12 / 152
第1章 6 邂逅
しおりを挟む
オスカー・オブ・ウィンザード・・・!
私は息を飲んで、正面に座ったオスカーを見つめた。彼を見ているだけで、70年前の記憶が鮮明に蘇って来る。不当な扱い・・そして暴力・・最後には流刑島へ置いてきぼりにされたあの記憶が・・・!だけど、私は70年間の記憶がある。あの永久に続くとも思える辛い生活を長い間耐えて生き抜いてきたのだ。精神力だって鍛えられている。だから臆することなく私は真っすぐにオスカーの目を見つめると言った。
「お初にお目にかかります。オスカー・オブ・ウィンザード王太子様。アイリス・イリヤと申します。」
そして深々と頭を下げた。
「フン・・・。何がお初にお目にかかります、だ。一度も俺の前に姿を見せなかった女のいう台詞か?」
オスカーは真っ赤な髪をかき上げ、乱暴に足を組むと吐き捨てるように言った。そう、オスカーの考えでは自分が婚約者である私に会いに行くのではなく、私が足を運ぶのを当然だと思っていたのだ。勿論、当時のイリヤ家はそんな事は露とも知らなかった。常識的に考えて男性が婚約者の家に足を運ぶのが当然の事だったからである。
「それについては、大変申し訳ない事をしてしまったと深く反省しております。どうぞお許し下さい。」
謝罪の言葉を述べたが、オスカーはそれでは満足しない様子で私をじろりと睨み付けると言った。
「俺は謝罪の言葉を聞きたいわけじゃない。何故、婚約者である俺の前に13年もの間一度も挨拶に来なかったのかを聞いているのだ。」
やはり、その事を聞いて来たか・・・。しかし、オスカーは肝心な事を忘れている。
王家へ参上するには、私たちは招待を受けない限りは伺う事が出来ないと言う事を。父や兄たちは国王から直々に声がかかり、城へ参上した事はあったが、私には一度も声がかかった事が無かったからだ。そしてオスカーは一度も13年間私に城へ来るようにと声を掛けてくれた事は無かった。
「恐れ入りますが、オスカー様。私達のように王族の方々より身分の低い者は王宮からお声がかからない限り、お伺いする事が出来ないのでございます。私は一度もお声を掛けて頂いた事がございません。なのでお城に参上する事が出来なかったのでございます。」
するとそれを聞いたオスカーは驚いたような顔つきをした。
「な・・何・・・?そうだった・・・のか?」
「はい、さようでございます。」
するとオスカーが小さく呟く声を私は聞き逃さなかった。
「何だ・・・俺はまたてっきり・・・俺に会うのが嫌だとばかり・・。」
しかし、私はその独り言をあえて聞こえないふりをした。昔の私だったら、ここで大人げない態度を取っていたかもしれない。だが・・・70年という歳月は私を大人へと成長させた。オスカーがこのような暴君ぶりな人間になったのはコンプレックスが原因だったのだ。ウィンザード家で赤毛の髪を持つ人間はオスカーしかいない。
他の王族たちは全員ブロンドヘアーである。この世界では古くから赤毛の人間は差別を受けて生きていたからだ。その差別の対象となるべき人間が王家に生まれてしまったからだ。オスカーには5人の兄姉達がいて、彼は一番末っ子の王子であった。本来なら末っ子として可愛がられて育つ立場であるはずが、赤毛として生まれてきてしまったが為に、1人離宮で育てられてきた。彼が歪んだ正確に育ってしまったのは周りの環境も悪かったのだ。
だが・・・それでも私は彼に心を許すつもりも無ければ、同情するつもりも・・ましてや流刑島に流されるつもりも毛頭無い。
私は私の本来の人生を取り戻すために時間を超えて、ここに戻って来たのだから―。
私は息を飲んで、正面に座ったオスカーを見つめた。彼を見ているだけで、70年前の記憶が鮮明に蘇って来る。不当な扱い・・そして暴力・・最後には流刑島へ置いてきぼりにされたあの記憶が・・・!だけど、私は70年間の記憶がある。あの永久に続くとも思える辛い生活を長い間耐えて生き抜いてきたのだ。精神力だって鍛えられている。だから臆することなく私は真っすぐにオスカーの目を見つめると言った。
「お初にお目にかかります。オスカー・オブ・ウィンザード王太子様。アイリス・イリヤと申します。」
そして深々と頭を下げた。
「フン・・・。何がお初にお目にかかります、だ。一度も俺の前に姿を見せなかった女のいう台詞か?」
オスカーは真っ赤な髪をかき上げ、乱暴に足を組むと吐き捨てるように言った。そう、オスカーの考えでは自分が婚約者である私に会いに行くのではなく、私が足を運ぶのを当然だと思っていたのだ。勿論、当時のイリヤ家はそんな事は露とも知らなかった。常識的に考えて男性が婚約者の家に足を運ぶのが当然の事だったからである。
「それについては、大変申し訳ない事をしてしまったと深く反省しております。どうぞお許し下さい。」
謝罪の言葉を述べたが、オスカーはそれでは満足しない様子で私をじろりと睨み付けると言った。
「俺は謝罪の言葉を聞きたいわけじゃない。何故、婚約者である俺の前に13年もの間一度も挨拶に来なかったのかを聞いているのだ。」
やはり、その事を聞いて来たか・・・。しかし、オスカーは肝心な事を忘れている。
王家へ参上するには、私たちは招待を受けない限りは伺う事が出来ないと言う事を。父や兄たちは国王から直々に声がかかり、城へ参上した事はあったが、私には一度も声がかかった事が無かったからだ。そしてオスカーは一度も13年間私に城へ来るようにと声を掛けてくれた事は無かった。
「恐れ入りますが、オスカー様。私達のように王族の方々より身分の低い者は王宮からお声がかからない限り、お伺いする事が出来ないのでございます。私は一度もお声を掛けて頂いた事がございません。なのでお城に参上する事が出来なかったのでございます。」
するとそれを聞いたオスカーは驚いたような顔つきをした。
「な・・何・・・?そうだった・・・のか?」
「はい、さようでございます。」
するとオスカーが小さく呟く声を私は聞き逃さなかった。
「何だ・・・俺はまたてっきり・・・俺に会うのが嫌だとばかり・・。」
しかし、私はその独り言をあえて聞こえないふりをした。昔の私だったら、ここで大人げない態度を取っていたかもしれない。だが・・・70年という歳月は私を大人へと成長させた。オスカーがこのような暴君ぶりな人間になったのはコンプレックスが原因だったのだ。ウィンザード家で赤毛の髪を持つ人間はオスカーしかいない。
他の王族たちは全員ブロンドヘアーである。この世界では古くから赤毛の人間は差別を受けて生きていたからだ。その差別の対象となるべき人間が王家に生まれてしまったからだ。オスカーには5人の兄姉達がいて、彼は一番末っ子の王子であった。本来なら末っ子として可愛がられて育つ立場であるはずが、赤毛として生まれてきてしまったが為に、1人離宮で育てられてきた。彼が歪んだ正確に育ってしまったのは周りの環境も悪かったのだ。
だが・・・それでも私は彼に心を許すつもりも無ければ、同情するつもりも・・ましてや流刑島に流されるつもりも毛頭無い。
私は私の本来の人生を取り戻すために時間を超えて、ここに戻って来たのだから―。
38
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる