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第10話 息詰まる食事
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コンコン
扉をノックすると、すぐに開いた。開けてくれたのは給仕のフットマンだった。
「お待ちしておりました。旦那様がお待ちです」
「ありがとう」
笑みを浮かべて部屋の奥を見ると、大きなダイニングテーブルには既にフィリップが着席していた。
彼は私の事をじっと見つめている。
良かった…待っていてくれんだ。。
フィリップの良心に感謝しつつ、私は急ぎ足でテーブルに向かった。
「ごめんなさい、お待たせして」
そして椅子を引いて着席した。
「別にいいよ、特に君を待っていたわけじゃないから」
その言葉に一瞬背筋が凍りつきそうになった。
「そうなのね?勘違いしてごめんなさい」
無理に笑みを浮かべてフィリップに返事を返す。
「…」
そんな私を彼は少しだけ見つめると言った。
「それじゃ食事にしようか?」
フィリップはテーブルの上に置いたベルのハンドルを持つと、チリンチリンと鳴らした。
すると、ダイニングルームの奥の扉が開かれ、給仕係の2名のフットマンがワゴンを持って現れた。ワゴンテーブルの上には豪華な料理が並べられている。
「失礼致します」
2人のフットマンは無駄のない動きで私達の前に料理を並べていく。肉料理や魚料理、スープ、パン、サラダにオードブル…。
合計7種類もの料理が並べられた。
「美味しそうね…」
口ではそう言ったものの、食欲は全く無かった。けれど、無理してでも食べなければ…。
「よし、それでは頂こうか?」
「ええ」
するとフィリップが給仕のフットマンに声を掛けた。
「済まないけれど、2人きりにさせてもらえるか?何か用があれば呼ぶから」
「はい、承知致しました」
「失礼致します」
2人のフットマンは頭を下げると、部屋を出ていき…私達は2人きりになった。
「…本館に行って、父と母に話をしてきたよ」
フィリップは料理には口をつけず、ワインを口に運ぶ。
「そう…どんな話を?」
フォークで魚の身をほぐしながら尋ねた。
「別に僕からの話は特に無いよ。ただ、両親からはエルザと仲良く暮らすようにと言われたよ。近々、本館に招待と言っていたから…丁重に断っておいたよ」
フィリップの言葉に私の動きが止まる。
「そ、そうよね。分かっているわ」
何とか笑みを浮かべて返事をする。
「そうだ…後、セシルが君の事を気にしていたよ。明日にでもエルザのところに来るんじゃないかな」
「そう、セシルが…。分かったわ」
そして私は魚料理を口に入れた。
セシル…。
フィリップの弟で、私と同い年の幼馴染。
彼だけが唯一、私とフィリップの結婚を最後まで反対していた。
「フィリップ…セシルは私と貴方の結婚の事について、何か知っているの?」
「結婚の事について…?」
フィリップはようやく料理を口にし始めると私を見た。
「ええ、私が…その、貴方から離婚届を預かっている話とか…」
「まさか、そんな話僕がするはずないだろう?だけど…もしセシルに話したければ話せばいいよ。そうすると僕達の離婚の時期も早まるかもしれないしね」
「そ、それは…私からは…話さないわ」
「そうかい?まぁ君の自由にするといいよ」
私は食事を口にしながら思った。
恐らくフィリップは何も知らないのだろう。例え貴族ではないからと言って、死別でない限り、女性が離婚をすればそこで傷物扱いになるということを。その婚姻期間が短ければ短い程、悪評が世間にばらまかれてしまう。
私の家は貴族ではないけれども、商家の名門として世間では有名だ。ただでさえ、姉が駆け落ちしたことで、我が家の評判は地に落ちた。挙げ句に私が結婚してすぐに離婚してしまえば、更に評判は悪くなり…お客様や取引先が去ってしまう可能性がある。
だから私はなるべく離婚を引き伸ばさなければならない。と言うか、フィリップとの離婚を回避しなければならない。
何より…こんな仕打ちをフィリップから受けていても、それでも私は彼の事が好きだから―。
扉をノックすると、すぐに開いた。開けてくれたのは給仕のフットマンだった。
「お待ちしておりました。旦那様がお待ちです」
「ありがとう」
笑みを浮かべて部屋の奥を見ると、大きなダイニングテーブルには既にフィリップが着席していた。
彼は私の事をじっと見つめている。
良かった…待っていてくれんだ。。
フィリップの良心に感謝しつつ、私は急ぎ足でテーブルに向かった。
「ごめんなさい、お待たせして」
そして椅子を引いて着席した。
「別にいいよ、特に君を待っていたわけじゃないから」
その言葉に一瞬背筋が凍りつきそうになった。
「そうなのね?勘違いしてごめんなさい」
無理に笑みを浮かべてフィリップに返事を返す。
「…」
そんな私を彼は少しだけ見つめると言った。
「それじゃ食事にしようか?」
フィリップはテーブルの上に置いたベルのハンドルを持つと、チリンチリンと鳴らした。
すると、ダイニングルームの奥の扉が開かれ、給仕係の2名のフットマンがワゴンを持って現れた。ワゴンテーブルの上には豪華な料理が並べられている。
「失礼致します」
2人のフットマンは無駄のない動きで私達の前に料理を並べていく。肉料理や魚料理、スープ、パン、サラダにオードブル…。
合計7種類もの料理が並べられた。
「美味しそうね…」
口ではそう言ったものの、食欲は全く無かった。けれど、無理してでも食べなければ…。
「よし、それでは頂こうか?」
「ええ」
するとフィリップが給仕のフットマンに声を掛けた。
「済まないけれど、2人きりにさせてもらえるか?何か用があれば呼ぶから」
「はい、承知致しました」
「失礼致します」
2人のフットマンは頭を下げると、部屋を出ていき…私達は2人きりになった。
「…本館に行って、父と母に話をしてきたよ」
フィリップは料理には口をつけず、ワインを口に運ぶ。
「そう…どんな話を?」
フォークで魚の身をほぐしながら尋ねた。
「別に僕からの話は特に無いよ。ただ、両親からはエルザと仲良く暮らすようにと言われたよ。近々、本館に招待と言っていたから…丁重に断っておいたよ」
フィリップの言葉に私の動きが止まる。
「そ、そうよね。分かっているわ」
何とか笑みを浮かべて返事をする。
「そうだ…後、セシルが君の事を気にしていたよ。明日にでもエルザのところに来るんじゃないかな」
「そう、セシルが…。分かったわ」
そして私は魚料理を口に入れた。
セシル…。
フィリップの弟で、私と同い年の幼馴染。
彼だけが唯一、私とフィリップの結婚を最後まで反対していた。
「フィリップ…セシルは私と貴方の結婚の事について、何か知っているの?」
「結婚の事について…?」
フィリップはようやく料理を口にし始めると私を見た。
「ええ、私が…その、貴方から離婚届を預かっている話とか…」
「まさか、そんな話僕がするはずないだろう?だけど…もしセシルに話したければ話せばいいよ。そうすると僕達の離婚の時期も早まるかもしれないしね」
「そ、それは…私からは…話さないわ」
「そうかい?まぁ君の自由にするといいよ」
私は食事を口にしながら思った。
恐らくフィリップは何も知らないのだろう。例え貴族ではないからと言って、死別でない限り、女性が離婚をすればそこで傷物扱いになるということを。その婚姻期間が短ければ短い程、悪評が世間にばらまかれてしまう。
私の家は貴族ではないけれども、商家の名門として世間では有名だ。ただでさえ、姉が駆け落ちしたことで、我が家の評判は地に落ちた。挙げ句に私が結婚してすぐに離婚してしまえば、更に評判は悪くなり…お客様や取引先が去ってしまう可能性がある。
だから私はなるべく離婚を引き伸ばさなければならない。と言うか、フィリップとの離婚を回避しなければならない。
何より…こんな仕打ちをフィリップから受けていても、それでも私は彼の事が好きだから―。
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