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第12話 前世の知識を生かした営業相談
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さて、懐も潤ったし、早速あの方の処へ行ってみよう。
私は大金が入ったずっしりと重みのあるショルダーバッグを抱えてメインストリートに出るとタクシー乗り場へと足を向けた―。
****
タクシー乗り場へ向かうと、並んでいる人が1人もいなかった。それとは対照的に隣にある辻馬車乗り場には行列が出来ている。
「ふ~ん…タクシーもバスも走っているのに、やっぱりまだまだタクシーは浸透していないのねぇ…」
ここはタクシー会社の為にも、現在懐が温かいこの私が乗って売り上げに貢献してあげなければ。
そして私は客待ちで待機しているタクシーに近寄ると運転手に声を掛けた。
「すみません、乗せて下さい」
「あ、お客様ですね?どうぞお乗りください!」
タクシー運転手はお客が来てくれたことが余程嬉しかったのか、それとも営業スマイルなのか、笑顔で返事をした―。
****
タクシーに乗る事、およそ30分。目的地へ辿り着いた。
「お客様。到着致しましたよ」
タクシー運転手の男性が振り向くと声を掛けて来た。
「ありがとうございます。おいくらですか?」
「8千シリルになります」
「はい、どうぞ」
私は1万シリルを運転手に手渡した。
「ではお待ち下さい。ただいまお釣りを…」
「あ~いいの、いいの。お釣りはチップとして取っておいて」
「え?!な、何ですって!お釣りは2千シリルもあるのですよっ?!ほ、本当に宜しいのですか?」
「ええ、いいのよ。だって貴方達歩合制で働いてるんでしょう?」
「はい。その通りですが…」
「いくらバスやタクシーが最近出回って来ても、まだまだ人々は運賃が安い辻馬車を使う人が主流だからね~生活かかってるんでしょう?」
「そうなのですよ!タクシーを利用する人がまだまだ少ないから、花形職業に見えても我らの給料は雀の涙程度しか貰えないんです!」
途端に運転手は営業スマイルが崩れ、素の顔に戻ってしまった。
「うん、分る分る。皆がタクシーを乗らないのは運賃が高いっていうのもあるけど、その良さを知らないからなのよ。辻馬車はすごく揺れてお尻が痛くなるけどタクシーは揺れないし、馬車よりもずっと早く目的地へ着けるし…言う事なしなのにね」
「お客様はまだお若い方なのに、よくお分かりですね?お客様はどうすればタクシー利用客が増えると思いますか?」
いつの間にか私はタクシー運転手の相談相手になっていた。
「そうねぇ…そうだ!宣伝をしてみたらどうかしら?例えばキャンペーンみたいなのを打ち出して、試乗体験してもらうのよ。色々な人達にタクシーの乗り心地の良さを体験して貰えれば、その良さが口コミで広がるでしょう?そうすれば皆多少高くてもタクシーに乗るようになるわよ。利用客が増えればタクシー料金を値下げしても利益は生まれるんじゃないの?」
「おおっ!それは素晴らしいっ!口コミと言う言葉が何なのかよく分りませんが、早速会社に戻ったら社長に貴女のアイデアを報告させて頂きます!あの、恐れ入りますがお客様のお名前を教えて頂けませんか?」
「ええ。いいわよ。私の名前は『小林美穂』よ」
「え?コバヤシ…ミホ‥?随分変わった名前ですね」
あっ!しまった!つい前世の名前を口走ってしまった。
「ご、ごめんなさい!今のは無し。私の名前は『ゲルダ・ノイマン』よ」
今のところはね…。
近々離婚確実なので、私が『ノイマン』を名乗ることもいずれ無くなるだろう。
「分りました。『ゲルダ・ノイマン』様ですね。覚えておきます」
「それじゃ私はもう降りるからね」
「はい!有難うございました!」
タクシーから降りた私に運転手は何度も何度も頭を下げ…やがてタクシーは走り去って行った―。
「さて…」
タクシーを降りた私は目の前にそびえたつ蔦に覆われた大きな門を見つめた。ここは町の中心部から少し離れた閑静な高級住宅地である。この辺り一帯は貴族の屋敷ばかりが立ち並んでいる。そして私の目の前にある巨大な門の向こうには大きな屋敷を構えたモンド伯爵夫人が住んでいる。私はこの屋敷に住んでいる女性と懇意の仲にある。
「モンド伯爵夫人と私の利害関係が一致すればいいのだけど…」
今回、私はある目的の為にこの屋敷を訪れたのだ。
そして私は門の扉を開け、モンド伯爵家の敷地へ足を踏み入れた―。
私は大金が入ったずっしりと重みのあるショルダーバッグを抱えてメインストリートに出るとタクシー乗り場へと足を向けた―。
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タクシー乗り場へ向かうと、並んでいる人が1人もいなかった。それとは対照的に隣にある辻馬車乗り場には行列が出来ている。
「ふ~ん…タクシーもバスも走っているのに、やっぱりまだまだタクシーは浸透していないのねぇ…」
ここはタクシー会社の為にも、現在懐が温かいこの私が乗って売り上げに貢献してあげなければ。
そして私は客待ちで待機しているタクシーに近寄ると運転手に声を掛けた。
「すみません、乗せて下さい」
「あ、お客様ですね?どうぞお乗りください!」
タクシー運転手はお客が来てくれたことが余程嬉しかったのか、それとも営業スマイルなのか、笑顔で返事をした―。
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タクシーに乗る事、およそ30分。目的地へ辿り着いた。
「お客様。到着致しましたよ」
タクシー運転手の男性が振り向くと声を掛けて来た。
「ありがとうございます。おいくらですか?」
「8千シリルになります」
「はい、どうぞ」
私は1万シリルを運転手に手渡した。
「ではお待ち下さい。ただいまお釣りを…」
「あ~いいの、いいの。お釣りはチップとして取っておいて」
「え?!な、何ですって!お釣りは2千シリルもあるのですよっ?!ほ、本当に宜しいのですか?」
「ええ、いいのよ。だって貴方達歩合制で働いてるんでしょう?」
「はい。その通りですが…」
「いくらバスやタクシーが最近出回って来ても、まだまだ人々は運賃が安い辻馬車を使う人が主流だからね~生活かかってるんでしょう?」
「そうなのですよ!タクシーを利用する人がまだまだ少ないから、花形職業に見えても我らの給料は雀の涙程度しか貰えないんです!」
途端に運転手は営業スマイルが崩れ、素の顔に戻ってしまった。
「うん、分る分る。皆がタクシーを乗らないのは運賃が高いっていうのもあるけど、その良さを知らないからなのよ。辻馬車はすごく揺れてお尻が痛くなるけどタクシーは揺れないし、馬車よりもずっと早く目的地へ着けるし…言う事なしなのにね」
「お客様はまだお若い方なのに、よくお分かりですね?お客様はどうすればタクシー利用客が増えると思いますか?」
いつの間にか私はタクシー運転手の相談相手になっていた。
「そうねぇ…そうだ!宣伝をしてみたらどうかしら?例えばキャンペーンみたいなのを打ち出して、試乗体験してもらうのよ。色々な人達にタクシーの乗り心地の良さを体験して貰えれば、その良さが口コミで広がるでしょう?そうすれば皆多少高くてもタクシーに乗るようになるわよ。利用客が増えればタクシー料金を値下げしても利益は生まれるんじゃないの?」
「おおっ!それは素晴らしいっ!口コミと言う言葉が何なのかよく分りませんが、早速会社に戻ったら社長に貴女のアイデアを報告させて頂きます!あの、恐れ入りますがお客様のお名前を教えて頂けませんか?」
「ええ。いいわよ。私の名前は『小林美穂』よ」
「え?コバヤシ…ミホ‥?随分変わった名前ですね」
あっ!しまった!つい前世の名前を口走ってしまった。
「ご、ごめんなさい!今のは無し。私の名前は『ゲルダ・ノイマン』よ」
今のところはね…。
近々離婚確実なので、私が『ノイマン』を名乗ることもいずれ無くなるだろう。
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「それじゃ私はもう降りるからね」
「はい!有難うございました!」
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「さて…」
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