上 下
17 / 100

第17話 金の亡者共

しおりを挟む
「オ…」

義母の言葉に首を傾げる。オ?一体どうしたのだろう。すると…

「オーホッホッホッホッホッ…!!」

義母が突然高笑いした。大変だ!ついにイカれてしまたったのか?

「お、おい!どうしたんだ!」
「母さん!しっかり!」
「キャアッ!お、おばさま!」

高笑いが止まらない義母を3人が囲んで大騒ぎしている。そして未だに笑いが止まらない義母を前に義父がギラリと私を睨みつけると言った。

「おい!ゲルダッ!お前のせいで妻がおかしくなった!責任を取れっ!慰謝料だ!慰謝料5億シリルを請求するぞ!」

言ってることがメチャクチャだ。

「は?何故私がそんな物支払わなくちゃならないのです?」

「オーホッホッホッホッホッ…!!」

義母のけたたましい笑い声は止まらない。耳障りでしょうがない。

「母さん!気を確かに!」
「ええ、おばさま!正気に戻って下さい!」

「ゲルダ!早く慰謝料をよこせ!」

甲高い笑い声に3人の叫び声が部屋の中に響き渡る。うるさくてたまらない。気づけばジェフはとっくにいなくなっている。…恐らく恐怖のあまり逃げたのだろう。
もう我慢の限界だ。机の上に置いておいた読みかけの新聞をくるくる丸めて筒状にすると、口を当てて思い切り怒鳴った。

「うるさーいっ!!」

すると…ピタリと3人は静かになった。何とあの狂ったように笑っていた義母までも。そして義母は私をビシッと指差すと言った。

「笑わせないで頂戴!ゲルダッ!!」

あ…何だ。別に義母は頭がおかしくなったわけでは無かったのか?

「お、おい?お前…平気なのか?」
「母さん、頭が狂ったわけじゃなかったんだね?」
「おばさま…心配掛けさせないで下さい」

義母を囲んで語りかける3人を尻目に私はボストンバッグに重要書類を詰め込んでいるとラファエルが声を掛けてきた。

「おい?ゲルダ。お前、本気で今から出掛けるつもりなのか?!」

「ええ、そうですよ。だから早く出て行って下さい」

ボストンバッグの蓋をパチンパチンと止めながらラファエルの顔も見ずに返事をする。

「待て!勝手に行かせないぞ!」

義父が睨みつけてきた。

「ええ、そうよ!お前がお金を置いていくまでは出ていくものですか!」

義母は腰に両腕を当てて私を見ている。

「分かりましたよ…置いていけばいいんでしょう?」

全く、はた迷惑な…。この3人、まるで子供だ。駄々っ子と何ら変わりない。唯一黙っているアネットがまともに見えてくるほどだ。こんな奴らに本来ならビタ一文払ってやりたくはないが、お金を渡さなければ梃子でも動かなそうだ。しかし…お金を置いていけと言われても、ノイマン家の現在の銀行口座の預貯金はゼロ。彼等は金遣いが荒いから私はあまり屋敷に現金を置かないようにしていたのだ。

「あ、そうだ」

思い出した。
お金ならあるじゃないの。

私はおもむろにポケットから小銭入れを取り出し、パチンとがま口を開くとテーブルの上にジャラジャラと無造作にお金を置いた。

「…何だ?これは…?」

義父がテーブルの上に置かれた小銭を見て忌々しげに言う。

「見て分かりませんか?お金ですよ。え~と…全部で4852シリルあります。どうぞ受け取って下さい」

どうよ?お金は置いたのだから文句はないでしょう?私は呆気に取られている4人をグルリと見渡した。

「は?ふざけないで頂戴!こんなはした金、お金のうちに入らないのよ!」

一度も働いたことがないくせに、何とも罰当たりな台詞を言う義母に苛立ちが募る。

「ああ!そうだ!たったこれっぽっちで何が出来るというのだ!」

「おい、ゲルダ。冗談はその顔だけにしておけ」

ラファエルはどさくさに紛れて失礼なことを言う。

「あ…そうですか。ならどうぞこのままここにいてください。私は出ていきますから。」

「「「は…?」」」

3人の声が見事にハモる。そうだ、彼等が出ていかないのならこの部屋に残して私がさっさと出ていけばいいのだ。部屋にある重要書類は全て手持ちのバッグの中に入っているし、アクセサリーの入った金庫も隠してある。鍵は私が持っているので決して彼等に見つかることは無いだろう。

呆気にとられている彼等の前を素通りしようとすると、我に返ったラファエルが呼び止めてきた。

「おい?何処へ行く気だ?やはり頭がイカれてしまったんだな?こんな夜更けに外に出ていこうとするなんて…。これでも俺はお前の夫だからな?とにかく落ち着け、落ち着くんだ。今のお前は頭が一時的におかしくなっているだけなんだ。深呼吸でもして落ち着けば絶対に金の在処を思い出せるはずだ」

落ち着けを連呼するラファエル。いや、むしろ落ち着くのは自分の方ではないだろうか?

「そうだ、ゲルダ。落ち着いて金の在処を思い出せ」

阿呆義父までクズ息子と似たような事を言う。

「そうよ!だったら…こっちは所在場所を知っておく必要があるわ。ゲルダ!何処へ行くのか正直に言いなさい!」

義母は眉間にシワを寄せてこちらを睨みつけている。

「分かりましたよ…実家です。お金の相談で実家へ行くんですよ」

そう、ノイマン家に今後のお金の援助を止めてもらう為にね…!

すると…。

「何だ?そうだったのか?だったら初めからそう言えばよかったのだ」

急に手の平を返したかのような態度を取る義父。

「まぁ、そうだったのね?引き止めて悪かったわ。だったらさっさと行かないと」

義母はとたんに笑顔になる。

「よし、ならお前の為に一頭建ての馬車を出してやろう。あの馬車なら実家までの距離も快適に乗れるはずだからな?すぐに伝えてきてやる!」

ラファエルは笑顔で部屋を飛び出して行った。

「ゲルダさん、実家の方々に宜しく伝えてくださいね?」

アネットまで媚を売ってくるなんて…!


「…分かりました。それでは私は出かけてきますけど…」

そして義父、義母、アネットを順に見渡すと言った。

「さっさとこの部屋からお引取り下さい」

私不在の部屋に長居されるのは正直気分が悪い。

「ああ、分かった。すぐに出ていこう。そうだ、援助金の話だが…少し増額を検討するよう伝えておいてくれ」

「ええ、そうね。最近物価が高くなってきたからねぇ…」

義母はわざと困った素振りで言う。そしてアネットはニコニコしながら頷いている。
本当におめでたい奴らだ。実家には援助金の打ち切りを伝えに行くのに…。でもそこは当然内緒だ。

「では、いますぐ出ていって下さい」

私が言うと、3人は大人しく部屋を出ていった。そんな彼等の後ろ姿を見届けると私はジェフを呼んだ。

「ジェフ」

「はい、ゲルダ様」

音もなく現れたジェフに私は言った。

「私がこの部屋を出たら、誰も入ることが出来ないように鍵を掛けておいて頂戴」

「ええ、分かりました」

にっこり笑みを浮かべるジェフ。

「それじゃ、実家に行ってくるわね。後の事はよろしく」

「はい、行ってらっしゃいませ」

こうして私はジェフに見守られながら部屋を出た。

時刻はもうすぐ23時になろうとしている頃の出来事だった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」

まほりろ
恋愛
【完結済み】 若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。 侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。 侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。 使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。 侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。 侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。 魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。 全26話、約25,000文字、完結済み。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 他サイトにもアップしてます。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ
恋愛
【完結しました】 アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。 だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。 気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。 「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」 アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。 敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。 アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。 前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。 ☆ ※ざまぁ有り(死ネタ有り) ※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。 ※ヒロインのパパは味方です。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。 ※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。 2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

結婚相手の幼馴染に散々馬鹿にされたので離婚してもいいですか?

ヘロディア
恋愛
とある王国の王子様と結婚した主人公。 そこには、王子様の幼馴染を名乗る女性がいた。 彼女に追い詰められていく主人公。 果たしてその生活に耐えられるのだろうか。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...