上 下
12 / 100

第12話 前世の知識を生かした営業相談

しおりを挟む
 さて、懐も潤ったし、早速あの方の処へ行ってみよう。
私は大金が入ったずっしりと重みのあるショルダーバッグを抱えてメインストリートに出るとタクシー乗り場へと足を向けた―。


****

タクシー乗り場へ向かうと、並んでいる人が1人もいなかった。それとは対照的に隣にある辻馬車乗り場には行列が出来ている。

「ふ~ん…タクシーもバスも走っているのに、やっぱりまだまだタクシーは浸透していないのねぇ…」

ここはタクシー会社の為にも、現在懐が温かいこの私が乗って売り上げに貢献してあげなければ。
そして私は客待ちで待機しているタクシーに近寄ると運転手に声を掛けた。

「すみません、乗せて下さい」

「あ、お客様ですね?どうぞお乗りください!」

タクシー運転手はお客が来てくれたことが余程嬉しかったのか、それとも営業スマイルなのか、笑顔で返事をした―。


****


タクシーに乗る事、およそ30分。目的地へ辿り着いた。

「お客様。到着致しましたよ」

タクシー運転手の男性が振り向くと声を掛けて来た。

「ありがとうございます。おいくらですか?」

「8千シリルになります」

「はい、どうぞ」

私は1万シリルを運転手に手渡した。

「ではお待ち下さい。ただいまお釣りを…」

「あ~いいの、いいの。お釣りはチップとして取っておいて」

「え?!な、何ですって!お釣りは2千シリルもあるのですよっ?!ほ、本当に宜しいのですか?」

「ええ、いいのよ。だって貴方達歩合制で働いてるんでしょう?」

「はい。その通りですが…」

「いくらバスやタクシーが最近出回って来ても、まだまだ人々は運賃が安い辻馬車を使う人が主流だからね~生活かかってるんでしょう?」

「そうなのですよ!タクシーを利用する人がまだまだ少ないから、花形職業に見えても我らの給料は雀の涙程度しか貰えないんです!」

途端に運転手は営業スマイルが崩れ、素の顔に戻ってしまった。

「うん、分る分る。皆がタクシーを乗らないのは運賃が高いっていうのもあるけど、その良さを知らないからなのよ。辻馬車はすごく揺れてお尻が痛くなるけどタクシーは揺れないし、馬車よりもずっと早く目的地へ着けるし…言う事なしなのにね」

「お客様はまだお若い方なのに、よくお分かりですね?お客様はどうすればタクシー利用客が増えると思いますか?」

いつの間にか私はタクシー運転手の相談相手になっていた。

「そうねぇ…そうだ!宣伝をしてみたらどうかしら?例えばキャンペーンみたいなのを打ち出して、試乗体験してもらうのよ。色々な人達にタクシーの乗り心地の良さを体験して貰えれば、その良さが口コミで広がるでしょう?そうすれば皆多少高くてもタクシーに乗るようになるわよ。利用客が増えればタクシー料金を値下げしても利益は生まれるんじゃないの?」

「おおっ!それは素晴らしいっ!口コミと言う言葉が何なのかよく分りませんが、早速会社に戻ったら社長に貴女のアイデアを報告させて頂きます!あの、恐れ入りますがお客様のお名前を教えて頂けませんか?」

「ええ。いいわよ。私の名前は『小林美穂』よ」

「え?コバヤシ…ミホ‥?随分変わった名前ですね」

あっ!しまった!つい前世の名前を口走ってしまった。

「ご、ごめんなさい!今のは無し。私の名前は『ゲルダ・ノイマン』よ」

今のところはね…。

近々離婚確実なので、私が『ノイマン』を名乗ることもいずれ無くなるだろう。

「分りました。『ゲルダ・ノイマン』様ですね。覚えておきます」

「それじゃ私はもう降りるからね」

「はい!有難うございました!」

タクシーから降りた私に運転手は何度も何度も頭を下げ…やがてタクシーは走り去って行った―。


「さて…」

タクシーを降りた私は目の前にそびえたつ蔦に覆われた大きな門を見つめた。ここは町の中心部から少し離れた閑静な高級住宅地である。この辺り一帯は貴族の屋敷ばかりが立ち並んでいる。そして私の目の前にある巨大な門の向こうには大きな屋敷を構えたモンド伯爵夫人が住んでいる。私はこの屋敷に住んでいる女性と懇意の仲にある。

「モンド伯爵夫人と私の利害関係が一致すればいいのだけど…」

今回、私はある目的の為にこの屋敷を訪れたのだ。

そして私は門の扉を開け、モンド伯爵家の敷地へ足を踏み入れた―。
しおりを挟む
感想 196

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

処理中です...