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第98話 本館へ向けて
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その日の午後の出来事だった。
いつも通りフルーツのみの昼食を食べ、産まれて来る子供の為の産着を縫っていると扉がノックされた。
コンコン
『エルザ、入ってもいいかな?』
その声はフィリップだった。
「どうぞ、中へ入って」
声を掛けるとすぐに扉が開かれ、フィリップが部屋の中に入って来た。
「フィリップ、どうかしたの?仕事中じゃなかったの?」
産着を縫う手を休めると、フィリップは私が縫い物をしていたことに気付いた。
「あれ…?エルザ。ひょっとして今何か縫っていたの?もしかして忙しいのかな?」
フィリップが隣に座ってきた。
「いいえ、特に忙しいわけでは無いから大丈夫よ。今ね、赤ちゃんの産着を縫っていたの」
「そうか。そう言えば今エルザは生まれて来くる子供の為に色々繕っている最中だったよね?」
そしてフィリップはまだ膨らんでいない私のお腹にそっと触れると笑みを浮かべた。
「…本当にまだ信じられないよ。エルザのお腹の中に僕達の子供がいるなんて…夢みたいだよ。早く…会いたいな…」
フィリップの声は何処か寂しげに聞こえる
まさか…私達の子供が産まれてくるまで、生きていられる自信がないのだろうか…?
「フィリップ…お願いよ。どうか…どうか、私達の赤ちゃんが産まれてくるまでは…絶対に逝かないで…?」
フィリップの頬に両手を当てると私は訴えた。
「エルザ…大丈夫だよ。絶対に君と僕の子供に会うまでは…絶対に死んだりしないから」
そしてフィリップは私を抱きしめると、キスをしてきた。
フィリップ…。
長いキスの後フィリップは私からそっと離れると尋ねてきた。
「エルザ、今から両親の元へ君の妊娠と…僕の病気の事を報告に行こうと思うんだ。…一緒に来てくれるかい?」
フィリップが私の右手を握りしめてきた。…その手が少し震えていた。
私も怖いけど…きっとフィリップはもっと怖いに違いない。
だから私は空いている手をフィリップの上に重ねると頷いた。
「ええ、貴方が一緒に来て欲しいと望むなら…何処だって私は一緒に行くわ。だって貴方を愛しているから」
「ありがとう…エルザ。僕も君を…愛している。それじゃ、一緒に本館へ行こう?」
「ええ」
そして私達はしっかり手をつなぎ合って、本館へ向った。
****
ガラガラガラガラ…
馬車の中、フィリップが心配そうに尋ねてきた。
「エルザ、お腹の具合は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。チャールズさんが大きなクッションを用意してくれたから、馬車の振動が少しも気にならないわ。それよりフィリップ。貴方こそ大丈夫なの?身体の痛みは平気?」
「うん、大丈夫だよ。痛み止めは持参しているし…それに…」
何故かそこでフィリップは話を切った。
「フィリップ?」
するとフィリップは笑顔で私語りかけてきた。
「そう言えば、最近母がラベンダーのハーブティーがお気に入りらしいよ。エルザの影響だろうね。多分僕達に今日振る舞うお茶もラベンダーティーかもしれないね?」
「え?ええ。そうね」
返事をしながら私は思った。
…何故だろう?
今、フィリップは意図的に話を中断した気がする…。
でも、多分気の所為だろう…。
このときの私は自分にそう、言い聞かせた―。
いつも通りフルーツのみの昼食を食べ、産まれて来る子供の為の産着を縫っていると扉がノックされた。
コンコン
『エルザ、入ってもいいかな?』
その声はフィリップだった。
「どうぞ、中へ入って」
声を掛けるとすぐに扉が開かれ、フィリップが部屋の中に入って来た。
「フィリップ、どうかしたの?仕事中じゃなかったの?」
産着を縫う手を休めると、フィリップは私が縫い物をしていたことに気付いた。
「あれ…?エルザ。ひょっとして今何か縫っていたの?もしかして忙しいのかな?」
フィリップが隣に座ってきた。
「いいえ、特に忙しいわけでは無いから大丈夫よ。今ね、赤ちゃんの産着を縫っていたの」
「そうか。そう言えば今エルザは生まれて来くる子供の為に色々繕っている最中だったよね?」
そしてフィリップはまだ膨らんでいない私のお腹にそっと触れると笑みを浮かべた。
「…本当にまだ信じられないよ。エルザのお腹の中に僕達の子供がいるなんて…夢みたいだよ。早く…会いたいな…」
フィリップの声は何処か寂しげに聞こえる
まさか…私達の子供が産まれてくるまで、生きていられる自信がないのだろうか…?
「フィリップ…お願いよ。どうか…どうか、私達の赤ちゃんが産まれてくるまでは…絶対に逝かないで…?」
フィリップの頬に両手を当てると私は訴えた。
「エルザ…大丈夫だよ。絶対に君と僕の子供に会うまでは…絶対に死んだりしないから」
そしてフィリップは私を抱きしめると、キスをしてきた。
フィリップ…。
長いキスの後フィリップは私からそっと離れると尋ねてきた。
「エルザ、今から両親の元へ君の妊娠と…僕の病気の事を報告に行こうと思うんだ。…一緒に来てくれるかい?」
フィリップが私の右手を握りしめてきた。…その手が少し震えていた。
私も怖いけど…きっとフィリップはもっと怖いに違いない。
だから私は空いている手をフィリップの上に重ねると頷いた。
「ええ、貴方が一緒に来て欲しいと望むなら…何処だって私は一緒に行くわ。だって貴方を愛しているから」
「ありがとう…エルザ。僕も君を…愛している。それじゃ、一緒に本館へ行こう?」
「ええ」
そして私達はしっかり手をつなぎ合って、本館へ向った。
****
ガラガラガラガラ…
馬車の中、フィリップが心配そうに尋ねてきた。
「エルザ、お腹の具合は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。チャールズさんが大きなクッションを用意してくれたから、馬車の振動が少しも気にならないわ。それよりフィリップ。貴方こそ大丈夫なの?身体の痛みは平気?」
「うん、大丈夫だよ。痛み止めは持参しているし…それに…」
何故かそこでフィリップは話を切った。
「フィリップ?」
するとフィリップは笑顔で私語りかけてきた。
「そう言えば、最近母がラベンダーのハーブティーがお気に入りらしいよ。エルザの影響だろうね。多分僕達に今日振る舞うお茶もラベンダーティーかもしれないね?」
「え?ええ。そうね」
返事をしながら私は思った。
…何故だろう?
今、フィリップは意図的に話を中断した気がする…。
でも、多分気の所為だろう…。
このときの私は自分にそう、言い聞かせた―。
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