上 下
14 / 204

第13話 待っていたわけじゃないから

しおりを挟む
 翌朝―

コンコン

部屋の外で扉が叩かれる音が聞こえて来る。

「う~ん…」

コンコン

「エルザ様…お目覚めでしょうか…?」

扉の外でメイドさんの呼びかける声が聞こえ、私は慌てて飛び起きると返事をした。

「は、はい!今起きました!」

「そうですか?旦那様が既にダイニングルームへ向かわれましたが…どうされますか?」

「すぐに行きますっ!そう、伝えておいて下さいっ!」

ベッドから降りて、クローゼットに向かいながら返事をした。

「かしこまりました。では伝えてまいりますので」

遠ざかる足音を聞きながら、クローゼットを開くとすぐに着替えを取り出した。

「やっぱり昨夜の内に今日着る服を選んでおいて良かったわ…」

呟きながら大急ぎで着替えを始めた。



「…よし、こんなものかしら?」

ブラシを髪でとかし、簡単にまとめたると姿見で確認してみる。
白いブラウスに水色のロングスカートに水色のパンプス…。これなら上品に見えるし、きっとフィリップも満足してくれるだろう。

「急がなくちゃ!」

私はすぐに部屋を出るとダイニングルームへ向かった。

それはメイドが私を呼びに来て、きっちり15分後の事だった―。


****

ダイニングルームの扉は片側が開け放されており、テーブルについているフィリップの姿が見えた。

「おはようございます、フィリップ。遅くなってごめんなさい」

声を掛けながらダイニングルームに入っていった。

「おはよう、別に君を待っていたわけじゃないから謝らなくていいよ」

見ると、既にフィリップの朝食は半分近く減っていた。確かにフィリップは私を待つとは一言も言っていなかった。私は又失言をしてしまったようだ。

「そうよね、別に私を待っている必要はないものね。おかしなことを言ってごめんなさい」

もう一度頭を下げると、席に着いた。

「…」

そんな私をフィリップは何か言いたげに一度だけチラリと見ると、また黙々と食事を始めた。
その姿を見るだけで、再び私の胃はキリキリと痛みを伴う。食欲は今朝も全く無かったけれど、食べなければ厨房で食事を作ってくれる人達を心配させてしまう。

そこでとりあえず食べれそうなサラダから食べることにした。ドレッシングを掛けてサラダを口に運ぶ。

「…」

無理にサラダを飲み込むと、次にグリーンスープを飲むことにした。これも無理に口にすると、もうこれ以上何も口に出来そうになかった。

「…もういらないのかい?」

不意にフィリップが声を掛けてきた。

「え?ええ…そうね。美味しいのだけど…お腹が空かないのよ。でも時間をかければ食べられるかもしれないわ」

多分それは無いと思ったが、フィリップにこれ以上追求はされたくなかったのでごまかすことにした。

「ふ~ん、そうかい。それじゃ食事も済んだ事だし、僕は本館に行ってくるよ。両親に朝の挨拶があるからね」

そしてフィリップは席を立った。…本当は私も挨拶に行くべきかもしれないけれど、フィリップには認められていない。挨拶にも顔を出さない嫁だと思われないだろうか…?

「あ、あのね、フィリップ」

私は思い切って彼に尋ねる事にした。

「何?」

引き止められたことが余程迷惑だったのか、彼は露骨に嫌そうな顔を私に向けた。

「あ、あのね…お義父様とお義母様は私が挨拶にいかないことについて…何か言ってないかしら?」

「いや。別にないよ。僕が決めた事には一切口を挟まないように家族には告げてあるからね」

「そうなのね…分かったわ。なら…いいわ。ごめんなさい、引き止めてしまって」

「…全くだよ」

フィリップはそれだけ言うと、今度こそ部屋を出ていってしまった。


バタン…

ダイニングルームの扉は閉じられ、私は1人になってしまった。
…こんな生活が、これからずっと続くのだろうか…?

痛む胃を抑えながら私はため息をついた―。




しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...