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第196話 アンバー家との別れ
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食事が始まると、すぐにセシルが尋ねてきた。
「エルザ、もう荷造りは終わったのか?」
「ええ、終わったわ。大した荷物は無いもの」
「そうか……。それじゃ明日の朝にはもう出発出来るんだな」
「ええ、そうね」
「「……」」
その後、少しの沈黙の後私はセシルにお礼を伝えた。
「ありがとう、セシル。どれも私の好きな料理を用意してくれて」
「エルザの好きな料理は俺も食べてみたかったからな。それに……エルザのことは知っておきたかったし」
「え?」
顔を上げると、セシルは慌てた様子を見せた。
「い、いや。今の話は忘れてくれ。つい口が滑って……。考えてみればエルザには迷惑な話だったよな」
向かい側のテーブルに座るセシルの顔がキャンドルの灯りに照らされてオレンジ色に染まっている。
今のセシルはもはや私に対する好意を隠そうとすることもない。
「セシル……」
その気持に応えてあげられればいいのに……今の私にはまだ出来そうにない。
「エルザ、アンバー家に戻ったらどうするつもりだ?」
セシルがワインを飲みながら尋ねてきた。
「まだ……分からないわ。でも暫くの間はルークの子育てに専念するわ。そして落ち着いたら、何処かで働こうかと思っているの」
「そうか。もう色々考えているんだな。俺も……身体が完治したら色々考えているんだ。ちょっとした夢があってね」
セシルの夢……?
それはどのような夢なのだろうか?疑問に思ったけれども、尋ねるのは躊躇われた。
セシルの気持ちに応えられない私には彼の夢を尋ねる資格は無いのでは無いかと思ったからだ。
そしてその後も私とセシルは色々な話をした。
それは殆んどがフィリップとの思い出の話だった。
セシルが記憶喪失だった頃は決して話せなかった大切な思い出話。
今もまだフィリップの事を思い出すと胸が締め付けられそうにはなるけれども、彼の話しを誰かと共有出来るのはとても嬉しいことだった。
そして、私とセシルの2人だけの晩餐会は静かに終わった――。
****
翌朝――。
いつものように部屋で朝食を食べ終えた私はルークの授乳とオムツ替えを行っていた。
コンコン
丁度おむつ交換を終えた頃に部屋の扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、チャールズさんとクララが現れた。
「エルザ様、馬車の用意が出来ました」
「お荷物、馬車までお持ちしますね」
チャールズさんとクララが交互に声を掛けてくる。
「どうもありがとうございます」
2人にお礼を述べると、ルークを胸に抱き上げた。
そして3人でエントランスへと向かった……。
馬車の前には離れで働いていた人たちが全員勢ぞろいしていた。
皆、仕事の手を休めて私とルークの見送りに来てくれていたのだ。
けれど、そこにはセシルの姿はない。
「セシル様と旦那さまと奥様は病院に行かれております。本日は定期診察の日ですので」
チャールズさんが教えてくれた。
「そうだったのですね。分かりました。セシルに宜しく伝えて下さい」
次に私は集まっている使用人全員を見渡した。
「皆さん、今迄大変お世話になりました。どうぞお元気でいてください」
私の言葉に全員が頷き……次々と声を掛けてきてくれた。
そして挨拶が終了した私は馬車に乗り込み、アンバー家を後にした。
元気でね、セシル。
遠ざかっていくアンバー家の屋敷を見つめながら、私は心の中で呟いた。
また、近い内にセシルに会うことはあるだろう。
この時の私は、気楽に考えていたのだった――。
「エルザ、もう荷造りは終わったのか?」
「ええ、終わったわ。大した荷物は無いもの」
「そうか……。それじゃ明日の朝にはもう出発出来るんだな」
「ええ、そうね」
「「……」」
その後、少しの沈黙の後私はセシルにお礼を伝えた。
「ありがとう、セシル。どれも私の好きな料理を用意してくれて」
「エルザの好きな料理は俺も食べてみたかったからな。それに……エルザのことは知っておきたかったし」
「え?」
顔を上げると、セシルは慌てた様子を見せた。
「い、いや。今の話は忘れてくれ。つい口が滑って……。考えてみればエルザには迷惑な話だったよな」
向かい側のテーブルに座るセシルの顔がキャンドルの灯りに照らされてオレンジ色に染まっている。
今のセシルはもはや私に対する好意を隠そうとすることもない。
「セシル……」
その気持に応えてあげられればいいのに……今の私にはまだ出来そうにない。
「エルザ、アンバー家に戻ったらどうするつもりだ?」
セシルがワインを飲みながら尋ねてきた。
「まだ……分からないわ。でも暫くの間はルークの子育てに専念するわ。そして落ち着いたら、何処かで働こうかと思っているの」
「そうか。もう色々考えているんだな。俺も……身体が完治したら色々考えているんだ。ちょっとした夢があってね」
セシルの夢……?
それはどのような夢なのだろうか?疑問に思ったけれども、尋ねるのは躊躇われた。
セシルの気持ちに応えられない私には彼の夢を尋ねる資格は無いのでは無いかと思ったからだ。
そしてその後も私とセシルは色々な話をした。
それは殆んどがフィリップとの思い出の話だった。
セシルが記憶喪失だった頃は決して話せなかった大切な思い出話。
今もまだフィリップの事を思い出すと胸が締め付けられそうにはなるけれども、彼の話しを誰かと共有出来るのはとても嬉しいことだった。
そして、私とセシルの2人だけの晩餐会は静かに終わった――。
****
翌朝――。
いつものように部屋で朝食を食べ終えた私はルークの授乳とオムツ替えを行っていた。
コンコン
丁度おむつ交換を終えた頃に部屋の扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、チャールズさんとクララが現れた。
「エルザ様、馬車の用意が出来ました」
「お荷物、馬車までお持ちしますね」
チャールズさんとクララが交互に声を掛けてくる。
「どうもありがとうございます」
2人にお礼を述べると、ルークを胸に抱き上げた。
そして3人でエントランスへと向かった……。
馬車の前には離れで働いていた人たちが全員勢ぞろいしていた。
皆、仕事の手を休めて私とルークの見送りに来てくれていたのだ。
けれど、そこにはセシルの姿はない。
「セシル様と旦那さまと奥様は病院に行かれております。本日は定期診察の日ですので」
チャールズさんが教えてくれた。
「そうだったのですね。分かりました。セシルに宜しく伝えて下さい」
次に私は集まっている使用人全員を見渡した。
「皆さん、今迄大変お世話になりました。どうぞお元気でいてください」
私の言葉に全員が頷き……次々と声を掛けてきてくれた。
そして挨拶が終了した私は馬車に乗り込み、アンバー家を後にした。
元気でね、セシル。
遠ざかっていくアンバー家の屋敷を見つめながら、私は心の中で呟いた。
また、近い内にセシルに会うことはあるだろう。
この時の私は、気楽に考えていたのだった――。
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