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4-5 猛と蓮

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「うわあ・・・すごーい。広くて大きくて綺麗ー。」

蓮がホテルのエントランスロビーを見渡し、真っ先に感嘆の声を上げた。
大きな窓ガラスの奥には美しい庭園が見える。
正面入り口を入った目の前には大きな花瓶に生けられた美しい花々が飾られ、床には高級な織りカーペットが敷かれている。
見上げるほどに高い天井にはスワロフスキーを使用した巨大な逆三角形型のシャンデリアぶら下がり、ロビーの壁際に設置されている幅広なかね折り階段の奥には巨大な絵画が壁に飾られ、2階フロアも下から見上げる事が出来る。
ロビーに等間隔に置かれた立派な革張りのソファには上品そうな客が座り、新聞を広げたり、談笑している姿も見られた。

「お母さん、僕・・こんな立派な場所に来るのは初めてだよ。」

蓮は目をキラキラさせながら朱莉に興奮気味に話しかける。

「そうね。蓮ちゃん。お母さんも滅多にこんな場所には来ないわ。」

すると蓮は黙って立っていた修也に尋ねた。

「修ちゃんはこういう場所、来た事ある?」

「うん・・そうだね。たまーに来るかな?」

修也は笑いながら返事をする。

「へえ~修ちゃんてすごいんだね・・。こんな素敵な場所にたまに来るなんて・・。」

「あのね、蓮ちゃん。各務さんは鳴海グループの副社長をしているえらーい人なのよ。だからお仕事とかで、こういう場所に来るんだから。」

それを聞いた修也は苦笑した。

「ハハ・・僕はあくまで副社長代理だから・・・。それよりもこれからもっと凄い人に会うんだよ。蓮君の曾お爺さんは、会社を作った一番偉い人なんだから。」

「え?!僕の曾お爺ちゃんてそんなに偉い人なのっ?!」

蓮が大きい声を上げた時・・・。

「ハッハッハ・・。嬉しいなあ。可愛い曾孫にそんなふうに言ってもらえるとは。」

朱莉たちの背後で声が聞こえた。3人は慌てて振り向くと、そこには猛と秘書の滝川が立っていたのだ。

「鳴海会長、お久しぶりでございます。」

朱莉は頭を下げた。

「会長、お久しぶりです。」

修也も頭を下げる。

一方の蓮は初めて見る猛に人見知りして朱莉の足にしがみつくようにじっと猛を見つめていた。そこで朱莉が声を掛けた。

「蓮ちゃん、この方が蓮ちゃんの曾御爺様よ。」

「あ。あの・・・こんにちは・・。」

蓮は朱莉の足を離すと、ぺこりと頭を下げる。するとそれを見た途端、猛が嬉しそうに笑った。

「蓮か・・・。お前の曾お爺ちゃんだよ。ちゃんと挨拶出来て、なんてお前はおりこうさんなんだ。初めて会った時はまだ赤ちゃんだったのに・・・。」

ニコニコ笑いながら猛は蓮の頭を撫でた。すると蓮は顔を赤くしながらも嬉しそうに笑う。

「蓮、曾お爺ちゃんが素敵な場所へ連れて行ってあげよう。おいで。」

猛が蓮に右手を差し出すと、蓮は戸惑いながらも猛の手をつないだ。

「うん、よし行こう。」

猛が満面の笑顔で蓮と手をつないでエレベーターホールに向かう姿を修也も朱莉も・・そして秘書の滝川までもが呆気にとられて見ていたのは言うまでも無かった。


 5人が訪れた部屋は猛が特別に手配したホテルの最上階にある個室付きレストランだった。室内はテニスコート並みの広さで、大きな窓からは高層ビル群が見える。
蓮は窓から見える景色に興奮しっぱなしだった。

「どうだ?蓮。45階から見える新宿の景色は?」

猛は蓮に尋ねる。

「うん、とっても凄いね。僕・・・こんなに高いところか外を見るの初めてだよ。」

蓮はニコニコしながら猛に言う。

「そうか、蓮。曾お爺ちゃんの会社もな、東京に55階建てのビルを持ってるんだぞ?それだけじゃない。日本中に会社があるし、他の国にも会社があるんだ。それら全てが・・・いずれ、蓮。お前のものになるんだ。」

猛は蓮のあまたを撫でながら言う。

背後で2人の会話を聞いていた朱莉は猛の話を聞いて改めて思った。

(そうだったわ。忘れていたけど・・蓮ちゃんはあの鳴海グループの子息。本来であれば私みたいな人間が、不用意に近づけるような相手じゃなかったんだわ・・・。そして各務さんだって・・・。)

朱莉は思わず隣に立つ修也を見ると、不意に目があった。

「どうかしましたか?朱莉さん。」

修也は不思議そうな顔で朱莉を見つめる。

「い、いえ。」
 
朱莉は目を伏せた。猛に会うまでは今まで朱莉は自分の立場というのを失念していた。翔も明日香も・・そして目の前にいる修也だって鳴海グループの・・会長の血を引く人間なのだ。自分のような人間には足元にも及ばない遠い存在。そして九条・・二階堂も例外ではない。

そして、このことがきっかけで朱莉の中に・・・・ある感情が芽生えるようになるのだった―。




「どうだ?蓮。おいしいか?」

猛はにこにこしながら蓮が食事をしている様子を眺めている。今、彼らの前には豪華な料理がバイキング形式テーブルに並べられていた。ハンバーグやエビフライ、ピザにフライドポテト等々・・・。
これらの料理は蓮が土曜な料理が好きなのか分からなかった猛がわざわざレストランにオーダーして用意させたものであった。

「うん。とっても美味しい!」

蓮は大喜びで自分の好きな料理を取り分けて貰って食べている。その様子はとても幸せそうだった。

「会長と蓮君・・とても良い雰囲気ですね。」

朱莉の隣の席で食事をしていた修也が言った。

「はい、そうですね。会長が・・あんなにも蓮ちゃんを可愛がってくれるとは思いもしませんでした。・・・でも改めて思いました・・・。蓮ちゃんは・・。」

朱莉はそこで口を閉ざした。その横顔は・・とても寂し気に見えた。

「朱莉さん?どうかしたんですか?」

修也は朱莉の様子がおかしい事に気づいた。

「あの・・・私・・・本当はここにいてはいけない人間じゃないかって・・思ったんです・・・。」

「え・・・?朱莉さん・・・何を言ってるんですか?」

修也は朱莉を見た。

「いえ、何でもありません。気にしないで下さい。」

朱莉は顔をあげて修也を見ると笑みを浮かべるのだった―。



 それから2時間後―

すっかりお腹が一杯になってしまった蓮はソファの上で眠ってしまていた。そんな蓮の様子を見ながら猛は言った。

「朱莉さん。今度は蓮を連れて是非我が家にも遊びに来てくれ。蓮の為の部屋も用意しておくし、遊び道具も用意しておくから。」

猛はすっかり蓮の事を気に入ってしまったようである。

「そうですね。今度是非伺わせて頂きます。」

朱莉は丁寧に頭を下げた。

「よし、それではそろそろ帰るか。」

猛の言葉で朱莉は蓮を抱き上げようとすると、修也が言った。

「いいよ、朱莉さん。蓮君なら僕が運ぶから。」

「すみません。ありがとうございます。」

修也は笑みを浮かべると、次に猛の方を見た。

「会長、この後のご予定はどうなっているのですか?どこかご挨拶周りがあるようでしたら・・。」

「いや。そんなものは無い。今日はこのまま家に帰るつもりだから修也も気にするな。修也も朱莉さんも蓮がまだ眠っているんだから、それまでここでゆっくりしていくとよい。この部屋は今日は1日貸し切っているからな。」

「お心遣い、どうもありがとうございます。」

朱莉は改めて猛に礼を言う。

「いいや、それではまた会おう。」

「会長、お気をつけてお帰り下さい。」

修也も頭を下げると、猛は滝川を連れて部屋を出て行き・・・後には眠っている蓮と、朱莉に修也が残された。

 猛が部屋から出て行くと、朱莉は言った。

「各務さん。コーヒーでもいれましょうか?」

「ありがとうございます。」

「それじゃ今淹れますね。」

朱莉は部屋に設置してあるコーヒーマシンに紙コップをセットすると、ボタンを押した。

コポポポ・・・・

コーヒーが注がれる音と同時に良い香りが部屋に漂う。

「どうぞ。」

「ありがとう。」

紙コップにそそがれたコーヒーを受け取ると修也は朱莉に話しかけた。

「朱莉さん・・。」

「はい?何でしょう?」

自分の分のコーヒーを注いだ朱莉は修也に向き直った。

「今・・・何を考えているのですか?」

その目は・・とても真剣なものだった―。




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