64 / 152
第5章 4 飛び出してきた人物は
しおりを挟む
「キャアッ!」
突然急停車した馬車で車体が大きく揺れ、私は座席から危うく転げ落ちそうになった。
「危ないっ!」
そこを抱きとめたのがレイフだった。
「あ、ありがとう。レイフ・・・。」
レイフを見上げて礼を言うと、彼はフッと笑った。
「おい!貴様・・・危ないだろうっ?!なんて走らせ方をするのだっ!」
オスカーが御者に向って怒鳴りつける。
「も、申し訳ございません。オスカー王子。実は急に人が路地から飛び出してきて・・・。」
オスカーに怒鳴られた御者の男性は気の毒なくらいビクビクしながら頭を下げている。
「人が飛び出してきただと?一体どこのどいつだ。この馬車の紋章が目に入らないのか・・?」
私たちが乗っている馬車には王家の紋章が描かれている。馬車から窓の外をながめてみると、いつの間にか『リオス』の都市を抜け、アカデミーのある『リーベルタース』へと入っていた。
その時、馬車のドアがコンコンとノックされた。
「申し訳ございません。ここを開けて頂けないでしょうか?私…タバサ・オルフェンです。」
え?タバサ・・・?一体何故急に彼女が・・?
オスカーは溜息をつくと、ガチャリと馬車のドアを開けた。するとそこには息を切らせ、アカデミーの制服を着たタバサが立っていた。そしてオスカーを見上げると言う。
「申し訳ございません・・私もこちらの馬車に一緒に乗せて頂いてもよろしいでしょうか?」
オスカーの鋭い視線にひるむことなく、タバサはじっとオスカーの目をそらさずに見つめている。
「お前・・自分が乗ってきた馬車はどうしたのだ?」
「それが・・・乗ってきた馬車の車輪が突然外れてしまって動けくなってしまったのです。今朝は聖歌隊の合唱の練習があり、早めにアカデミーに行かなければならないので、困り果てていたところ・・・オスカー様の乗った馬車を偶然目にして・・・。」
「それで乗せてもらおうと思い、強引に馬車の前へ飛び出したのか?」
「はい、そうです。」
タバサは私とレイフの事などまるで眼中にないかの如く、オスカーだけを見つめて話をしている。するとオスカーは言った。
「お前が馬車の前へ飛び出したせいで、俺たちの乗っていた馬車は急停車したのだぞ?アイリスは危うく座席から落ちそうになるし・・・運が悪ければこの馬車は倒れていたかもしれないのだぞ?そんなことは考えなかったのか?!」
最後は強い語尾でオスカーはタバサに言った。
「も、申し訳ございませんでした・・・。そこまでの考えには至りませんでした。」
タバサはオロオロした様子で、今にも泣きそうになっている。するとそれを見兼ねたのか、レイフが口を挟んできた。
「オスカー様、もう良いではありませんか・・・。彼女は本当に急いでいるのでしょう。聖歌隊の合唱の練習は厳しく、遅刻厳禁とも言われておりますし・・・遅刻させてしまっては気の毒です。」
「レイフ様・・・。」
タバサは潤んだ瞳でこの時初めてレイフを見た。するとオスカーは何故か私を見ると言った。
「アイリス。お前はこの女のせいで危うく座席から転げ落ちそうになったが・・・・どうする?乗せてやるか?」
「ええ、遅刻してしまってはお気の毒ですから。」
私はタバサの方を向いて言うが、何故か私を見つめるタバサの目には・・・敵意が込められているように見えた。
「・・分かった。乗れ。」
オスカーの言葉にタバサは笑顔になると車に乗り込み、オスカーの隣の席に座る。
御者は馬車の扉を閉め、御者台に乗ると私達に声を掛けてきた。
「それでは出発致します。」
そしてピシッと鞭をふるう音が聞こえ、再び馬車はガラガラと走り出した―。
突然急停車した馬車で車体が大きく揺れ、私は座席から危うく転げ落ちそうになった。
「危ないっ!」
そこを抱きとめたのがレイフだった。
「あ、ありがとう。レイフ・・・。」
レイフを見上げて礼を言うと、彼はフッと笑った。
「おい!貴様・・・危ないだろうっ?!なんて走らせ方をするのだっ!」
オスカーが御者に向って怒鳴りつける。
「も、申し訳ございません。オスカー王子。実は急に人が路地から飛び出してきて・・・。」
オスカーに怒鳴られた御者の男性は気の毒なくらいビクビクしながら頭を下げている。
「人が飛び出してきただと?一体どこのどいつだ。この馬車の紋章が目に入らないのか・・?」
私たちが乗っている馬車には王家の紋章が描かれている。馬車から窓の外をながめてみると、いつの間にか『リオス』の都市を抜け、アカデミーのある『リーベルタース』へと入っていた。
その時、馬車のドアがコンコンとノックされた。
「申し訳ございません。ここを開けて頂けないでしょうか?私…タバサ・オルフェンです。」
え?タバサ・・・?一体何故急に彼女が・・?
オスカーは溜息をつくと、ガチャリと馬車のドアを開けた。するとそこには息を切らせ、アカデミーの制服を着たタバサが立っていた。そしてオスカーを見上げると言う。
「申し訳ございません・・私もこちらの馬車に一緒に乗せて頂いてもよろしいでしょうか?」
オスカーの鋭い視線にひるむことなく、タバサはじっとオスカーの目をそらさずに見つめている。
「お前・・自分が乗ってきた馬車はどうしたのだ?」
「それが・・・乗ってきた馬車の車輪が突然外れてしまって動けくなってしまったのです。今朝は聖歌隊の合唱の練習があり、早めにアカデミーに行かなければならないので、困り果てていたところ・・・オスカー様の乗った馬車を偶然目にして・・・。」
「それで乗せてもらおうと思い、強引に馬車の前へ飛び出したのか?」
「はい、そうです。」
タバサは私とレイフの事などまるで眼中にないかの如く、オスカーだけを見つめて話をしている。するとオスカーは言った。
「お前が馬車の前へ飛び出したせいで、俺たちの乗っていた馬車は急停車したのだぞ?アイリスは危うく座席から落ちそうになるし・・・運が悪ければこの馬車は倒れていたかもしれないのだぞ?そんなことは考えなかったのか?!」
最後は強い語尾でオスカーはタバサに言った。
「も、申し訳ございませんでした・・・。そこまでの考えには至りませんでした。」
タバサはオロオロした様子で、今にも泣きそうになっている。するとそれを見兼ねたのか、レイフが口を挟んできた。
「オスカー様、もう良いではありませんか・・・。彼女は本当に急いでいるのでしょう。聖歌隊の合唱の練習は厳しく、遅刻厳禁とも言われておりますし・・・遅刻させてしまっては気の毒です。」
「レイフ様・・・。」
タバサは潤んだ瞳でこの時初めてレイフを見た。するとオスカーは何故か私を見ると言った。
「アイリス。お前はこの女のせいで危うく座席から転げ落ちそうになったが・・・・どうする?乗せてやるか?」
「ええ、遅刻してしまってはお気の毒ですから。」
私はタバサの方を向いて言うが、何故か私を見つめるタバサの目には・・・敵意が込められているように見えた。
「・・分かった。乗れ。」
オスカーの言葉にタバサは笑顔になると車に乗り込み、オスカーの隣の席に座る。
御者は馬車の扉を閉め、御者台に乗ると私達に声を掛けてきた。
「それでは出発致します。」
そしてピシッと鞭をふるう音が聞こえ、再び馬車はガラガラと走り出した―。
21
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。 【短編集】
長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。
気になったものだけでもおつまみください!
『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』
『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』
『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』
『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』
『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』
他多数。
他サイトにも重複投稿しています。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
婚約破棄するんだったら、その代わりに復讐してもいいですか?
tartan321
恋愛
ちょっとした腹いせに、復讐しちゃおうかな?
「パミーナ!君との婚約を破棄する!」
あなたに捧げた愛と時間とお金……ああっ、もう許せない!私、あなたに復讐したいです!あなたの秘密、結構知っているんですよ?ばらしたら、国が崩壊しちゃうかな?
隣国に行ったら、そこには新たな婚約者の姫様がいた。さあ、次はどうしようか?
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる