上 下
163 / 204

第161話 受け入れ難い行為

しおりを挟む
「セ、セシル?い、一体突然何するのよ?!」

驚いて、とっさにセシルの身体から離れ、唇を押さえて彼を見た。
けれど私の心の同様をよそに、セシルは不思議そうな顔をして見つめている。

「何するって……?たかがキスをしただけじゃないか。俺たちは夫婦なんだからそれくらい当然のことだろう?何故そんなに驚く必要がある?」

「え……?」

そうだった。
セシルの中では……私達は夫婦なのだ。
今のセシルにとってキスは当然の行為なのかもしれない。
だけど……私に取っては……!

「あ、あのね。セシル…ここは病室なのよ?いつ他の人達が入って来るか分からないのよ?それに貴方は怪我人なのだから……」

そこから先はなんと言葉を伝えれば良いのか思い浮かばなかった。


「うん……けどな…別に夫婦なんだから病室でキスする位なら誰かに見られたとしても別に俺は少しも構わないけどな」

「そ、そんな……そ、それでも私はやっぱりイヤよ……」

俯いて、それだけ言うのがやっとだった。

駄目だ。
キスくらい別に構わないとセシルは言うけれども、私にとってはとんでもないことだった。

「ごめん……悪かった。分かった、もう病室ではそんなことはしないと誓うから……毎日面会に来てくれるよな?」

切なげな目で訴えてくるセシル。

「セシル……」

その時、お医者様に言われたことが脳裏に蘇ってくる。

無理に記憶を戻すようなことはしていはいけないということ。時が経てばいずれ記憶が戻るかもしれないので今は本人の話を肯定してあげるようにすることを――。

先程、私の不用意な発言でセシルは酷い頭痛を起してしまった。
それにセシルにはフィリップが亡くなった時に、色々お世話になっている。
何より……セシルは大切な幼馴染……。

「分かったわ……明日も来るから、そんな顔をしないで?」

そこまで言いかけた時――。


コンコン

扉がノック音と共に開かれ、義母が室内へと入ってきた。

「エルザ……遅くなってごめんなさい……」

義母は余程慌てて来たのか、肩で息をしていた。

「お義母様……ありがとうございます。すぐにいらしていただいて」

「エルザ……」

義母に深々と頭を下げると、次にセシルに声を掛けた。

「セシル、それじゃお義母様がいらしたので私は帰らせて貰うわね?」

「ああ、分かったよ、また明日……待ってるから」

笑みを浮かべて私を見るセシルは普段通りの彼に見える。

「え、ええ……またね。セシル」

そしてセシルが義母と話をしている合間に手早く荷物を片付けると、2人に挨拶をしてまるで逃げるように私は病室を後にした。

これから先、どうすれば良いのか、具体的な対応策も頭にうかばないまま――。



しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...