タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
49 / 152

第4章 2 負傷

しおりを挟む
 私たちは少しの間遠くに見える城を眺めていたが、やがてオスカーが振り向き、城とは反対向きの方向を指さすと言った。

「この先を進めば小さな集落が見えて来る。そこには俺の仲間たちがいるんだ。そこで馬車を借りよう。お前を両親の元へ送り届けなければならないからな。きっと心配しているに違いない。」

私は指さして語るオスカーの横顔を信じられない思いで見つめていた。
70年前のオスカーは少なくともこんなに穏やかな表情で・・・声で私に語り掛けて来る事は無かった。私の目の前にいるのは本物のオスカーなのだろうか・・?
するとオスカーが私の視線に気づいたのか、見下ろすと言った。

「どうした?アイリス。疲れたのか?」

「い、いえ。大丈夫です。」

「そうか・・・なら行こう。追手が来るかもしれないからな。」

そしてオスカーは城に背を向けると歩き始め、私は彼の背中を追った―。


 私とオスカーは無言でしばらく歩き続け・・やがて眼前に広がる草原の先に小さな集落が見えてきた。

「集落が見えてきたな。アイリス、大丈夫か?」

「は、はい・・・。」

何とかオスカーの前で気丈に返事をするものの、私の足は限界だった。オスカーは知らないのだ。私が今まで裸足で歩いていると言う事に。しかし、私はその事を黙っていた。オスカーだって体力が万全ではない。もしかすると私たちは追われているかもしれない。その事を考えると休んでいる暇は無いだろう。なので言い出せずにいたのだ。

「どうした?アイリス。顔色が悪いぞ?」

前方を歩くオスカーが私の異変に気付いたのか、立ち止まると近くに寄って来た。そして顔色を青ざめさせた。

「アイリスッ!お前・・・足をどうしたんだっ?!」

「足・・・ですか?」

「ああ、そうだ!足を痛めたのか?!」

「え・・?何故その事を・・・。」

言いかけて私は息を飲んだ。私が歩いて来た草むらには血が点々と続いていたからだ。

「気が付かなかった・・・。」

思わずポツリと呟くと、オスカーは私に言った。

「アイリス。足を見せて見ろ。」

「はい・・・。」

私はドレスの裾を少しまくった。そこには素足で汚れにまみれてしまった自分の足が見える。

「アイリスッ!お前・・・裸足だったのか?!何故・・・何故裸足なんだ?!」

オスカーは驚いた顔で私を見た。

「あの・・・それは陛下から逃げて・・オスカー様の元へ行くときにヒールを脱ぎ捨てて・・。」

沈痛な面持ちで私を見ていたオスカーが言った。

「傷の状態を見る。アイリス、俺に捕まっていろ。」

オスカーが私の目の前でしゃがんだ。言われた私は指輪をしていな左手でオスカーの肩に手を置いた。・・・何故なら右手で触れたらオスカーの思考が流れ込んでくるような気がしたからだ。今、彼の思考を読むのは・・・酷く不謹慎に思えたのだ。
オスカーは私の足の裏をひっくり返し、途端に顔を歪めた。傷の様子は分からないが・・・足の裏は酷くズキズキと痛むし、熱を持っている。恐らく・・・傷の状態が良くないのだろう。

それを見た途端、オスカーの顔色が変わった。

「こんな・・・ひどい傷で・・・。」

振り絞るような声でオスカーが言う。

「あの・・・大丈夫です。見た目は酷いのかもしれませんが・・集落までは歩けますから。」

そう・・だって70年前、私は裸足で流刑島へ流されたのだから・・・。


「アイリス・・・。」

オスカーが私を見つめて名を呼ぶ。そして次の瞬間、私はオスカーに抱きすくめられていた。

「オ・・オスカー様・・・?」

突然の抱擁に驚く私に、オスカーは身体を震わせて言う。

「アイリス・・・お、お前・・・。裸足になってまで俺を助けに来たのか?そんな足で・・・今まで黙って俺の後をついて歩いて来たのか・・・?」
 
「は、はい・・・。」

すると、オスカーが私を抱きかかえた。

「あ、あの!な、何をっ?!」

戸惑う私にオスカーが言う。

「じっとしていろ。このまま集落へ向かう。」

「は、はい・・・。」

そしてオスカーは私を抱き上げたまま集落へと向かった―。
  

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

処理中です...