49 / 99
2−29 不思議な夢
しおりを挟む
ああ……私は元の世界に戻ることも、サファイアの姿に戻ることも出来ないまま、フクロウの姿で死んでいくんだ……。
ぐんぐん迫って来る地面にどうすることも出来ないまま私は覚悟を決めてギュッと目を閉じた。
次の瞬間――。
「サファイアーッ!!」
突然魔法使いの声が響き渡り、私の身体がフワリと空中で止まった。
「え……?」
薄れゆく意識の中で目を開けると、取り乱した様子の魔法使いが私の身体に手を伸ばしていた。
そっか……貴方が助けに来てくれたのね‥…。
そこで私は完全に意識を無くした。
魔法使いが何かを叫んでいるのを聞きながら――。
*****
暗闇の中、誰かの声が遠くから聞こえて来る。
<サファイア!よくも私の大切なジェニーをメイドのようにこき使ったな!挙句に体罰だけにとどまらず毒殺まで試みようとして……許せんぞ!>
いいえ!そんなこと私はしておりません!!メイドのように扱ったと言われますが、平民出身の彼女の為に淑女の嗜みを指導していただけです!それに一度も彼女に手を上げたことも無ければ、ましてや毒殺などあり得ません!
<なら、彼女の背中のむち打ちの後は何だ?!お前がジェニーの背中を鞭打ったとする証言が何人からも取れているのだぞ!>
そんな話は初耳です!一体誰がそのようなデマを流したのですか?!その人たちを連れて来て下さい。それ以前にもし仮に私が彼女を鞭打っていたとして、何故誰もが止めようとしなかったのですか?!
<それはお前が侯爵令嬢であり、私の婚約者であったから止めることが出来なかったと皆が口を揃えて言ったのだ!>
皆とは誰ですか?!その人物たちを連れて来て下さい!
《おやめください。ギルバート様。サファイア様を責めないで下さい。元はと言えば私がギルバート様と恋に堕ちてしまったのが原因なのですから。恨まれて当然なのです。サファイア様は何も悪くありません!》
な、何を言ってるの?ジェニーさん。その言い方ではまるで私が本当に貴女に酷いことをしてしまったような言い方に聞こえてしまうじゃないの!
《キャア!お、お願いです……お許しください!サファイア様!これ以上鞭で打たないで下さい!》
いい加減なことを言わないで!私は一度だってそんなことしたことは無いでしょう?!
<黙れサファイア!もう我慢の限界だ……こうなったらあの魔法使いの封印を解いて、お前を醜くなる呪いに掛けさせてやろう!その腐った性根を映したような醜い姿にな……!!>
そ、そんな!殿下!私は本当に何もしておりません!
誰か……誰か私の話を聞いて!私を……信じて――。
****
「う……」
パチリと目を覚ますと、私は藁の敷き詰められた上に寝かされていた。森の木々の合間からは美しい星空が見える。
「え…‥と、ここは……?」
体を起こすと、近くで焚火が燃えている。
「焚火…‥?一体何が……?」
それにしても何だか随分不思議な夢を見ていた気がする。一体あの夢は何だったのだろう?
首を捻ったその時――。
「サファイア!目が覚めたんだね!」
不意に背後から声が聞こえた。振り向くとそこには魔法使いが立っていた。
「あ……魔法使いじゃないの」
すると彼は駆け寄ってくると手を伸ばして私を手に取った。
「良かった……サファイア。もう少し助けるのが遅ければ、君はフクロウのくせに地面に叩きつけられて死んでいたところだったんだよ?」
「あ、やっぱり私を助けてくれたのは貴方だったのね?でもフクロウのくせにと言うのは一言余分よ」
「ごめん…‥安心したからつい。ところで怪我の具合はどうだい?一応治癒の魔法はかけてみたけれど」
魔法使いは首を上下に動かして、私の身体を確認している。
「あら?そう言えばどこも痛くないわ。まさか怪我の治療まで出来たの?」
魔法使いは得意そうに口元に笑みを浮かべる。
「当然だよ、僕は偉大な魔法使いだからね」
「はいはい、分かってますよ」
身体をすぼめて頷く私。
「でも……サファイア、君に出来た身体の傷……。ひょっとして何者かにやられたのかな?」
魔法使いの口調は何処か私を労わるように聞こえた。
「ええ。まぁね。『シルフィー』を持ってクロードの部屋に行ったのだけど、部屋から出て来た黒スーツ姿の男の人にちょっと痛い目に遭わされただけよ。それで慌てて逃げたんだけど……このざまよ」
「やっぱり、そうだったのか……本当に何故人間という者は平気で酷いことをするのだろう……」
そして魔法使いは悔しそうに唇を噛んだ――。
ぐんぐん迫って来る地面にどうすることも出来ないまま私は覚悟を決めてギュッと目を閉じた。
次の瞬間――。
「サファイアーッ!!」
突然魔法使いの声が響き渡り、私の身体がフワリと空中で止まった。
「え……?」
薄れゆく意識の中で目を開けると、取り乱した様子の魔法使いが私の身体に手を伸ばしていた。
そっか……貴方が助けに来てくれたのね‥…。
そこで私は完全に意識を無くした。
魔法使いが何かを叫んでいるのを聞きながら――。
*****
暗闇の中、誰かの声が遠くから聞こえて来る。
<サファイア!よくも私の大切なジェニーをメイドのようにこき使ったな!挙句に体罰だけにとどまらず毒殺まで試みようとして……許せんぞ!>
いいえ!そんなこと私はしておりません!!メイドのように扱ったと言われますが、平民出身の彼女の為に淑女の嗜みを指導していただけです!それに一度も彼女に手を上げたことも無ければ、ましてや毒殺などあり得ません!
<なら、彼女の背中のむち打ちの後は何だ?!お前がジェニーの背中を鞭打ったとする証言が何人からも取れているのだぞ!>
そんな話は初耳です!一体誰がそのようなデマを流したのですか?!その人たちを連れて来て下さい。それ以前にもし仮に私が彼女を鞭打っていたとして、何故誰もが止めようとしなかったのですか?!
<それはお前が侯爵令嬢であり、私の婚約者であったから止めることが出来なかったと皆が口を揃えて言ったのだ!>
皆とは誰ですか?!その人物たちを連れて来て下さい!
《おやめください。ギルバート様。サファイア様を責めないで下さい。元はと言えば私がギルバート様と恋に堕ちてしまったのが原因なのですから。恨まれて当然なのです。サファイア様は何も悪くありません!》
な、何を言ってるの?ジェニーさん。その言い方ではまるで私が本当に貴女に酷いことをしてしまったような言い方に聞こえてしまうじゃないの!
《キャア!お、お願いです……お許しください!サファイア様!これ以上鞭で打たないで下さい!》
いい加減なことを言わないで!私は一度だってそんなことしたことは無いでしょう?!
<黙れサファイア!もう我慢の限界だ……こうなったらあの魔法使いの封印を解いて、お前を醜くなる呪いに掛けさせてやろう!その腐った性根を映したような醜い姿にな……!!>
そ、そんな!殿下!私は本当に何もしておりません!
誰か……誰か私の話を聞いて!私を……信じて――。
****
「う……」
パチリと目を覚ますと、私は藁の敷き詰められた上に寝かされていた。森の木々の合間からは美しい星空が見える。
「え…‥と、ここは……?」
体を起こすと、近くで焚火が燃えている。
「焚火…‥?一体何が……?」
それにしても何だか随分不思議な夢を見ていた気がする。一体あの夢は何だったのだろう?
首を捻ったその時――。
「サファイア!目が覚めたんだね!」
不意に背後から声が聞こえた。振り向くとそこには魔法使いが立っていた。
「あ……魔法使いじゃないの」
すると彼は駆け寄ってくると手を伸ばして私を手に取った。
「良かった……サファイア。もう少し助けるのが遅ければ、君はフクロウのくせに地面に叩きつけられて死んでいたところだったんだよ?」
「あ、やっぱり私を助けてくれたのは貴方だったのね?でもフクロウのくせにと言うのは一言余分よ」
「ごめん…‥安心したからつい。ところで怪我の具合はどうだい?一応治癒の魔法はかけてみたけれど」
魔法使いは首を上下に動かして、私の身体を確認している。
「あら?そう言えばどこも痛くないわ。まさか怪我の治療まで出来たの?」
魔法使いは得意そうに口元に笑みを浮かべる。
「当然だよ、僕は偉大な魔法使いだからね」
「はいはい、分かってますよ」
身体をすぼめて頷く私。
「でも……サファイア、君に出来た身体の傷……。ひょっとして何者かにやられたのかな?」
魔法使いの口調は何処か私を労わるように聞こえた。
「ええ。まぁね。『シルフィー』を持ってクロードの部屋に行ったのだけど、部屋から出て来た黒スーツ姿の男の人にちょっと痛い目に遭わされただけよ。それで慌てて逃げたんだけど……このざまよ」
「やっぱり、そうだったのか……本当に何故人間という者は平気で酷いことをするのだろう……」
そして魔法使いは悔しそうに唇を噛んだ――。
10
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる