73 / 204
第71話 チャールズさんの話
しおりを挟む
「それじゃ…仕事をしに行ってくるよ」
書斎で少し疲れた様子のフィリップが必要な書類を揃えながら声を掛けてきた。
「フィリップ…本当は具合が悪いんじゃないの…?」
すると彼はフッと口元に笑みを浮かべて私を見た。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ?痛み止めを持っていくから。それに17時には戻ってくるよ」
「フィリップ…」
するとフィリップが抱きしめてきた。
「エルザ…ごめん。君に不自由な思いをさせて…。もう少し…もう少しだけ待っていてくれるかい?そうすれば今よりももっとエルザがここで暮らしやすい環境にしてあげられるはずだから…」
「…ええ、分かったわ」
ここで暮らしやすい環境…。
それが何を意味しているかは不明だけれども、フィリップは何か大きな決断を下そうとしていることが分かった。
「フィリップ、お願いがあるの。絶対に無理しないと約束してくれる?」
フィリップの胸に顔を埋めながら懇願した。
「うん、分かった。約束するよ…。それじゃ、行ってくるね」
私の髪を撫でると、フィリップは仕事をする為に本館へと向かって行った―。
****
フィリップが仕事へ行ってしまい、再び私は手持ち無沙汰になってしまった。
そこで自室に戻り、本を読んでいると扉をノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「はい」
返事をすると扉の奥から声が聞こえてきた。
『エルザ様、チャールズです。宜しければお茶はいかがでしょうか?』
「ええ、どうぞ」
すぐに扉が開かれ、銀のトレーにティーポットとティーカップを乗せたチャールズさんが部屋に入ってきた。
「失礼致します」
そして私の座るテーブルセットの前にティーカップを置くとお茶を注いでくれた。
室内にハーブの良い香りが漂ってくる。
「いい香り…」
「はい、レモングラスのハーブティーです。ご一緒に紅茶のクッキーをお持ち致しました」
「どうもありがとう」
お礼を述べると私はチャールズさんに尋ねた。
「チャールズさん。何か私に話があるのでしょう?」
「あ…お分かりになりましたか?」
チャールズさんは、少しだけ困ったような笑顔を浮かべた。
やっぱりそうだと思った。チャールズさんはいつも忙しい人で、殆ど会話らしい会話を今迄交わしたことは無かったからだ。それなのにわざわざお茶を淹れて、尋ねてくるのには訳があるはずだから。
「実はフィリップ様の事です」
「…ええ。聞かせて下さい」
するとチャールズさんは私に頭を下げてきた。
「エルザ様、申し訳ございませんでした。私共はエルザ様を勘違いさせてしまうような態度ばかり取っておりました。それを大変心苦しく思っておりました」
「いいのよ。だってフィリップに命じられていたからでしょう?」
「はい、そうです…。ですが、エルザ様とフィリップ様は今ではすっかり仲睦まじい夫婦になられました。なのでフィリップ様には固く口止めされていましたが…どうしうてもエルザ様に知っておいて貰いたいお話があります」
「私に…知っておいてもらいたい話…?」
一体、どんな話なのだろう…。
私は緊張する面持ちで、チャールズさんの次の言葉を待った―。
書斎で少し疲れた様子のフィリップが必要な書類を揃えながら声を掛けてきた。
「フィリップ…本当は具合が悪いんじゃないの…?」
すると彼はフッと口元に笑みを浮かべて私を見た。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ?痛み止めを持っていくから。それに17時には戻ってくるよ」
「フィリップ…」
するとフィリップが抱きしめてきた。
「エルザ…ごめん。君に不自由な思いをさせて…。もう少し…もう少しだけ待っていてくれるかい?そうすれば今よりももっとエルザがここで暮らしやすい環境にしてあげられるはずだから…」
「…ええ、分かったわ」
ここで暮らしやすい環境…。
それが何を意味しているかは不明だけれども、フィリップは何か大きな決断を下そうとしていることが分かった。
「フィリップ、お願いがあるの。絶対に無理しないと約束してくれる?」
フィリップの胸に顔を埋めながら懇願した。
「うん、分かった。約束するよ…。それじゃ、行ってくるね」
私の髪を撫でると、フィリップは仕事をする為に本館へと向かって行った―。
****
フィリップが仕事へ行ってしまい、再び私は手持ち無沙汰になってしまった。
そこで自室に戻り、本を読んでいると扉をノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「はい」
返事をすると扉の奥から声が聞こえてきた。
『エルザ様、チャールズです。宜しければお茶はいかがでしょうか?』
「ええ、どうぞ」
すぐに扉が開かれ、銀のトレーにティーポットとティーカップを乗せたチャールズさんが部屋に入ってきた。
「失礼致します」
そして私の座るテーブルセットの前にティーカップを置くとお茶を注いでくれた。
室内にハーブの良い香りが漂ってくる。
「いい香り…」
「はい、レモングラスのハーブティーです。ご一緒に紅茶のクッキーをお持ち致しました」
「どうもありがとう」
お礼を述べると私はチャールズさんに尋ねた。
「チャールズさん。何か私に話があるのでしょう?」
「あ…お分かりになりましたか?」
チャールズさんは、少しだけ困ったような笑顔を浮かべた。
やっぱりそうだと思った。チャールズさんはいつも忙しい人で、殆ど会話らしい会話を今迄交わしたことは無かったからだ。それなのにわざわざお茶を淹れて、尋ねてくるのには訳があるはずだから。
「実はフィリップ様の事です」
「…ええ。聞かせて下さい」
するとチャールズさんは私に頭を下げてきた。
「エルザ様、申し訳ございませんでした。私共はエルザ様を勘違いさせてしまうような態度ばかり取っておりました。それを大変心苦しく思っておりました」
「いいのよ。だってフィリップに命じられていたからでしょう?」
「はい、そうです…。ですが、エルザ様とフィリップ様は今ではすっかり仲睦まじい夫婦になられました。なのでフィリップ様には固く口止めされていましたが…どうしうてもエルザ様に知っておいて貰いたいお話があります」
「私に…知っておいてもらいたい話…?」
一体、どんな話なのだろう…。
私は緊張する面持ちで、チャールズさんの次の言葉を待った―。
67
お気に入りに追加
2,311
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる