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第16話 私の勝手でしょう?

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「どうぞ、ゲルダ様」

書類に目を通しているとジェフがカモミールのハーブティーを机の上に置いてくれた。

「ありがとう。あら?珍しい。ハーブティーじゃない」

いつもならブランデー入りの紅茶を淹れてくれるのに。そんな私の考えが分かったのか、ジェフが言った。

「ゲルダ様は…その、少々酒癖の悪いところがありますから…それにこれから大旦那様や大奥様、それにラファエル様にアネット様がいらっしゃるのですよね?これを飲んで気持ちを落ち着けて頂こうかと思ったのです」

「ふ~ん。そうなの?私はとても落ち着いているけどね…でも、ありがとう」

むしろ落ち着くべきはこれからこの部屋にやってくるかどうかも分からないノイマン家の人々とアネットの方だろう。

「どれどれ…」

早速カモミールティーを一口飲んでみた。

「うん、とっても美味しいわ。ありがとう」

再び書類に目を落とすとジェフが声を掛けてきた。

「所でゲルダ様…先程から何の書類を見てらっしゃるのですか?」

「ええ、これはね…」

言いかけた時、バタバタと複数の足音がこちらに向かって来るのが聞こえた。そして次の瞬間―。

バンッ!!

激しくドアが開かれ、真っ先に部屋に入ってきたのは他でもないラファエルだった。その後ろに義父、義母、そしてアネットが続く。

「ゲルダッ!お前かっ?!お前の仕業なのかっ?!」

ラファエルはズカズカと私の前にやってくると、バンッと両手を机の上に叩きつけた。

「へ~てっきり来ないと思ってたけど…本当にここまで来たんだ」

チラリとラファエルを横目で見ると再びハーブティーを飲んで書類に目を落とす。

「な、な…」

怒りの声を震わすラファエルに続き、今度は義父がテーブルの前にやってくると大声で怒鳴りつけてきた。

「何だっ!その生意気な態度はっ!嫁のくせにっ!」

「は?嫁?私の事…今迄嫁だと思っていたのですか?」

こんな1人離れた別の塔に住まわせておいて?夫と寝食を共にした事だって一度も無いのに?本気で言っているなら思考回路がイカれているに違いないだろう。

「ええ、そうよ!嫁はね、夫や義父母の命令は絶対なのよ?そ、それを…こんな遠くまでわざわざ足を運ばせて…!」

義母は何故か手に扇子を握りしめている。…どういうつもりなのだろうか?

「こんな遠く…と言うなら来なければ良かったじゃないですか。大体用があるのは
私ではありません。あなた方なのでしょう?嫌なら来なければ良かったじゃないですか」

そしてもう一口ハーブティーを飲む。うん、美味しい。落ち着くわ~。

「な、な、何なのよっ!良くもこんな状態で呑気にお茶なんか飲んでいられるわね!」

義母はおでこに青筋を浮かべている。今にも血管が切れそうだ。…いや、いっそ切れてしまえばいいのにと、つい頭の中に物騒な考えがよぎる。

「そうだ!我々がここまでわざわざ足を運んでやったのだから茶だ!茶位用意しろ!」

義父は部屋のなかにいたジェフに命じた。

「は、はい…」

ジェフが部屋を出ていこうとしたところを私は止めた。

「いいわよ、ジェフ。その必要はないわ。お茶なんか淹れてやる必要ないわよ。だってこの人達は客じゃないもの」

「な、何だとっ!ゲルダッ!やはり頭がおかしくなったと言う噂は本当だったのだな!」

誰がそんな噂を流したのだ?見つけたらただじゃ置かないのだから。

ラファエルが怒鳴りつけてきた時、アネットが声を上げた。

「待って!ラファエル!ゲルダさんは一応貴方の妻でしょう?乱暴はいけないわ!」

あ、いたのか…。存在が薄くて気付かなかった。

「アネット…やはり君は心優しい女性だな…」

「ラファエル様…」

手を取り合って見つめ合う恋人たち。…全くそういう事は他所でやって欲しい。冷めた目で2人の様子を見ていると、アネットが口元に笑みを浮かべると言った。

「あら、やめておきましょう。ゲルダさんがこちらを悲しげに見ているから」

は?誰が?いつ悲しそうに2人を見ていただって?ひょっとするとアネットは視力が悪いのだろうか?

「お前…俺とアネットの仲を焼いているのだろう?悪いが俺はお前には何の感情も持っていない。いくら俺に恋い焦がれても無駄だからな」

ラファエルが鼻で笑う。こっちだってそうよ。息子と同じ年の夫なんて気持ちが悪いったら無い。

「ええ、そうよ。あなた達はこんな嫁の事気にすることないのよ?」

義母が2人の肩を持つ。

「そうだ、所詮平民の女なのだから、お前は気にせずアネットと仲良くしていれば良いのだ」

義父は自分が何を言っているのか分かっているのだろうか?誰のお陰で生活出来ているのか全く自覚がないなら当主失格だ。
そんな事よりも…。

「あの~…結局用件は何なのですか?用が無いなら出ていってくれませんか?これから出かけるので」

ガタンと席を立つと私は言った。

「な、何だとっ?!こんな夜に何処へ出かけるっていうんだっ?!」

ラファエルが目を見開いて私を見た。

「何故、それをあなた達に言わなければならないのでしょう?私が何も知らないとでも思っているのですか?あなた達4人はしょっちゅう、旅行に行っていましたよね?しかも私に内緒で、私のお金で」

「そ、それは…!」

言葉に詰まるラファエルをかばうかのように義父が言った。

「う、うるさい!お前には関係ないことだろう!だいたい、婚姻するにあたり、我々は条約を結んだだろう?こちらのすることに一切関与しないとな!お前はそれで納得しただろう?」

「ええ、私も先程条約を見直していたのですけどね…ということは、それは私にも言えることですよね?私がすることに一切関与しないという風にも解釈できますよね?」

「うぐっ!」

義父も言葉につまる。

「も、もうそんな事はどうだっていいわ!ゲルダッ!お金は?!私達の預貯金を何処へやったのよ!4億5千とんで237シリルは何処へ消えたのよ!勝手に銀行を変えたのでしょう?!早く私達に新しい銀行を教えなさい!」

義母が顔を真っ赤にして叫ぶ。すごい!そんなに細かい数字まで覚えていたのか。
それにしても…何て脳天気な頭なのだろう。私が銀行を変えたと思っているとは驚きだ。ここはハッキリ言ってやらなければ。

「ありませんよ。全額引き出しましたから」

「「「「え?」」」」

全員の視線が私に集中する。

「あのお金は元々は私の名義のお金です。そのお金をどうするかなど私の勝手でしょう?」

腕組みすると私はショックで固まっている4人をグルリと見渡した―。
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