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第59話 側にいて欲しい
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「こちらがフィリップ様のお部屋でございます」
案内されたのは別の階にある部屋だった。フィリップの部屋のノブは金色に輝いていた。
「まさか…フィリップの部屋が1階にあったなんて…」
私の自室は2階。道理でフィリップと顔を合わすことが無いはずだ。
「ええ、その理由も…恐らくフィリップ様から聞けるでしょう。それでは私はここで席を外させて頂きます」
チャールズさんが頭を下げてきた。
「ええ…ありがとう」
「どうぞ、フィリップ様を宜しくお願い致します」
それだけ言うと、チャールズさんはコツコツと足音を立てて去って行った。
「…」
私は緊張の面持ちでフィリップのドアの前に立つと、深呼吸をして心を落ち着けた。
大丈夫…。例え冷たい態度を取られても、もう私は傷つかない。だってフィリップの愛情を今はとても感じているから…。
コンコン
私は扉をノックした。
「…」
しかし、何の反応も無い。
コンコン
もう一度試しにノックをするも、やはり無反応。
「…もう、中へ入るしか無いわね…」
ゴクリと息を飲むと、そっとドアノブに手をかけ…カチャリと回した。
「…フィリップ…入らせてもらうわね…」
そして扉を開けて中へ入った。
フィリップの部屋全体が淡いブルーを基調としていた。
大きなアーチ型の掃き出し窓からは美しい緑の木々が見える。部屋の中央にはソファとセンターテーブル。窓際には白い大きなベッドが置かれている。
部屋に置かれた家具は何もかも白で、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
「まるで…白い砂浜の海をイメージした部屋みたいだわ…」
けれど部屋を見渡すも肝心のフィリップの姿が何処にも見えない。
「フィリップ…いるの…?」
声を掛けながら部屋の中へ入り…私は危うく声を上げそうになった。
「フィリップッ?!」
ソファの上にはフィリップが青い顔で横たわっていたのだ。
「ど、どうしたの?!」
慌てて駆け寄ると、フィリップが目を開けた。
「あ…エルザ…?」
「ごめんなさい、どうしても…貴方が心配で…チャールズさんに連れてきてもらったの。セシルからは貴方のところに行ってもいいと許可を貰っているわ」
「そう…か…心配掛けてしまったみたいだね…ごめん…」
フィリップは弱々しい笑みを浮かべた。
え…?てっきり咎められるかと思ったのに?
フィリップの態度は…昔の彼と変わらないものだった。あの時の優しい彼と…。
「フィリップ…具合が悪いのね?何処が苦しいの?私は貴方に何をしてあげれば良い?」
色々聞きたいことは山程合ったが、こんなに体調の悪そうなフィリップを前に自分の疑問など聞けるはずは無かった。それよりも彼の体調が心配でたまらなかった。
「…テーブルの上に紙に包まれた薬が吸い飲みと…一緒にあるから…持ってきてもらえるかな…」
フィリップは荒い息を吐きながら私を見た。
「分かったわ、お薬ね?すぐに持ってくるから」
急いでテーブルに行くと、そこには吸い飲みと包み紙があった。きっとこれに違いない。
私はそれらを手にするとフィリップの元へ急ぎ足で戻った。
「持ってきたわ、フィリップ」
「…ありがとう…悪いけど…飲ませて…くれるかな…?」
「ええ、勿論よ」
包み紙を開くと白い粉薬が現れた。
「口…開けてくれる?」
私の言葉に黙って口を開けるフィリップ。
開いた口の中に粉薬を入れ、吸い飲みを彼の口に含ませるとゴクンゴクンと水を飲んだ。
「ありがとう…」
フィリップは目を閉じるとお礼を述べてきた。
「フィリップ…貴方の体調が良くなるまで…ここにいてもいい…?」
フィリップが横たわるソファの前に膝をつくと、恐る恐る尋ねた。
するとフィリップは目を開けて私を見つめると、弱々しいながらも笑みを浮かべた。
「うん…。お願いだ…エルザ…僕の側に…いてもらえないか…な…?」
そして彼は私の手を取ると、その甲にそっと唇を寄せた―。
案内されたのは別の階にある部屋だった。フィリップの部屋のノブは金色に輝いていた。
「まさか…フィリップの部屋が1階にあったなんて…」
私の自室は2階。道理でフィリップと顔を合わすことが無いはずだ。
「ええ、その理由も…恐らくフィリップ様から聞けるでしょう。それでは私はここで席を外させて頂きます」
チャールズさんが頭を下げてきた。
「ええ…ありがとう」
「どうぞ、フィリップ様を宜しくお願い致します」
それだけ言うと、チャールズさんはコツコツと足音を立てて去って行った。
「…」
私は緊張の面持ちでフィリップのドアの前に立つと、深呼吸をして心を落ち着けた。
大丈夫…。例え冷たい態度を取られても、もう私は傷つかない。だってフィリップの愛情を今はとても感じているから…。
コンコン
私は扉をノックした。
「…」
しかし、何の反応も無い。
コンコン
もう一度試しにノックをするも、やはり無反応。
「…もう、中へ入るしか無いわね…」
ゴクリと息を飲むと、そっとドアノブに手をかけ…カチャリと回した。
「…フィリップ…入らせてもらうわね…」
そして扉を開けて中へ入った。
フィリップの部屋全体が淡いブルーを基調としていた。
大きなアーチ型の掃き出し窓からは美しい緑の木々が見える。部屋の中央にはソファとセンターテーブル。窓際には白い大きなベッドが置かれている。
部屋に置かれた家具は何もかも白で、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
「まるで…白い砂浜の海をイメージした部屋みたいだわ…」
けれど部屋を見渡すも肝心のフィリップの姿が何処にも見えない。
「フィリップ…いるの…?」
声を掛けながら部屋の中へ入り…私は危うく声を上げそうになった。
「フィリップッ?!」
ソファの上にはフィリップが青い顔で横たわっていたのだ。
「ど、どうしたの?!」
慌てて駆け寄ると、フィリップが目を開けた。
「あ…エルザ…?」
「ごめんなさい、どうしても…貴方が心配で…チャールズさんに連れてきてもらったの。セシルからは貴方のところに行ってもいいと許可を貰っているわ」
「そう…か…心配掛けてしまったみたいだね…ごめん…」
フィリップは弱々しい笑みを浮かべた。
え…?てっきり咎められるかと思ったのに?
フィリップの態度は…昔の彼と変わらないものだった。あの時の優しい彼と…。
「フィリップ…具合が悪いのね?何処が苦しいの?私は貴方に何をしてあげれば良い?」
色々聞きたいことは山程合ったが、こんなに体調の悪そうなフィリップを前に自分の疑問など聞けるはずは無かった。それよりも彼の体調が心配でたまらなかった。
「…テーブルの上に紙に包まれた薬が吸い飲みと…一緒にあるから…持ってきてもらえるかな…」
フィリップは荒い息を吐きながら私を見た。
「分かったわ、お薬ね?すぐに持ってくるから」
急いでテーブルに行くと、そこには吸い飲みと包み紙があった。きっとこれに違いない。
私はそれらを手にするとフィリップの元へ急ぎ足で戻った。
「持ってきたわ、フィリップ」
「…ありがとう…悪いけど…飲ませて…くれるかな…?」
「ええ、勿論よ」
包み紙を開くと白い粉薬が現れた。
「口…開けてくれる?」
私の言葉に黙って口を開けるフィリップ。
開いた口の中に粉薬を入れ、吸い飲みを彼の口に含ませるとゴクンゴクンと水を飲んだ。
「ありがとう…」
フィリップは目を閉じるとお礼を述べてきた。
「フィリップ…貴方の体調が良くなるまで…ここにいてもいい…?」
フィリップが横たわるソファの前に膝をつくと、恐る恐る尋ねた。
するとフィリップは目を開けて私を見つめると、弱々しいながらも笑みを浮かべた。
「うん…。お願いだ…エルザ…僕の側に…いてもらえないか…な…?」
そして彼は私の手を取ると、その甲にそっと唇を寄せた―。
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