挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

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第127話 父と母の迎え

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「私の好きなようにすればいいと話していたわ」

「好きなように…」

小さく口の中でつぶやくセシル。

「それで、エルザはどうするつもりなんだ?」

「私は…もし許されるなら、アンバー家で暮らしていきたいわ」

「本当か?その話は!」

セシルが嬉しそうに立ち上がった。

「ええ、本当よ。だって離れにはフィリップが用意してくれた、私の部屋があるのだから」

「あのラベンダーの部屋か…。本館で暮らすつもりはないのか?」

「ええ、無いわ。あの部屋でルークと2人で暮らしていきたいの」

「そうか…。なら俺も本館から離れに移ろうかな」

セシルがとんでもないことを言ってきた。

「急に何を言い出すの?のセシルの部屋は本館にあるでしょう?」

「そうだが、エルザとルークの2人であの離れに住むのは寂しいだろう?」

「でも使用人の人達もいるわよ?」

「それは確かにいるけれども、居住空間は別だろう?昼間は良くても夜になると当直の使用人以外は別のフロアで暮らしているわけなのだから」

「確かにそうだけども…」

「男の俺が離れで暮らした方がエルザだって安心できるだろう?」

「セシル、申し出はありがたいのだけど、問題があるのじゃないかしら?」

「問題って?別に特に問題は無いだろう?」

「……」

私は少しの間、セシルをじっと見つめていた。
セシルは理解しているのだろうか?ただでさえ、私とセシルは世間から色眼鏡で見られている。
もしこれが離れで2人で暮らすとなれば、世間から何を言われるか分かったものではない。

けれどセシルの好意を無碍にすることも出来なかった。

「分かったわ。それなら、お義父様とお義母様に相談してからにしてくれる?お2人が許可されたら、私は別に構わないわ」

きっとお2人は世間体のことを考えて、セシルが離れで暮らすことを反対するに決まっている。

「ああ、そうだな。確かにこんな大事な話、俺1人で決めていいはず無いな。今夜早速尋ねてみることにするよ」

「ええ、そうしてくれる?」

「よし…それじゃ食事も済んだことだし、俺はもう行くよ。そろそろ会食も終わる頃だから、挨拶に行かないといけないし」

セシルが立ち上がった。

「私も一緒に行った方がいいのかしら?」

「いや、エルザは大丈夫だ。そんな身体じゃ無理だろう?それにルークの世話もあるだろうし」

「分かったわ」

素直に返事をすると、セシルが笑みを浮かべた。

「よし、じゃあまたな」

「ええ」


そしてセシルは部屋を出て行った。


****


 フットマンが食べ終えた食器を下げた頃、両親が私の元へやって来た。

「エルザ、体調はどうかしら?」

母は早速尋ねて来た。

「ええ、もう大丈夫よ」

「良かった、それじゃすぐに行こう」

父が妙な事を言ってくるので首を傾げた。

「え…?行くって何処へ…?」

「決まっているじゃない。家に帰るのよ」

「え?家に帰るって…離れに帰るってこと?」

「何を言っている。家と言えば我々の家のことじゃないか。いいか?エルザ。お前は出産してまだ3日目なのだろう?そんな身体ではまともにルークの世話だって出来ないじゃないか。だから皆で一緒に帰るのだ」

「そうよ。家に帰れば、貴女の面倒もルークのお世話も私が手伝ってあげられるでしょう?アンバー家では肩身が狭いから色々頼めないじゃないの」

「で、でも私はセシルに約束を…」

すると、途端に父の眉が険しくなった。

「やめなさい、エルザ。いいか?そもそもお前を実家に連れ帰るのはお前を守る為なんだ。2人がどんな噂を立てられているのか、葬儀に出席したのだから分かるだろう?」

「お父様…」

「お願い、分かって頂戴。エルザ。フィリップのご両親にはもう伝えてあるのよ。早く行くわよ」

私は半ば強引に車いすに乗せられて馬車まで運ばれてしまった。
そしてそのまま馬車で実家に帰ることになってしまった。


****

「どう?エルザ。貴女の身体のことを考えて、乗り心地の良い馬車にしたのよ」

隣に座る母が声を掛けてきた。

「ええ。とても乗り心地が良いわ」

「フフフ…可愛いなぁ…」

父はクーファンの中で眠るルークを顔をほころばせて見つめている。


「……」


私は馬車の中から遠ざかっていくアンバー家を見つめていた。
アンバー家に残るとセシルには伝えたのに、結局実家に帰ることになってしまった。

セシル…ごめんなさい。

何だかセシルを裏切ってしまったかのような気持ちになってしまい、私は心の中で彼に詫びた。


でも大丈夫。
体調が回復すれば、私はまたアンバー家に戻るのだから。

フィリップが用意してくれたあの『ラベンダーの部屋』へ。



この時の私は、すぐにアンバー家へ戻れると信じて疑っていなかった―。


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