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第103話 フィリップからの提案
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その日を境に、本当にフィリップは仕事をするのを辞めてしまった。
そして私達は1日の大半を一緒に過すようになっていた。
毎朝私達は私の部屋のベッドで目を覚まし、夜2人で同じベッドに入って手を繋いで眠りに就く…。
そんな幸せな日々を―。
****
「…おはよう、エルザ」
目を開けると、そこには優しい笑みをたたえたフィリップがこちらを見ている。
「あ…おはよう、フィリップ。今朝は貴方が先に目覚めたのね?」
目をこすりながらフィリップに尋ねた。
「うん、ほら…昨夜は痛みの発作があったから薬を飲んで早めに眠ってしまったよね?だから目が覚めるのも早かったんだ」
ベッドサイドの置き時計を見ると時刻は7時を過ぎていた。
え?もうそんな時間だったなんて…!
「大変、寝過ごしてしまったわ」
慌てた様子の私にフィリップは笑った。
「エルザ。目が覚めるまで眠っていても別にいいんだよ?本にも書いてあったけど、妊婦は眠くなりやすいんだよね?子供が産まれたらお世話で眠れない日々が続くんだから今のうちに眠れるうちはゆっくり眠っていたほうがいいよ」
「ええ…ありがとう」
「だいぶ…お腹が目立つようになってきたね?」
フィリップがそっと私のお腹に触れてきた。
「そうね。だってもう7ヶ月だもの」
「7ヶ月か…でも良かったよ。無事に安定期を迎えることが出来たから。ありがとう、エルザ」
フィリップが私の額にキスしてきた。
「そう言って貰えると嬉しいわ」
少しの間、ベッドの中で互いの温もりを感じるように抱擁しあうと、フィリップは言った。
「それじゃ…そろそろ起きようか?」
と―。
****
2人で向かい合わせで遅めの朝食を食べているとフィリップが声を掛けてきた。
「良かったね。エルザ。あれほど酷かった悪阻がすっかり治まって」
「そうね。悪阻が酷かった時はほとんどの食べ物が受け入れられなくてどうしようかと思ったけど…ほら、今では何でも食べれるのよ?」
そして私はフォークにさしていたベーコンを口に入れた。
「あははは…本当だ」
そんな私を見て笑うフィリップ。
「そういうフィリップはどうなの?食欲の方は?」
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと食べられるから」
「そう…?」
フィリップは言うけれども、確実に食欲が落ちているのは分かっていた。痛み止めを飲む感覚も以前に比べると狭くなっていた。
着実に…フィリップは死に向かっている…。
それを思うと、涙が出そうになるけれども私は決して涙を流さない。
だって…一番誰よりもつらいのはフィリップ自身なのだから。
フィリップは穏やかな声で私に語りかける。
「最近、父さんと母さんから何かエルザに言ってきたりしていないかい?」
「お父様からは揺れの少ない馬車をプレゼントしていただいたわ。お母様はベビードレスを10着も頂いたの」
もう今では義父母は私たちの事を受け入れ、何かと気にかけてくれるようになっていた。
「やっぱり初孫だから2人とも嬉しいんだろうね」
「ええ、そうね。きっとお義父様もお義母様も生まれた子供を可愛がってくれると思うわ」
だから…ずっとこの屋敷に置かせて貰いたい―。
言葉にはしないけれども、私は目でフィリップにそう訴える。
「…」
フィリップは少しの間、私の目を見つめ…そして話題を変えてきた。
「ところでエルザ。一つ提案があるんだけど…どうか僕の提案を受け入れてもらえないかな?」
「ええ?何かしら?」
私をずっとここにおいてくれる話だろうか?
「遅くなってしまったけど、近いうちに新婚旅行に行かないかい?」
「え…?」
その提案は…思いもしないものだった―。
そして私達は1日の大半を一緒に過すようになっていた。
毎朝私達は私の部屋のベッドで目を覚まし、夜2人で同じベッドに入って手を繋いで眠りに就く…。
そんな幸せな日々を―。
****
「…おはよう、エルザ」
目を開けると、そこには優しい笑みをたたえたフィリップがこちらを見ている。
「あ…おはよう、フィリップ。今朝は貴方が先に目覚めたのね?」
目をこすりながらフィリップに尋ねた。
「うん、ほら…昨夜は痛みの発作があったから薬を飲んで早めに眠ってしまったよね?だから目が覚めるのも早かったんだ」
ベッドサイドの置き時計を見ると時刻は7時を過ぎていた。
え?もうそんな時間だったなんて…!
「大変、寝過ごしてしまったわ」
慌てた様子の私にフィリップは笑った。
「エルザ。目が覚めるまで眠っていても別にいいんだよ?本にも書いてあったけど、妊婦は眠くなりやすいんだよね?子供が産まれたらお世話で眠れない日々が続くんだから今のうちに眠れるうちはゆっくり眠っていたほうがいいよ」
「ええ…ありがとう」
「だいぶ…お腹が目立つようになってきたね?」
フィリップがそっと私のお腹に触れてきた。
「そうね。だってもう7ヶ月だもの」
「7ヶ月か…でも良かったよ。無事に安定期を迎えることが出来たから。ありがとう、エルザ」
フィリップが私の額にキスしてきた。
「そう言って貰えると嬉しいわ」
少しの間、ベッドの中で互いの温もりを感じるように抱擁しあうと、フィリップは言った。
「それじゃ…そろそろ起きようか?」
と―。
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2人で向かい合わせで遅めの朝食を食べているとフィリップが声を掛けてきた。
「良かったね。エルザ。あれほど酷かった悪阻がすっかり治まって」
「そうね。悪阻が酷かった時はほとんどの食べ物が受け入れられなくてどうしようかと思ったけど…ほら、今では何でも食べれるのよ?」
そして私はフォークにさしていたベーコンを口に入れた。
「あははは…本当だ」
そんな私を見て笑うフィリップ。
「そういうフィリップはどうなの?食欲の方は?」
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと食べられるから」
「そう…?」
フィリップは言うけれども、確実に食欲が落ちているのは分かっていた。痛み止めを飲む感覚も以前に比べると狭くなっていた。
着実に…フィリップは死に向かっている…。
それを思うと、涙が出そうになるけれども私は決して涙を流さない。
だって…一番誰よりもつらいのはフィリップ自身なのだから。
フィリップは穏やかな声で私に語りかける。
「最近、父さんと母さんから何かエルザに言ってきたりしていないかい?」
「お父様からは揺れの少ない馬車をプレゼントしていただいたわ。お母様はベビードレスを10着も頂いたの」
もう今では義父母は私たちの事を受け入れ、何かと気にかけてくれるようになっていた。
「やっぱり初孫だから2人とも嬉しいんだろうね」
「ええ、そうね。きっとお義父様もお義母様も生まれた子供を可愛がってくれると思うわ」
だから…ずっとこの屋敷に置かせて貰いたい―。
言葉にはしないけれども、私は目でフィリップにそう訴える。
「…」
フィリップは少しの間、私の目を見つめ…そして話題を変えてきた。
「ところでエルザ。一つ提案があるんだけど…どうか僕の提案を受け入れてもらえないかな?」
「ええ?何かしら?」
私をずっとここにおいてくれる話だろうか?
「遅くなってしまったけど、近いうちに新婚旅行に行かないかい?」
「え…?」
その提案は…思いもしないものだった―。
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