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第8章 10 緊縛

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「オ・オスカー様っ!!」

羽交い絞めにされたユリアナがオスカーを見て名を呼んだ。

「ユリアナッ!貴様・・・ユリアナを離せっ!」

オスカーは私を背中に隠すように対峙するとレイフに叫んだ。

「・・・それは出来かねます。第一もう貴方は廃嫡された身分。今俺が仕えているのはアンソニー皇子です。」

「ああ・・・確かにそうだ。しかし。騎士ともあるべき男が・・・武器も持たない力の弱い女に剣を向けて人質に取っても良いのか?」

「・・・この女は少しも弱くはありませんよ。いや・・むしろ野放しにしておいた方が我らの脅威になる存在です。」

レイフは剣の切っ先をユリアナの首に近付けた。するとそこからスーッと赤い血が出てくる。

「ユリアナッ!!」

私は思わず声を上げてしまった。

「よせ!やめろっ!」

オスカーの声に焦りが混じる。

「この女は・・・恐ろしい魔法を使います。自分の他の仲間たちを一瞬で違う場所に転移させて逃がしたのだから・・。あんな魔法・・普通の人間には使えるはずはない・・。この女・・半分は人間の血以外のものが混ざっているようだ・・・」

その言葉にユリアナの方がビクリと跳ねた。まさか・・本当にユリアナは・・?
それに突然レイフの口調が変化した。様子が何だかおかしい。ひょっとすると・・・。

「貴様・・誰だ・・?」

するとオスカーも何か感じたのか、身構えた。

「フフフフ・・・・。」

すると突然レイフはユリアナの首に手刀を叩きこんだ。

「・・・・。」

物言わず床に倒れこむユリアナ。

「ユリアナッ!」

オスカーが慌ててユリアナに駆け寄ろうとした時、突如オスカーの身体がフワリと宙に浮き、四肢を開いた状態で壁に縫い付けられてしまった。

「ぐ・・!な、何て力だ・・・!」

苦し気に呻くオスカー。するとレイフの影から黒い靄が立ち上り、一瞬で人の姿に形を変えた。現れたのは・・・。

「ち・・父上・・・。」

オスカーは苦し気に言う。

「もう貴様は用済みだ・・・。今目の前に私の欲しかったものが現れたからな・・。お前は所詮アイリスをここに呼び寄せる為の囮でしかなかったのだから・・。」

そして恐ろしい目で私を見つめてくる。

「グッ・・・!」

オスカーは必死でもがくが、押さえつける力が強すぎるのか身体がびくとも動かない。

「さあ・・どうやって殺してやろうか・・・?」

フリードリッヒ3世がオスカーに向き直ると一歩近づき、私から視線をそらせた。

「やめてっ!!」

私は叫ぶと隠し持っていた短剣を自分の喉にあてて叫んだ。この短剣はユリアナから地下牢へ降りる前に護身用として渡されていた短剣だ。

「ア・・アイリス・・何を・・。」

フリードリッヒ3世の声に焦りが、混ざる。

「やめて下さい・・・。陛下の狙いは私ですよね?今すぐオスカー様を離してくれないのなら・・この場で命を絶ちます。」

「アイリス・・・そんな脅しに私が屈するとでも思ったか?」

フリードリッヒ3世はニヤリと笑いながら言う。

「・・・。」

私は無言で切っ先を喉にあてた。

プツ・・・

痛みと共に一筋の血が流れるのを感じた。

「アイリスッ!何をするんだっ!」

オスカーが私を見て叫んだ。

「よせ!やめろっ!」

フリードリッヒ3世の声に焦りが混ざる。彼は何故なのか私に手出しが出来ない様子だった。

「オスカー様とユリアナを見逃すと約束してくれたなら・・・私はここに残ります。ですが・・・この場でオスカー様を・・・・殺すと言うなら・・その前に私が死にますっ!」

私は必死で叫んだ。

「何を馬鹿な事を言ってるんだ?アイリス!」

オスカーは必死でもがきながら私を見ている。

「さあ・・早くオスカー様とユリアナを解放してくださいっ!」

私はさらに剣を首に近付ける。

「わ・・分かった!」

フリードリッヒ3世が指をパチンと鳴らすと、呪縛が解けたのか途端にオスカーの身体が床にたたきつけられた。

「うぐ・・・。」

床に落ちた衝撃でオスカーが呻き声をあげ、気を失ってしまった。

「オスカー様っ!」

「・・さあ、言われた通り・・オスカーを離したぞ?剣を下ろせ。」

フリードリッヒ3世が一歩私に近付いた―。




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