164 / 204
第162話 悩む母娘
しおりを挟む
滞在先のスイートルームに到着すると、ドアノッカーを掴んで扉をノックした。
コンコン
すると、ややあって……。
カチャリと鍵の開閉音が聞こえ、ゆっくりと扉は開かれた。
「まぁ、エルザじゃないの。どうして戻って来たの?まだ次の授乳までは時間があるのに」
今の時刻は午後2時を少し過ぎたところだった。
本来であれば、午後3時にホテルに戻る予定だったので1時間前倒しの時間に私が戻ったので母は驚いたのだろう。
「ええ‥‥ちょっと訳があって‥‥。帰ってきてしまったの。何だか疲れてしまったし」
「ええ、そうね。顔色が良くないわ。少し休んだ方が良さそうね。早く中へお入りなさい」
「ええ……」
母に促されて部屋の中へと入ると、まずはルークの様子を見に行った。
ルークは日当たりのよい窓際に置かれたベビーベッドで眠っていた。
「フフフ……何て可愛いのかしら。本当に天使みたい…‥」
私とフィリップの愛の結晶、彼の忘れ形見‥‥そして何よりも大切な存在。
そしてセシルはルークを自分の子供だと勘違いしている。
「フィリップ……私、これからどうすればいいの?どうして‥‥貴方は私の傍にいないの……?」
眠っているルークの小さな頬にそっと触れながら、思わず目に涙が浮かびそうになった時‥‥。
「エルザ、ハーブティーを淹れたわ。お飲みなさい?気持ちが落ち着くわよ」
母が背後から声を掛けて来た。
「ええ、お母様」
眠っているルークにキスすると、ソファに座る母の元へ向かった。
「お飲みなさい、貴女の好きなラベンダーティーよ?」
木目のテーブルの上にはカップにそそがれたハーブティーが湯気を立てながら良い香りを漂わせている。
その香りを嗅ぐだけで、何となく心が落ち着いてくる。さらにテーブルの上には小さなクッキーも乗っている。
「ありがとう、お母様。早速頂くわ」
ソファに座るとカップを手に取り、そっと口につけた。途端にラベンダーの香りが鼻腔をくすぐる。
「いい香り……とても美味しいわ……」
「そう、それは良かったわ。それでエルザ……セシルと何かあったのでしょう?」
「え?ど、どうしてそれを……?」
母の問いかけにドキリとした。
「それくらい分かるわよ。そうでも無ければこんなに早く戻ってくるはずないもの。それで?一体何があったの?」
「え、ええ‥‥。その、セシルが……私のことを妻と思っているから、過剰なスキンシップを……」
あまり母には伝えにくいことだ。
家族のキスと恋人同士や夫婦のキスとでは違うのだから。
「え?何か変な事をされたの?」
母が眉をしかめた。
「へ、変なこと…と言うよりは…そ、その…キスを…。夫婦だからそれ位構わないだろうってセシルが……それどころかルークは自分の子供だと思い込んでいるのよ。そえで困ってしまって‥‥お義母様に連絡を入れたら、駆けつけて来てくれて今セシルと一緒にいるわ」
「そうだったの……?全く、何てことなの…?」
母はため息をつくと頭を押さえてしまった。
セシル‥‥。
ひょっと彼はずっと私と夫婦になることを夢見ていたのだろうか?
その願望が、馬車事故をきっかけに記憶喪失を引き起こしているのなら‥‥私はセシルにこの先どうやって接していけばいいのだろう?
いくら考えても答えは見つからなかった――。
コンコン
すると、ややあって……。
カチャリと鍵の開閉音が聞こえ、ゆっくりと扉は開かれた。
「まぁ、エルザじゃないの。どうして戻って来たの?まだ次の授乳までは時間があるのに」
今の時刻は午後2時を少し過ぎたところだった。
本来であれば、午後3時にホテルに戻る予定だったので1時間前倒しの時間に私が戻ったので母は驚いたのだろう。
「ええ‥‥ちょっと訳があって‥‥。帰ってきてしまったの。何だか疲れてしまったし」
「ええ、そうね。顔色が良くないわ。少し休んだ方が良さそうね。早く中へお入りなさい」
「ええ……」
母に促されて部屋の中へと入ると、まずはルークの様子を見に行った。
ルークは日当たりのよい窓際に置かれたベビーベッドで眠っていた。
「フフフ……何て可愛いのかしら。本当に天使みたい…‥」
私とフィリップの愛の結晶、彼の忘れ形見‥‥そして何よりも大切な存在。
そしてセシルはルークを自分の子供だと勘違いしている。
「フィリップ……私、これからどうすればいいの?どうして‥‥貴方は私の傍にいないの……?」
眠っているルークの小さな頬にそっと触れながら、思わず目に涙が浮かびそうになった時‥‥。
「エルザ、ハーブティーを淹れたわ。お飲みなさい?気持ちが落ち着くわよ」
母が背後から声を掛けて来た。
「ええ、お母様」
眠っているルークにキスすると、ソファに座る母の元へ向かった。
「お飲みなさい、貴女の好きなラベンダーティーよ?」
木目のテーブルの上にはカップにそそがれたハーブティーが湯気を立てながら良い香りを漂わせている。
その香りを嗅ぐだけで、何となく心が落ち着いてくる。さらにテーブルの上には小さなクッキーも乗っている。
「ありがとう、お母様。早速頂くわ」
ソファに座るとカップを手に取り、そっと口につけた。途端にラベンダーの香りが鼻腔をくすぐる。
「いい香り……とても美味しいわ……」
「そう、それは良かったわ。それでエルザ……セシルと何かあったのでしょう?」
「え?ど、どうしてそれを……?」
母の問いかけにドキリとした。
「それくらい分かるわよ。そうでも無ければこんなに早く戻ってくるはずないもの。それで?一体何があったの?」
「え、ええ‥‥。その、セシルが……私のことを妻と思っているから、過剰なスキンシップを……」
あまり母には伝えにくいことだ。
家族のキスと恋人同士や夫婦のキスとでは違うのだから。
「え?何か変な事をされたの?」
母が眉をしかめた。
「へ、変なこと…と言うよりは…そ、その…キスを…。夫婦だからそれ位構わないだろうってセシルが……それどころかルークは自分の子供だと思い込んでいるのよ。そえで困ってしまって‥‥お義母様に連絡を入れたら、駆けつけて来てくれて今セシルと一緒にいるわ」
「そうだったの……?全く、何てことなの…?」
母はため息をつくと頭を押さえてしまった。
セシル‥‥。
ひょっと彼はずっと私と夫婦になることを夢見ていたのだろうか?
その願望が、馬車事故をきっかけに記憶喪失を引き起こしているのなら‥‥私はセシルにこの先どうやって接していけばいいのだろう?
いくら考えても答えは見つからなかった――。
34
お気に入りに追加
2,170
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる