旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

第37話 ウィンターへの指令

「ウィンターはいるかしら？」

厨房へ行ってみるとウィンターは食器洗いをサボってタバコを吸っていた。

「ああっ！ウィンター！何やってんのよっ！神聖な厨房でっ！」

私が大声を上げると、ウィンターは慌てて咥えていたタバコを口から離し、灰皿に押し付けた。

「な、な、何ですか！驚かさないでくださいよ！」

ウィンターはタバコの煙を手でバタバタと仰ぎながら言う。

「ウィンター！貴方またタバコ吸っていたのねっ？！ラファエルから言われていたでしょう？タバコ臭くなるから禁煙しろって！」

「うぐっ！」

ウィンターは恨めしそうにアネットを睨みつけたが…流石に言い返せずに黙っている。

「ウィンター。貴方…タバコ吸っていたのね。そう言えば何となく独特な匂いがすると思っていたけど…それはタバコの匂いだったのね？あのね、貴方はもう料理人という役割を与えられたのよ。だから禁煙しなさい！」

「ええっ！そ、そんなっ！」

ウィンターは悲鳴を上げた。

「いい？タバコっていうのはね、吸いすぎると味覚を狂わせるのよ。仮にも貴方はこれから開業する『シェアハウス』で料理人という役目を与えられたのだから、絶対に金輪際禁煙よ！もしこれが守れないなら…」

「ま、守れない…なら…？」

ウィンターは震えながら尋ねる。

「ノイマン家で一生タダ働きしなさい」

「そ、それだけは勘弁して下さいっ！します！禁煙しますから！」

ウィンターは私に土下座してきた。

「…宜しい。ではさっさと食器洗いを済ませなさい！そしたらすぐにノイマン家へ戻るのよ！。その前に打ち合わせしたいことがあるから、今ジャンとジェフを呼んでくるわね」

そしてアネットに言った。

「アネット」

「はい、ゲルダさん」

「ウィンターが仕事をサボらないように見張っていて頂戴」

「了解ですっ」

アネットは嬉しそうに返事をした―。



＊＊＊＊

　ジャンとジェフは屋敷の修繕作業をしていた。中庭で木材をのこぎりで切っている２人の元へ行く。

「ジャン、ジェフ」

「はい、ゲルダ様」

「何でしょうか？」

ジャンとジェフが返事をした。

「あのね、あなた達２人にお願いしたいことがあるのよ。勿論その分の手当は２割増しよ」

「いいでしょう」

ジャンがのこぎりを地面に下ろした。

「お話伺いますよ」

ジェフは木材をカランと地面に落した。この２人…お金さえ払えば私の依頼はどんな事でも引き受けてくれる。尤も私自身、無謀な依頼は決してしない。

「実はね…」

私は２人にお願いしたい依頼内容を説明した―。


＊＊＊＊


「ウィンター。食器洗いは終わったかしら？」

ジェフとジャンを連れて厨房へ戻るとアネットが答えた。

「はい、ちょうど今終わったところですよ」

そこには綺麗に洗い終わった食器が水切りカゴにいれてある。そして恨めしそうな目でアネットを見ているウィンターが流しの側に立っていた。

「ご苦労さま、ウィンター。それじゃ早速ノイマン家へ行ってもらうわ」

「ええっ？！今から行くんですかいっ？！少しくらい休ませて下さいよ！」

「駄目よ！今何時だと思っているの？！もうすぐ１０時になるのよ！」

厨房の時計を指さしながら言った。

「ううう…鬼だ、悪魔だ。人でなしだ…」

「ウィンター。…全て聞こえているけど？」

「…」

私の言葉に黙るウィンター。

「それじゃ説明するわね」

私はウィンターにジャン、ジェフの順に見渡すと言った。

「ウィンター。貴方は今日からノイマン家で使用人として潜入するのよ。そして愛人がまだラファエルの元へ通っていないか調べてちょうだい。それにノイマン家の様子もね。毎晩９時にジャンとジェフを交代でノイマン家に行かせるから、貴方の知っている情報を全て彼等に伝えるのよ？それでここからが一番肝心な事よ」

「全く面倒くさい…」

「仕方ない、金の為だ」

ジャンとジェフが文句を言っているが、聞こえないふりをした。

一方、ウィンターはこれから何をさせられるのか不安なのだろう。震えながら尋ねてきた。

「お、俺は何をすればいいんです？」

「もしラファエルが愛人と別れていたら…もう一度よりを戻すように説得してちょうだい！」

「そ、そんな無茶なっ！」

ウィンターが悲鳴をあげた―。