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第20話 離婚…認めてくれますよね?

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「この書類を御覧下さい」

茶封筒から1枚の書類を取り出すと、2人のテーブルの前に置いた。2人は互いに顔を近づけ書類に目を通すと声を上げた。

「こ、これは…っ!」

「な、何と言う事だ!」

父と祖父が私の思惑通りに?身体をのけぞらせて驚いた。

「ゲルダッ!この書面は…本物なのか?」

父は書類を手に取ると言った。

「はい。そうです。勿論本物です。その書類に押されている印章は間違いなくモンド伯爵家の物です。すでに印章指輪も預かっております」

ボストンバックから指輪ケースを取り出すと、蓋を開けた。中にはモンド家の家紋を記した指輪が入っている。この指輪はモンド夫人から爵位を買い取りした際に一緒に譲り受けたものだ。

「モンド伯爵家の事は御存じですよね?かれこれ400年近く続く由緒正しい伯爵家です。ただお気の毒な事にモンド夫人は子供に恵まれませんでした。夫を亡くした後は再婚もせずに今まで過ごしてこられましたが、夫人もお年を召されて屋敷の管理も家紋を守るのも難しくなってまいりました。それで兼ねてより屋敷も爵位も手放したいと考えておられたのでこの際私がノイマン家の預貯金全額を引きだした4億5千万シリルで爵位と屋敷を買い取りさせて頂いたのです」

すると私の言葉に父が顔色を変えた。

「な、何っ?!4億5千万シリルだとっ?!」

「は、はい…」

しまった!お金を使い過ぎてしまっただろうか?しかし…。

「たったそれだけの金額しか払わなかったのか?!それでは我がブルーム家の名折れではないかっ!」

ええっ?!そ、そうなの?!

「そうだ!ゲルダ。何故それだけしか支払わなかったのだ?」

祖父までもが机をバシンと叩きながら言う。

「あの…それがノイマン家にあるお金がそれだけしか残されていなかったので…」

恐る恐る言うと、今度は父が両手でバンバン机を叩きながら悔しそうに言った。

「何だとっ?!贅沢せずに普通に暮らしていれば10億シリルは貯められているはずなのに…?!」

ダンッ!!

父が拳でテーブルを叩きつけた。

ピシッ!

ひえええっ!い、今、はずみでガラス製のテーブルにヒビが入ったよ!

「くっそ~っ!!ノイマン家の奴らめ!よくも我らの金を湯水のように無駄に使いおって…!ゆ、許せんっ!しかし、とにかくたった4億5千万シリルしか払っていないとなると我らの面目が丸つぶれだ。夜が明けたら追加金5億シリルを持ってモンド婦人の所へ赴かねば!」

祖父が青筋を立てながら怒り猛っている。フフフ…きっとこの様子だとラファエルとの離婚…認めてくれるに違いない。

「あの…それならラファエルとの離婚…認めてくれますよね?」

揉み手をしながら2人に尋ねてみた。

「ああ、いいぞ認めてやろう」

父が腕組みしながら言う。

「そうだな。お前もラファエルの顔に飽きたようだし…」

「お、お祖父様…それは言わないで下さいよ…」

くぅ~っ!一生の不覚!しかし、次の瞬間私は固まることになる。

「ただし、離婚後はこの屋敷には帰ってきてはならんぞ」

祖父が笑みを浮かべながら言う。

「へ?あ、あの…冗談ですよね?」

「いいや、当然の事だな。出戻りの娘を受け入れてやるほど我々は甘くない」

父の言葉に私はこの世界の一般常識を思い出した。そうだった…!この世界では一度結婚したら、死ぬまで生涯をともにするのが普通。離婚は恥とされ、実家に出戻りなどとんでもない…それがこの世界の常識だったのだ。つまり、それが嫌なら一生添い遂げろよ、という事なのである。

「そ、そんな…冗談ですよね?」

恐る恐る父と祖父、両方の顔を見つめる。

「いや、冗談ではない」

「そうそう、至って大真面目だ」

父と祖父が交互に言う。

「えええっ!そ、そんなあんまりです!私がいなければモンド伯爵婦人から爵位を買えなかったのですよ?!」

酷いっ!鬼だっ!

「安心しろ、親子の縁は切らないでやるから」

「ああ、だからそれに免じてお前が買い取った屋敷はお前に譲ろう。そこに住めば良いじゃないか」

父についで、祖父が言った。

「それは屋敷を譲って貰うのは有り難いですが、あんな大きな屋敷に私1人で住むなんて…ん?」

その時、私の頭の中に前世で培った知識が閃いた。そうよ!画期的な有効利用法があったじゃないのっ!

私が笑みを浮かべるのを見て祖父が言った。

「ゲルダ、早速何か閃いたのだな?」

「ええ、勿論です。見ていてください?ラファエルと離婚後の私の活躍を!」

私は自分の胸をドンと叩くと言った。

「よしよし、ゲルダよ。半年見ない間に随分性格が変わったようだが、頼もしくなったな。今のお前のほうがずっと良いぞ?」

父がニヤリと笑って私を見た。

「はい、お父様。私はもう生まれ変わったのです。今から離婚後の生活が楽しみです」

よし、夜が明けたら早速離婚届を役所に取りに行くのだ。


フフフ…これから面白い事になりそうだ―。


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