上 下
15 / 99

1−14 胡散臭い魔法使い ②

しおりを挟む
「お、おじいちゃんて……」

 魔法使いは私の言葉がショックだったのか、ぐらりと身体をよろめかせ……ゴツンと木の枝頭をぶつけた。

「あ、イタタタタ……」

 彼はサファイアを蛙に変えた張本人。だから敢えて「大丈夫?」なんて言ってあげないことにした。

「確かにおじいちゃんて言われる年齢かもしれないし……それに君は可愛い蛙だからまぁいいか?」

 え?可愛い?今、この魔法使い……私のことを可愛いと言ったの?

「ま……まぁ確かに自称、偉大な魔法使いなんて言ってるくらいだから長生きする魔法の使い方だって知っているかもしれないわよね……。それじゃ次の質問をしてもいい?」

「勿論だよ。当然君には話を聞く権利があるからね」

 大真面目な顔つきで頷く魔法使い。

「さっき、君の邪な心が再び人の言葉を話せなくしてしまったって言ってたけど……邪な心って何よ?私は純粋な心しか持っていないけど?」

「おやぁ?果たして本当にそう言い切れるかな?」

 「え……?な、何よ……」

「自分でも気付いていないなら、親切で偉大な魔法使いである僕が教えてあげよう。
君は自分が本当は人間で、呪いによって蛙にされてしまったのだと伝えるつもりだっただろう?」

「そ、そんなの当然じゃない!だって切実な問題なんだから!」

 ケロケロと喉を鳴らしながら抗議する私。

「あ、あまつさえ……くっ!き、君は……カハッ!の、呪いを解くには……グフッ!人から感謝の言葉を貰えれば……も、元の姿に戻れると……ククッ!つ、告げるつもりだっただろう……アーハッハッハッ……ヒィ~く、苦しい……た、頼むから喉を鳴らすのはやめてくれないかなぁ~‼」

 魔法使いは我慢の限界とでも言わんばかりに笑い出す。

「な!何よっ!仕方ないでしょうっ?!蛙の本能だか、何だか知らないけれど勝手に喉がケロケロ鳴ってしまうんだから!」

 再びケロケロ喉を鳴らして抗議する私。

「だ、駄目だッ‼く、苦しい……わ、笑死するぅ~……!」

 そして少しの間、魔法使いは笑い転げるのだった――。



****


「ふ~……苦しかった……」

 再び眼鏡を外して、笑い過ぎの涙を拭う魔法使い。
 くぅ……な、何というイケメンぶり……!しかも妙な色気?まである。

 魔法使いは涙を拭うと、再び眼鏡を掛けてしまった。

 あ~あ……ほんっとに勿体ない。超絶美形の顔がまた隠されてしまった。

「君といると、本当に飽きないよ。どう?このまま蛙でいるっていうのは?」

「はぁ?!突然何を言い出すのよ!私は人間よ?どうして蛙のままいられるのよ!」

 この魔法使い、ついに笑いすぎて頭がイカれてしまったのだろうか?

「そうか……残念だなぁ。ずっと蛙の君と一緒に暮らしてもいいかな~なんて思ったんだけど……」

 腕組みする魔法使い。

 まるでプロポーズのような言葉に耳を疑う。
 え?もしかして、それって私のこと……?
 だとしたら、このまま別に蛙のままでも……。

「なんてあるわけ無いじゃーん!じょ、冗談じゃないわよ!私は人間!蛙のまま人生を終わるわけにはいかないのよ!」

「確かに君の言うことも一理あるね……仕方ないか」

「ねぇ。だったら魔法で私の呪いを解いて頂戴よ」

「ごめん、無理」

「は?」

あまりにも軽いノリで即答してくる魔法使いに私が軽い殺意を覚えてしまったのは……うん、仕方がない――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

処理中です...