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3-7 もしかして、はめられた?
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「だ、誰?あの人は……?」
「シッ!静かに」
魔法使いに再び口をふさがれた。
「サファイア……帰ってきたのか?父さんだよ?」
そして足音が近づいてくる。
その言葉で部屋に入ってきた人物がサファイアの父親であることが分かった。
「気のせいだったか……そうだよな……お前が行方不明になってもうすぐ1ヶ月になるというのに全く足取りがつかめないのだから……。それにしてもギルバート王子め……!我が娘という婚約者がありながら、平民の娘にうつつを抜かして言いがかりの上に追放など……!」
その言葉には悔しさが滲み出ている。一方の魔法使いは真剣に話を聞いている。
「サファイア、父さんは諦めないからな?必ずお前を探し出し……ギルバート王子に贖罪させてやるからな?」
そして再び足音が遠ざかっていった。
「ふ~……どうやら行ったようだね?」
辺りが静かになると魔法使いは私に声を掛けてきた。
「ええ、そうね」
「よし、それじゃクローゼットから出てこようか?」
魔法使いは私を抱きかかえたままクローゼットから出てきた。
「い、一体今のはどういうことなの……?」
声を震わせながら魔法使いに尋ねると、彼は口元に笑みを浮かべた。
「まぁ、ここでは何だから……とりあえず場所を移そうか?」
そして彼はパチンと指を鳴らした。
一瞬で目の前の景色が部屋の中から外の景色に変わり、私達は大きな木の枝に座っていた。
目の前には満天の星空と大きな満月が輝いている。
「うわ~綺麗……!」
思わず感嘆の声を上げると、私を抱きかかえていた魔法使いがうなずく。
「うん、本当に綺麗だね」
私はじっと魔法使いを見上げた。眼鏡の隙間からは端正な彼の横顔が見える。漆黒の髪に、黒いマント姿の彼は……夜がすご似合っていた。
なんて……美しい姿なのだろう。まるで夜を司る帝王のようだ。
思わず見惚れていると、不意に魔法使いが声を掛けてきた。
「分かっただろう?サファイア」
「え?な、何のこと?」
まさか魔法使いに見惚れていることがバレてしまったのだろうか?
「部屋にやって来たのはサファイアのお父さんだよ」
「ええ、姿は分からないけど呟きの内容で分かったわ。……とても悲しそうな声だったわね」
「そうだね。調べたところ君は一人娘だったみたいだよ」
「そうだったの」
小説の中ではサファイアの家族構成なんて書かれていなかったから知る良しも無かった。
「どうやら……僕も君もまんまと王子の罠にはめられたようだね」
「え?罠?」
「そうだよ、先程の彼の口振りで分かったよ。大体君は本当は王子の婚約者だったのに、婚約破棄された挙げ句、呪いまで掛けられたのだから」
「ちょっと。呪いを掛けたのは自分のくせに、その口振りはまるで他人事じゃない」
「仕方ないよ。僕だって王子に命令されただけなんだから、やむを得ずだよ。事情も何も説明されずに、サファイアに呪いをかけるように言われただけなんだから。だけど、まさか……こんなことになっていたなんて……。これは何とかしないとな……」
魔法使いは腕組みした。
「え?まさか何か良い考えでも浮かんだの?」
「うん、こうなったらサファイア。一刻も早く人間に戻れるように善行を尽くすんだよ。それしかない。そして元の姿に戻ったらこの屋敷に帰ってくればいいよ。それでめでたしめでたしさ」
「はぁ?何よそれ!それじゃ結局私が努力しなければ呪いが解けないわけね?サファイアに言いがかりをつけて呪いを掛けた王子たちはどうなの?!ざまぁはないわけ?!」
「え?何?その『ざまぁ』って?」
首を傾げる魔法使い。うう~!もどかしい!
こうして私はその後、魔法使いに「ざまぁ」とは何かレクチャーする羽目になってしまった――。
「シッ!静かに」
魔法使いに再び口をふさがれた。
「サファイア……帰ってきたのか?父さんだよ?」
そして足音が近づいてくる。
その言葉で部屋に入ってきた人物がサファイアの父親であることが分かった。
「気のせいだったか……そうだよな……お前が行方不明になってもうすぐ1ヶ月になるというのに全く足取りがつかめないのだから……。それにしてもギルバート王子め……!我が娘という婚約者がありながら、平民の娘にうつつを抜かして言いがかりの上に追放など……!」
その言葉には悔しさが滲み出ている。一方の魔法使いは真剣に話を聞いている。
「サファイア、父さんは諦めないからな?必ずお前を探し出し……ギルバート王子に贖罪させてやるからな?」
そして再び足音が遠ざかっていった。
「ふ~……どうやら行ったようだね?」
辺りが静かになると魔法使いは私に声を掛けてきた。
「ええ、そうね」
「よし、それじゃクローゼットから出てこようか?」
魔法使いは私を抱きかかえたままクローゼットから出てきた。
「い、一体今のはどういうことなの……?」
声を震わせながら魔法使いに尋ねると、彼は口元に笑みを浮かべた。
「まぁ、ここでは何だから……とりあえず場所を移そうか?」
そして彼はパチンと指を鳴らした。
一瞬で目の前の景色が部屋の中から外の景色に変わり、私達は大きな木の枝に座っていた。
目の前には満天の星空と大きな満月が輝いている。
「うわ~綺麗……!」
思わず感嘆の声を上げると、私を抱きかかえていた魔法使いがうなずく。
「うん、本当に綺麗だね」
私はじっと魔法使いを見上げた。眼鏡の隙間からは端正な彼の横顔が見える。漆黒の髪に、黒いマント姿の彼は……夜がすご似合っていた。
なんて……美しい姿なのだろう。まるで夜を司る帝王のようだ。
思わず見惚れていると、不意に魔法使いが声を掛けてきた。
「分かっただろう?サファイア」
「え?な、何のこと?」
まさか魔法使いに見惚れていることがバレてしまったのだろうか?
「部屋にやって来たのはサファイアのお父さんだよ」
「ええ、姿は分からないけど呟きの内容で分かったわ。……とても悲しそうな声だったわね」
「そうだね。調べたところ君は一人娘だったみたいだよ」
「そうだったの」
小説の中ではサファイアの家族構成なんて書かれていなかったから知る良しも無かった。
「どうやら……僕も君もまんまと王子の罠にはめられたようだね」
「え?罠?」
「そうだよ、先程の彼の口振りで分かったよ。大体君は本当は王子の婚約者だったのに、婚約破棄された挙げ句、呪いまで掛けられたのだから」
「ちょっと。呪いを掛けたのは自分のくせに、その口振りはまるで他人事じゃない」
「仕方ないよ。僕だって王子に命令されただけなんだから、やむを得ずだよ。事情も何も説明されずに、サファイアに呪いをかけるように言われただけなんだから。だけど、まさか……こんなことになっていたなんて……。これは何とかしないとな……」
魔法使いは腕組みした。
「え?まさか何か良い考えでも浮かんだの?」
「うん、こうなったらサファイア。一刻も早く人間に戻れるように善行を尽くすんだよ。それしかない。そして元の姿に戻ったらこの屋敷に帰ってくればいいよ。それでめでたしめでたしさ」
「はぁ?何よそれ!それじゃ結局私が努力しなければ呪いが解けないわけね?サファイアに言いがかりをつけて呪いを掛けた王子たちはどうなの?!ざまぁはないわけ?!」
「え?何?その『ざまぁ』って?」
首を傾げる魔法使い。うう~!もどかしい!
こうして私はその後、魔法使いに「ざまぁ」とは何かレクチャーする羽目になってしまった――。
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