挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第9話 身の程をわきまえて

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「フィリップ…」

私は俯きながら声を掛けた。

「何?」

「少し…考えたい事があるから…1人にさせて貰えるかしら…?」

「いいよ。そういう願いならお安い御用だよ」

そういう願いなら…。フィリップの言葉が追い打ちをかける。
なら、どういう願いなら聞いてくれないの?そう問い詰めたくなるのを私は必死で我慢した。

「それじゃ僕は本館に行ってくるよ。両親に報告に行ってくるから」

「え、ええ…」

そしてフィリップは扉の前で足を止めた。

「エルザ」

「何?」

彼に背を向けたまま私は返事をする。

「君は勝手に本館へ行かないでくれよ?誰かに呼ばれた時以外は。君は僕の正式な妻じゃ無いんだから…そのへんは身をわきまえてくれるかな?」

「!」

駄目だ…ついに堪えていた涙が溢れてきた。

「え、ええ…わ、分かったわ…約束する…」

「うん、宜しくね。あ、そうそう。夕食は午後6時半だよ。メイドが知らせに来るからね」

フィリップはそれだけ言うと、扉を開けて部屋を出て行った。

「う…」

私はベッドに駆け寄るとクッションに顔を押し付け、鳴き声が外に漏れないようにいつまでもいつまでも泣き続けた―。


*****

 
 気付けば、薄暗い部屋ので私はヘッドボードによりかかり、呆然と窓の外を見つめていた。空はオレンジ色からすっかり夜の色に変わり、一番星が大きく輝いていた。

「今…何時なのかしら…?」

ポツリと呟いた時―。


コンコン

部屋の扉がノックされる音が聞こえた。

「はい」

扉に向かって返事をすると女性の声が聞こえた。

「奥様、すみません。お夕食の準備が出来たのですが…」

奥様…。
果たして、私はそんな風に呼ばれる資格があるのだろうか?

「今…行きます」

弱々しく返事をすると、扉に向かった。

カチャリ…

「あ、あの…奥様?どうされのですか?何だか酷く顔色が悪いようですが?」

若いメイドさんが私を見て驚いている。

「え、ええ。大丈夫。何とも無いから」

無理に笑顔を作って返事をした。そうだ…ついでにお願いしておこう。

「あのね…私の呼び方だけど、奥様って呼ばれるのは気恥ずかしいから、『エルザ』と名前で呼んでくれるかしら?」

「え…?そうなのですか…?では『エルザ様』と呼ばせて頂きますね」

「ええ、そう呼んでくれる?他の人達にもそう伝えておいてね?」

「はい、かしこまりました。ではダイニングルームに案内致しますね?」

「ええ…」

本当は食欲なんか皆無だった。何も喉を通りそうにない。けれど、フィリップが待っているはず。私は彼の前で冷静さを保っていなければ…そうしなければもっと彼に愛想をつかされてしまうだろう。

まだ姉がいて、フィリップが私に優しくしてくれていた頃…彼は私によく言っていた。

『エルザはいつも明るくて元気があっていいね。見ているとこちらも元気を分けて貰えそうだよ』

そう、姉に比べて容姿が劣る私は、精一杯明るく振る舞う事だけが取り柄だったのだ。

だから…私は他の人の前では明るく振る舞う演技をしなければならない。
例え、心の中で涙を流していようとも…。

やがて、私達はダイニングルームの扉の前にやってきた。

「この扉の奥がダイニングルームでございます。旦那様が既に席に着いてお待ちです」

「ありがとう」

笑みを浮かべてメイドさんにお礼を述べると、彼女はお辞儀をして去っていった。

そして私は深呼吸すると、扉をノックした―。


 
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