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第202話 重なる思い <完>
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「再婚ならしていないわ。ずっと独り身よ。今も実家で暮らしているもの」
「そうだよな。だから連絡が取れてエルザがここに来てくれたんだよな……」
ポツリとセシルが呟く。
「それで?あの女の子のこと、教えてくれる?今幾つなの?」
「あの子はまだ4歳なんだ。……母親は2週間前に病気で亡くなったんだ」
「……え?」
「そ、それじゃ……あの子の父親は……?」
「父親は…いない。アリスンの母親は恋人に捨てられてしまったんだよ。お腹にあの子がいると分かった時にね。そして自分1人であの子を育ててきたんだ」
セシルはじっとアリスンを見つめた。
「……」
私は黙ってセシルの次の言葉を待った。
「アリスンの母親は2年前に俺が事務員の募集を掛けてきた時、面接に来たんだ。どうしても生活の為に雇って貰いたいと言ってね。…驚いたよ。面接に子連れで現れたときには。本当は断ろうとしたけど……俺が雇ってやらなければこの親子は露頭に迷うかも知れないと思うと断れなかったんだ」
「セシルらしいわね」
そうだ、セシルはぶっきらぼうのところもあったけど…根は優しい人だった。
「それで俺は彼女を雇ったんだよ。住むところも無くて困っていたから俺がアパートを借りて格安で住まわせていたんだ。だけど彼女は病を患っていたんだ……」
「え……?」
その話に耳を疑った。
「彼女は父親もいな子供を産んだということで、親からは絶縁されていた。余命まで言い渡されていたんだよ。そこで兄さんと…エルザの事が頭をよぎったんだ。俺がなんとかしてやらないといけないと思って……家族には内緒で籍を入れたんだよ。勿論形だけの結婚だったけどな。実際、一緒には住んだことはなかったし。それが2年前のことだったんだ」
セシルは照れ臭そうに笑った。
2年前と言えば、セシルからの連絡が途絶えた頃だ。
でもそんな事情があれば、私と音信不通になるのも無理は無い。
「そうだったのね……」
「それで、いつあの子のお母さんは亡くなったの?」
「半月ほど前に亡くなったんだ。…可愛そうだったよ。すっかりやせ細ってしまって……彼女の最期は俺が看取ったんだ。そしてここに墓を建てたんだよ」
「え?」
それはあまりにも意外な話だった。
「彼女が亡くなって、籍は抜いたよ。アリスンは俺の養子にしたんだ」
セシルは私をじっと見つめてくる。
「エルザ……会社はこの10年で以前よりももっと大きくなった。『カリス』での仕事は俺の親友に支社長を頼むことにしたんだ」
そして私の手を握りしめてきた。
「今も独り身ってことは…俺を待っていてくれたと思っていいよな?」
「……ええ。そうね」
「エルザ、俺と結婚してくれないか?そしてアリスンの母親になってもらえないか?」
セシルが私の手を握る手に力を込める。
セシルが自分の気持ちを伝えてきた……。
今度は私が自分の気持ちを伝える番だ。
「セシル。聞いてくれる?私ね……子供は女の子も欲しいと思っていたのよ?」
「え……?」
セシルが目を見開く。
「そ、それじゃ…エルザ……」
「ええ。勿論返事は『はい』よ」
笑みを浮かべてセシルを見つめた。
「エルザ……!愛してる……!」
セシルが私の手を引き、抱きしめてくると唇を重ねてきた。
セシル……。
私は彼の首に腕を回した。
キスを交わしながら私は心の中でフィリップに語りかけた。
フィリップ……もう、セシルの愛に応えてもいいわよね……?
すると、遠くでフィリプの笑い声が聞こえた気がした。
****
それから3ヶ月後……。
アンバー家とブライトン家に祝福されながら私とセシルは結婚式を挙げた。
フィリップと式を挙げたあの教会で。
私のヴェールを持ってくれるのはルークとアリスン。
2人とも笑顔で私達を見つめている。
見ていてね、天国のフィリップ。
私……必ず幸せになるから――。
<完>
「そうだよな。だから連絡が取れてエルザがここに来てくれたんだよな……」
ポツリとセシルが呟く。
「それで?あの女の子のこと、教えてくれる?今幾つなの?」
「あの子はまだ4歳なんだ。……母親は2週間前に病気で亡くなったんだ」
「……え?」
「そ、それじゃ……あの子の父親は……?」
「父親は…いない。アリスンの母親は恋人に捨てられてしまったんだよ。お腹にあの子がいると分かった時にね。そして自分1人であの子を育ててきたんだ」
セシルはじっとアリスンを見つめた。
「……」
私は黙ってセシルの次の言葉を待った。
「アリスンの母親は2年前に俺が事務員の募集を掛けてきた時、面接に来たんだ。どうしても生活の為に雇って貰いたいと言ってね。…驚いたよ。面接に子連れで現れたときには。本当は断ろうとしたけど……俺が雇ってやらなければこの親子は露頭に迷うかも知れないと思うと断れなかったんだ」
「セシルらしいわね」
そうだ、セシルはぶっきらぼうのところもあったけど…根は優しい人だった。
「それで俺は彼女を雇ったんだよ。住むところも無くて困っていたから俺がアパートを借りて格安で住まわせていたんだ。だけど彼女は病を患っていたんだ……」
「え……?」
その話に耳を疑った。
「彼女は父親もいな子供を産んだということで、親からは絶縁されていた。余命まで言い渡されていたんだよ。そこで兄さんと…エルザの事が頭をよぎったんだ。俺がなんとかしてやらないといけないと思って……家族には内緒で籍を入れたんだよ。勿論形だけの結婚だったけどな。実際、一緒には住んだことはなかったし。それが2年前のことだったんだ」
セシルは照れ臭そうに笑った。
2年前と言えば、セシルからの連絡が途絶えた頃だ。
でもそんな事情があれば、私と音信不通になるのも無理は無い。
「そうだったのね……」
「それで、いつあの子のお母さんは亡くなったの?」
「半月ほど前に亡くなったんだ。…可愛そうだったよ。すっかりやせ細ってしまって……彼女の最期は俺が看取ったんだ。そしてここに墓を建てたんだよ」
「え?」
それはあまりにも意外な話だった。
「彼女が亡くなって、籍は抜いたよ。アリスンは俺の養子にしたんだ」
セシルは私をじっと見つめてくる。
「エルザ……会社はこの10年で以前よりももっと大きくなった。『カリス』での仕事は俺の親友に支社長を頼むことにしたんだ」
そして私の手を握りしめてきた。
「今も独り身ってことは…俺を待っていてくれたと思っていいよな?」
「……ええ。そうね」
「エルザ、俺と結婚してくれないか?そしてアリスンの母親になってもらえないか?」
セシルが私の手を握る手に力を込める。
セシルが自分の気持ちを伝えてきた……。
今度は私が自分の気持ちを伝える番だ。
「セシル。聞いてくれる?私ね……子供は女の子も欲しいと思っていたのよ?」
「え……?」
セシルが目を見開く。
「そ、それじゃ…エルザ……」
「ええ。勿論返事は『はい』よ」
笑みを浮かべてセシルを見つめた。
「エルザ……!愛してる……!」
セシルが私の手を引き、抱きしめてくると唇を重ねてきた。
セシル……。
私は彼の首に腕を回した。
キスを交わしながら私は心の中でフィリップに語りかけた。
フィリップ……もう、セシルの愛に応えてもいいわよね……?
すると、遠くでフィリプの笑い声が聞こえた気がした。
****
それから3ヶ月後……。
アンバー家とブライトン家に祝福されながら私とセシルは結婚式を挙げた。
フィリップと式を挙げたあの教会で。
私のヴェールを持ってくれるのはルークとアリスン。
2人とも笑顔で私達を見つめている。
見ていてね、天国のフィリップ。
私……必ず幸せになるから――。
<完>
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