけ花瓶に差したらすぐに退散しよう。

「失礼致します…」

扉を開けた途端…。

シュッ!

あろう事か、クッションが私目指して飛んできたのである。

「え?!な、何っ?!」

驚いて避けるとクッションは開け放されていた廊下へ飛んでいく。そして目の前にはこちらを睨みつけている美女が1人…と言うか、何をそれ程までに怒っているのか眉を吊り上げている姿は流石の私でも少々恐怖を感じる。

「あ、あの…奥様…」

恐る恐る声を掛けると、途端に罵声を浴びせられた。

「この阿呆メイドッ!私は朝が苦手だから目が覚めるまでは起こすなって何度も言ってるでしょうっ?!私の睡眠を妨害するなんて…。このクズッ!ボケッ!クソメイドッ!」

ええっ?!ノックをしただけでこれ程までに怒鳴られるとは…っ!しかもこの人は仮にも侯爵夫人では?!なのに何て下品な言葉遣いをするのだろう。驚きのあまり言葉を失ってしまった。

「ちょっと!お前っ!人の話を聞いているのっ?!物覚えが悪い上に耳まで悪いのかしらっ?!」

金切り声で喚く声がうるさくてたまらない。するとそこへ先程のメイドがこちらへ走って来ると言った。

「これは大変申し訳ございませんでした。このメイドは新人メイドでして気を利かせて奥様のお部屋のお花を取り替えに参ったのです。私の説明不足で奥様の安眠を妨げてしまい、大変申し訳ございません」

言いながら頭を下げるメイド。そして私まで無理やり頭を押さえつけられて頭をさげる羽目になってしまった。

「フンッ!なら仕方ないわね…ちゃん新人教育ぐらいしておきなさい!」

すると、このメイドが言った。

「奥様、お目覚めになられたついでですからこのまま本日は起きてるというのはいかがでしょうか?実は旦那様がそろそろお戻りになるお時間が迫っておりますので」

「えっ?!もうあの人が帰ってくるのっ?!」

ベロニカが声を上げる…が、どう見てもその姿は待ち望んでいたような姿には見えない。

「チッ…仕方ないわね…起きて出迎えの準備をしなくてはならないって事ね…」

え?今舌打ちした?侯爵夫人なのに…?!有り得ないっ!本当にラファエルはこの女と不倫関係にあったのだろうか?

「…何よ、お前」

するとベロニカが私の視線に気付いたのか、ジロリと睨みつけて来た。

「い、いえ。何でもありません」

慌てて答えると、ベロニカは面白そうに言った。

「ふ~ん…よし、決めたわ。そこのメイド、今日は私のお世話係をやりなさい」

そしてベロニカは意地悪そうな笑みを浮かべて私を見た―。





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