上 下
71 / 152

第5章 11 レイフとタバサ

しおりを挟む
 昼休みが終わり、私とオスカーは教室へと戻ってきた。入口で別れ際オスカーに肩を叩かれた。

「アイリス、分かっているな?帰りは俺と同じ馬車で帰るのだからな?」

「はい、分かりました。」

私の返事を聞くとオスカーは満足気に自分の席へと戻って行く。その時になって私は肝心な事を尋ねるのを忘れていた。今のオスカーはどこに住んでいるのだろうかと・・。あのような騒ぎが王宮で起こったなら、おそらくオスカーは戻ることは出来ないだろう。

「後でオスカー王子に尋ねてましょう。」

私はポツリと呟いた。




 席に座ると、すぐにミレディーが声を掛けてきた。

「アイリス様、レイフ様を見かけませんでしたか?」

その言葉に思わずドキリとする。

「え?ええ。レイフとは中庭で少し話をして・・・オスカー様が来たからそこで話を終えて、彼を残して私とオスカー様でランチへ行きました。だからそれきりレイフとは会っていませんわ。」

「そうなんですか・・。実はエルンスト様とエドガー様とお昼をご一緒したのですが・・結局レイフ様は待ち合わせのカフェに来られなかったので・・。」

「そ、そうなんですか?」

返事をしながら私は内心焦っていた。まさかレイフは中庭で倒れたままなのではないかと・・・。それに・・・私はチラリとオスカーを見る。隣に座るタバサも姿を見せていない。何となく嫌な予感がする。70年前の記憶が蘇ってくる。70年前の世界ではタバサは私からレイフを・・・そしてエルンストにエドガーまでを自分の元へ引き入れ、彼らは私を敵視するようになったのだ。

「どうしたのですか?アイリス様・・・何だかお顔の色が優れないようですけど・・?」

ミレディーが心配そうに尋ねてくる。

「え、ええ・・・。実は・・。」

言いかけて、時計を見ると午後の授業が始まるまではあと10分ほど余裕がある。中庭までは5分もかからず行けるはずだ。

「ミレディー様。レイフが心配なので年の為に中庭に行ってみます。」

「え?アイリス様・・・・?大丈夫ですか?」

ミレディーが心配そうに尋ねてきた。

「はい、中庭へ行って誰もいなければすぐに戻ってきますので。」

言いながら私はオスカーの様子を伺った。彼は窓の外を眺めている。今のうちに教室を抜けだせば、ばれることは無いだろう。そっと立ち上がり、小走りで教室を出た。

 廊下を出て、中庭へと続く小道を走り抜けると先程レイフに連れられてきた中庭へとたどり着いた。レイフは・・居るのだろうか・・?
中庭には太い気が何本も生えていて、全体を見渡すのが困難だ。私は芝生を踏みしめて歩きながら辺りを見渡し・・・足を止めた。木立の間からレイフの頭が見えたからである。

「レ・・」

近づいて、声を掛けようとして私は足を止めた。レイフはベンチに座っていたのだが、隣にはタバサが座っていたのだ。2人はぴったりと身体を寄せ合って座っている。

「え・・・?」

一体これはどういうことだろう。するとタバサはレイフの耳元に口を寄せる。少しの間、2人はその姿勢を取っていた。それはまるでタバサがレイフの耳元で何かを囁いているようにも見て取れた。そして次にレイフはタバサの右手を救い上げ、口づけをした。

「!」

それを見た瞬間、私の脳裏に70年前の記憶が蘇る。ああ・・そうだ。レイフのあの・・タバサに忠誠を誓う姿を私は見ていたことを今、思い出した。

「レ・・・レイフ・・。」

彼はまた・・私の敵になるのだろうか・・・?よろめきながら私は中庭を出て、教室を目指して歩く途中、酷いめまいが襲ってきて立っていられなくなった。

「す、少し休めば・・・。」

廊下に座り壁に背をもたれさせたところで、私は意識を失った―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m

【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です

ユユ
ファンタジー
シャルム王国を含むこの世界は魔法の世界。 幼少期あたりに覚醒することがほとんどで、 一属性で少しの魔力を持つ人が大半。 稀に魔力量の大きな人や 複数属性持ちの人が現れる。 私はゼロだった。発現無し。 政略結婚だった夫は私を蔑み 浮気を繰り返す。 だから私は夫に些細な仕返しを することにした。 * 作り話です * 少しだけ大人表現あり * 完結保証付き * 3万5千字程度

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

あなたのために死ぬ

ごろごろみかん。
恋愛
リーズリー公爵家の娘、リズレイン・リーズリーは結婚式を目前に控えたある日、婚約者のヴェートルに殺害された。どうやらリズは『悪魔の儀式』の生贄にされるらしい。 ──信じていたのに。愛していたのに。 最愛の婚約者に裏切られ、絶望を抱えたリズは、気がつくと自分が殺される一年前に戻っていた。 (今度こそあんな悲壮な死は迎えたくない) 大好きだった婚約者に裏切られ、殺され。苦しさの中、彼女は考えた。 なぜ、彼は自分を殺したのだろう、と。 リズは巻き戻った人生で、真実を探すことにした。 彼と、決別するために。 *完結まで書き終え済

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

処理中です...