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第38話 差出人不明の手紙
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「お母様、顔を上げて?教えて貰えて良かったわ」
「エルザ…」
母は顔を上げて私を見た。
「あのね…実は私、結婚してからまだ一度もお義父様とお義母様にお会いしていないの。私は本館には住んでいないし、離れで暮らしているから。それにフィリップからは本館には行かないように言われているの」
「エルザ…」
そう、あの時フィリップは私に言った。
『君は勝手に本館へ行かないでくれよ?誰かに呼ばれた時以外は』
けれど私が外出していた日に義父母は離れを訪れて、ものすごい剣幕でフィリップに文句を言っていた。
『エルザはもうアンバー家の嫁になったのだから私達の前に顔を見せるのは当然の事だろうっ?!』
あの口ぶり…ひょっとすると本当は私は何度も呼ばれていたのではないだろうか?それをフィリップが止めていた…?一体何の為に?もしかして義父母から私を守る為に…?
「エルザ?どうかしたの?」
母が尋ねてきた。
「ううん、何でも無いの」
慌てて首を振った。フィリップへの恋心を捨てきれない私は彼に拒絶されているにも関わらず、どうしても自分に都合の良い解釈をしてしまう。
フィリップが私の事を気遣ってくれることなんか無いのに…だって私は結婚前から彼に捨てられていたのだから…。
そう思うと、再び私の胃はズキリと痛んだ。
「エルザ、顔色があまりよくないわ。部屋に戻って休んだ方がいいわよ。ベッドはそのままになっているから夕食まで休んでいなさい」
「ありがとう、お母様」
嫁いだばかりの私がこんな具合悪そうな姿を見せれば、ますます母に心配をかけさせてしまう。
「それじゃ、私…部屋で休ませてもらうわ」
立ち上がると母に言った。
「ええ、そうなさい」
「それでは、失礼します」
そして私は母を残し、リビングルームを後にした―。
部屋を出て自室に向かっていると、ちょうど家政婦のハンナさんとばったり出会った。
「まぁ、エルザお嬢様…あ、違いましたね。エルザ様。まさか本日こちらにお戻りになっているとは思いもしませんでしたよ」
ハンナさんは私が5歳の時からずっと働いいるベテランの家政婦さんで、私と姉をとてもかわいがってくれていた女性だ。
「ええ、少し体調が良くないから夫に2日間、実家で身体を休めた方がいいと言われて帰ってきたの」
「まぁ、そうだったのですね。でも優しい旦那様ですね。エルザ様の体調を気遣って実家に里帰りを勧めるなんて…。けれどちょうど都合が良かったです」
「え?何が都合が良かったの?」
「ええ、実は先ほどエルザ様宛にお手紙が届いたのですよ。でも差出人が無いので、どうしようかと考えていたところなのです」
言いながらハンナさんはエプロンのポケットから白い封筒を取り出し、渡してきた。
「この手紙が私宛に…?」
「はい、そうです」
確かに封筒にはここの住所と私の名前が記載されていたが、差出人は住所すら未記入だった。
「ありがとう、部屋に戻ったら読むわ」
「ええ、ごゆっくりしてください」
ハンナさんは笑みを浮かべると、忙しそうに去って行った。
「手紙…誰からかしら…?」
首をかしげながら私は部屋へと戻った―。
カチャ…
扉を開けて部屋へ入るとそこはいつもの私の部屋と寸分変わらぬ状態で残されていた。ベッドも家具も、カーテンも…何もかも変わらない部屋が出迎えてくれた。
パタン…
後ろ手に扉を閉めると私はライティングデスクに向かい、椅子に腰かけた。
「…思えば、この部屋で暮らしていた時が…一番幸せだったかもしれないわ…」
大好きなフィリップとの結婚を指折り数えて待ちわび…新婚生活を夢見ていたのに現実はどうだろう?
あの部屋の私のライティングデスクにはフィリップから預けられた離婚届が入っている。その事実を誰にも告げられないのはとても悲しく…苦しかった。
「フィリップは…私との離婚を望んでいる。大好きな彼の為に本当は離婚してあげる方がいいのかしら…?」
だってフィリップが望んでいた妻は私ではなく、姉のローズだったのだから。
ため息をつくと引き出しからペーパーナイフを取り出し、開封した。
封筒の中には二つ折りにした便箋が2枚入っている。
早速、広げて目を通し…私は息をのんだ。
『大切な妹、エルザへ』
最初の一文が目に飛び込んできた。
「お、お姉…様…?」
それは、姉のローズからの手紙だった―。
「エルザ…」
母は顔を上げて私を見た。
「あのね…実は私、結婚してからまだ一度もお義父様とお義母様にお会いしていないの。私は本館には住んでいないし、離れで暮らしているから。それにフィリップからは本館には行かないように言われているの」
「エルザ…」
そう、あの時フィリップは私に言った。
『君は勝手に本館へ行かないでくれよ?誰かに呼ばれた時以外は』
けれど私が外出していた日に義父母は離れを訪れて、ものすごい剣幕でフィリップに文句を言っていた。
『エルザはもうアンバー家の嫁になったのだから私達の前に顔を見せるのは当然の事だろうっ?!』
あの口ぶり…ひょっとすると本当は私は何度も呼ばれていたのではないだろうか?それをフィリップが止めていた…?一体何の為に?もしかして義父母から私を守る為に…?
「エルザ?どうかしたの?」
母が尋ねてきた。
「ううん、何でも無いの」
慌てて首を振った。フィリップへの恋心を捨てきれない私は彼に拒絶されているにも関わらず、どうしても自分に都合の良い解釈をしてしまう。
フィリップが私の事を気遣ってくれることなんか無いのに…だって私は結婚前から彼に捨てられていたのだから…。
そう思うと、再び私の胃はズキリと痛んだ。
「エルザ、顔色があまりよくないわ。部屋に戻って休んだ方がいいわよ。ベッドはそのままになっているから夕食まで休んでいなさい」
「ありがとう、お母様」
嫁いだばかりの私がこんな具合悪そうな姿を見せれば、ますます母に心配をかけさせてしまう。
「それじゃ、私…部屋で休ませてもらうわ」
立ち上がると母に言った。
「ええ、そうなさい」
「それでは、失礼します」
そして私は母を残し、リビングルームを後にした―。
部屋を出て自室に向かっていると、ちょうど家政婦のハンナさんとばったり出会った。
「まぁ、エルザお嬢様…あ、違いましたね。エルザ様。まさか本日こちらにお戻りになっているとは思いもしませんでしたよ」
ハンナさんは私が5歳の時からずっと働いいるベテランの家政婦さんで、私と姉をとてもかわいがってくれていた女性だ。
「ええ、少し体調が良くないから夫に2日間、実家で身体を休めた方がいいと言われて帰ってきたの」
「まぁ、そうだったのですね。でも優しい旦那様ですね。エルザ様の体調を気遣って実家に里帰りを勧めるなんて…。けれどちょうど都合が良かったです」
「え?何が都合が良かったの?」
「ええ、実は先ほどエルザ様宛にお手紙が届いたのですよ。でも差出人が無いので、どうしようかと考えていたところなのです」
言いながらハンナさんはエプロンのポケットから白い封筒を取り出し、渡してきた。
「この手紙が私宛に…?」
「はい、そうです」
確かに封筒にはここの住所と私の名前が記載されていたが、差出人は住所すら未記入だった。
「ありがとう、部屋に戻ったら読むわ」
「ええ、ごゆっくりしてください」
ハンナさんは笑みを浮かべると、忙しそうに去って行った。
「手紙…誰からかしら…?」
首をかしげながら私は部屋へと戻った―。
カチャ…
扉を開けて部屋へ入るとそこはいつもの私の部屋と寸分変わらぬ状態で残されていた。ベッドも家具も、カーテンも…何もかも変わらない部屋が出迎えてくれた。
パタン…
後ろ手に扉を閉めると私はライティングデスクに向かい、椅子に腰かけた。
「…思えば、この部屋で暮らしていた時が…一番幸せだったかもしれないわ…」
大好きなフィリップとの結婚を指折り数えて待ちわび…新婚生活を夢見ていたのに現実はどうだろう?
あの部屋の私のライティングデスクにはフィリップから預けられた離婚届が入っている。その事実を誰にも告げられないのはとても悲しく…苦しかった。
「フィリップは…私との離婚を望んでいる。大好きな彼の為に本当は離婚してあげる方がいいのかしら…?」
だってフィリップが望んでいた妻は私ではなく、姉のローズだったのだから。
ため息をつくと引き出しからペーパーナイフを取り出し、開封した。
封筒の中には二つ折りにした便箋が2枚入っている。
早速、広げて目を通し…私は息をのんだ。
『大切な妹、エルザへ』
最初の一文が目に飛び込んできた。
「お、お姉…様…?」
それは、姉のローズからの手紙だった―。
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