挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

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第142話 屋敷に来た人

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 19時半――
 
夕食を食べ終え、自室でルークの授乳とおむつ交換を終えた頃のことだった。

コンコン

『エルザ、ちょっといいかしら?』

母の声で扉をノックする音が聞こえてきた。

「はい、どうぞ」

返事をするとすぐに扉が開かれ、母が慌てた様子で部屋の中に入ってきた。

「エルザ……た、大変よ……」

「どうしたの?お母様。随分取り乱しているようだけど?」

「ええ、それが……お客様がいらしたのよ」

「お客様?」

一体誰だろう?

「今日、カフェで会ったコレット・ベルクール様よ」

「えっ?!」

まさかコレット令嬢が私を訪ねてくるとは思いもしていなかった。

「あの……コレット令嬢はお1人で来られたのかしら?」

「いえ、お父上と一緒に来られたわ。仕事の話で我が家に来たと仰っておられるけど……」

母の顔が曇った。

「……恐らく、私に会いにいらしたのよね?」

「ええ、そうね……」

頷く母に私は声を掛けた。

「相手は貴族の方だから……言うことを聞かざるを得ないわよね?」

無言で、申し訳な下げに頷く母。

「そう……分かったわ、それじゃ行くわ。ルークをお願いできる?」

「ええ、勿論よ」

母はどこかホッとした様子で返事をする。

「それでコレット様はどちらにいらしているの?」

「お父上とご一緒に応接室にいらっしゃるわ」

「分かりました。では行ってきます」

頭を下げると、私は母にルークを託して自室を出た――。




****


 応接室の前に行くと、一度深呼吸をして扉をノックした。

コンコン

「エルザです」

ノックをしながら扉に向って声を掛けると、すぐに扉が開かれた。
父が扉を開けてくれたのだ。

「エルザ、ご挨拶しなさい」

父はすぐに私に声を掛けてきた。

「はい」

室内にはコレット令嬢と、茶色の髪に口ひげを生やしたスーツ姿の男性がソファに座り、こちらをじっと見つめていた。

「ようこそいらっしゃいました。ベルクール様。エルザと申します」

頭を下げると、すぐにベルクール男爵が声を掛けてきた。

「そうか、君がブライトン商会の御令嬢か。話は知っているよ。アンバー家の長男であるフィリップ君と結婚して……1年弱で未亡人になってしまったのだよね。お気の毒に……お悔やみ申し上げるよ」

「はい、どうもありがとうございます」

「ごめんなさいね、エルザさん。赤ちゃんがいるのにこんな時間に来てしまって」

次にコレット令嬢が私に話しかけてきたけれども……その言葉には私にはどうしても口先だけの言葉にしか聞こえなかった。

「いえ、どうかお気になさらないで下さい」

「ねぇ、エルザさん。どうせなら女同士2人きりでお話をしない?私、貴女とお友達になりたいのよ」

友達……。
どうしても本心からの言葉には思えなかったけれども、私は逆らうことが出来ない。
何故なら彼女は父の大切な取引相手の御令嬢だから。
そして……生まれながらに貴族の女性だから。


「はい、分かりました」

私はそう答えるしか無かった――。

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