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第2章 12 心を覗いて

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「取りあえず・・・座って話さないか?まだ顔色も悪そうだし・・・。」

ソファに座ったオスカーに促され、私は頷いた。

「はい、そうですね・・。」

そして私はオスカーの向かい側のソファに座ると顔を上げた。

「オスカー様・・・。失礼を承知で申し上げますが・・・今目の前にいらっしゃるのは・・本物のオスカー様でいらっしゃいますよね・・・・?」

「ああ、そうだ。本来であれば父は今日の入学式は俺ではなく影武者に登校させようとしていたんだ。だが、俺はあいつ等の裏をかき、影武者のふりをして城を抜け出してお前に迎えの馬車をやったんだ。」

「オスカー様・・・。」

私は彼の話を本当に信じていいのだろうか?だが・・・確かに70年前のオスカーと今のオスカーが明らかに違うのは分かる。でも仮に・・・これが演技だとしたら・・?

確かめたい。

私はそう思った。今、私の右手の薬指には相手の心の声を聞くことが出来る指輪がはめられている。この手でオスカーに触れれば・・・。
私はソファから立ちあがった。

「どうした?アイリス?」

オスカーは私が突然立ち上がったので不思議そうにこちらを見た。

「オスカー様。」

私はオスカーの傍に寄ると隣に座った。

「アイリス・・・?」

「オスカー様、私は・・・その影武者と言う方に会う事は出来るのでしょうか・・?」

そっと右手でオスカーの左手に触れながら尋ねた。

「何を突然言い出すんだ?会えるはずがないだろう?本来であれば、影武者がいる事すら口外してはいけない事なのに・・無茶を言うな。」

オスカーは私に答えた。そしてそれとは別にオスカーの思考が私の頭の中に流れ込んでくる。

< ひょっとすると、アイリスは俺の話を疑っているのか・・・?影武者なんかいるはずは無いと・・・?だから会う事は出来るのかと尋ねてきたのか・・?会わせられるものなら、俺だって会わせてアイリスの疑いを晴らしたいが・・・。>

私はその思考を呼んで確信した。今、私の目の前にいるのは本物のオスカーに違いないと。

「そうですね。無茶なお願いをして申し訳ございませんでした。」

オスカーの左手から自分の右手を離し、私は席を立つと頭を下げて向かい側のソファに戻ろうとするとオスカーが声を掛けてきた。

「何所へ行く?アイリス。」

「え・・・?先程座っていた場所に戻ろうかと・・・。」

「いいからここにいろ。」

「え?」

「そのまま俺の隣に座っていろ。」

「は、はい・・・。」

逆らってオスカーの機嫌を損ねるのは嫌だったので私は素直に座ることにした。

「アイリス・・・。」

オスカーが声を掛けてきた。

「はい、何でしょう。」

「今は・・・俺は本物のオスカーだが・・・いつ、どこで影武者に入れ替われてしまうか分からない・・危うい立場にいるんだ。全ては俺の髪が赤毛の為・・俺の評判を落とし、王族の地位を剥奪する為に・・・。」

 そう言えば、私が島流しにあった後・・・結局王族は滅びてしまった・・。ひょっとするとオスカーが反乱を起こしたのが滅びた原因の一つだったのだろうか・・?

そこまで考えた時、私はあることに気が付いた。

え・・・?ちょっと待って・・・?どうして私は王族が滅びたことを知ってるの?流刑島で70年間死ぬまであの島から出る事も無く・・死んでしまったのに・・?
そう言えば、私は一人ぼっちじゃ無かった気がする。あの島で誰かと一緒に・・・

ズキッ!!

突如、激しい頭痛が襲ってきた。その頭痛は段々酷くなってきた。
まるで脈を打つようにズキズキ痛む頭を思わず抑えると、オスカーが私の異変に気が付いた。

「おい?アイリス?お前・・・また気分が悪くなってきたのか?顔色が真っ青だぞ?!」

オスカーの大きな声が痛む頭に余計に強く響いてくる。

「オ、オスカー様・・・。」

どうか・・・あまり大きな声を・・出さないで・・・。

「アイリスッ!しっかしろっ!アイリスッ!」

オスカーが私に名を呼ぶ。

「お、お願いです・・。オスカー様・・あ、頭が痛むので・・・お静かにして・・頂けませんか・・・?」

「何・・・?頭が・・・痛むのか・・?アイリス、口を開けろ。」

オスカーが私を抱きかかえたまま言った。

「え・・?」

その時、何か口の中に粒のような物を押し込まれ、思わずゴクンと飲み込んでしまった。

「オスカー様・・?い、今のは・・?」

抱きかかえられたまま私が尋ねるとオスカーが言った。

「今飲ませたのは痛み止めの丸薬だ。」

「いつも・・・持ち歩いているのですか・・・?」

「ああ、俺は・・いつどこで命を狙われるか分からない身だからな。他に傷薬も持ち歩いている。じきに・・薬が効いてくると思うから・・少し安静にしていろ。」

「ありがとうございます・・・。」


それは・・70年前には一度も聞いたことが無い、優し気なオスカーの声だった―。
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