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8-6 結婚式 ①

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6月某日 大安吉日 午前11時―

都内の一流ホテルで二階堂と姫宮の結婚式が厳かに行われている。

「素敵ですねえ・・・姫宮さん・・・じゃなかった、静香さんのウェディングドレス姿・・・。」

フォーマルドレスに身を包み、蓮を抱っこしながら朱莉がうっとりした目つきで見つめている。
今、二階堂夫妻はホテルの中にあるチャペルで指輪の交換をしている。

目をキラキラさせながら2人の様子を見つめる朱莉の横顔を見ながら翔は思った。

(やはり朱莉さんも・・・ウェディングドレスと結婚式に憧れているのだろうな・・でも女性なら当然の事か。)

そして翔は自分たちの席よりも後ろに座っている琢磨、そしてまた別の席に座っている修也を見ながら思った。

(あの2人も・・・いずれ誰かと結婚をするんだろうな・・・。だが、俺は一体どうだ・・?明日香とは曖昧な関係、朱莉さんとは中途半端な結婚・・・こんな事になるなら契約結婚なんか考えずに・・・最初から朱莉さんを本当の妻にしていれば・・・。本当の家族になっていたのに・・。)

だが、翔にはその言葉を口にする勇気が持てなかった。契約婚をやめて本当の夫婦になろうと言った段階で朱莉との関係が破たんしてしまうのではないかという恐怖があった。そして何故か・・・言い知れぬ嫌な予感がしていた。

(何だろう・・・今日はどうしようもなく嫌な胸騒ぎがする・・。もしかして琢磨と修也がいるからか・・・?せめて・・披露宴は席が離れていてくれればいいな・・・)

翔は披露宴が始まる今から席次表の事を考えるだけで胃がズキズキと痛くなるのを感じていた―。


やがて、式が終わりブーケトスの時間がやって来た。

「はーい!独身女性の皆さんっ!これから花嫁がブーケを投げますっ!誰が受け取れるでしょうか・・・それでは花嫁さん、よろしくお願いしますっ!」

「誰が受け取るんでしょうね・・・。」

朱莉は興味津々に我こそはブーケをと狙っている女性達からは離れて翔と一緒にその様子を見つめている。

「そ、そうだね・・・。」

翔は蓮を抱いてあやしながら曖昧に返事をした。本来なら朱莉だって独身のようなものだ。なのに自分と言う偽装の夫がいる為にブーケトスに参加する事が出来ない。それがとても申し訳なく感じてしまった。

「すまない、朱莉さん・・・。」

翔は小声で朱莉に謝罪した。

「え?何を謝るのですか?」

朱莉は訳が分からないとでも言わんばかりに首を傾げた。

「あ、いや。何でもないよ。」

その時再び司会者の声がした。

「さあ、花嫁がブーケを持って壇上へと上がってきます!」

そこへ純白のウェディングドレスにロングヴェールを被った姫宮がブーケを手に壇上へ上がって来た。
そして静香は満面の笑みを浮かべてクルリと背を向けた。

「では花嫁さん!合図とともにブーケを後ろに投げて下さいっ!3!2!1!どうぞ」っ!」

静香は合図とともにブーケを空高く放り投げ・・・

パサリ

「え・・・?」

何と偶然にも花束は真下に集まった独身女性達では無く、彼女達の頭の上を通り越し、グループから少し離れた場所に立っていた朱莉の元へパサリと落ちてきたのだ。

途端に一斉に会場に拍手が巻き起こった。

「え?え?」

朱莉は驚き、キョロキョロしながら周囲を見渡した。すると、壇上に立っていた姫宮と朱莉の視線が合った。
・・・姫宮はニコリと笑みを浮かべた。

「静香さん・・・。」

(まさか・・・私にわざとブーケを・・・。)

戸惑う朱莉を姫宮はじっと見つめると、心の中で語り掛けた。

(朱莉さん・・・今度は貴女が幸せになる番よ・・・。)



 そしてブーケトスのイベントの後、二階堂夫妻は披露宴のお色直しの為に、チャペル会場を音楽に合わせて、最大な拍手に包まれながらゆっくりと退場して行った―。

「朱莉さん。俺達も・・・次の会場へ移動しようか?」

「ええ。そうですね。」

言いながら翔は近くに琢磨や修也の姿が無いか見渡したが、幸い大勢の来賓客達で会場内はごった返し、2人の姿を見つける事は無かった。

「良かった・・。」

翔は安堵の溜息を洩らした。

「え?何が良かったのですか?」

「いや・・何でも無い。それじゃ、行こうか?」

「はい。」

朱莉は翔に促され、2人で次の披露宴会場へと移動した—。



披露宴会場にて―

(くそ・・・っ!先輩め・・・一生この事は恨んでやるかなっ!)

翔は自分と同じテーブルに座るメンバーを見て、二階堂を心底恨みたくなってしまった。

(何で、何でよりにもよってこの2人と同じテーブルなんだよっ?!)

丸テーブルには翔の右隣に朱莉、そして朱莉の隣には修也が座っている。そして翔の左隣には気まずい雰囲気の琢磨が座っている。残り5人のメンバーは二階堂の会社関係の人物達だろうか?いずれも翔達とさほど、年齢に違いないだろう。

先に口を開いたのは琢磨の方だった。

「翔・・・元気そうだな。」

「あ、ああ・・・まあな。そういう琢磨も・・元気そうだ。」

「ああ、お陰様でな。夏はあまり暑くないはいいが、冬の寒さは身に染みて堪える。まだオハイオに行って半年しか経過していないが・・・こうして久しぶりに日本へ戻って来るともう出国する気が失せそうだ。それとも誰か一緒について来てくれればまたオハイオに戻ってもいいと思えるんだけどな。」

不敵な笑みを浮かべながら琢磨は言った。

「あ、ああ・・そうか・・・。」

翔は曖昧に返事をした。

しかし、今の琢磨に取っては翔との会話等どうだって良かった。今琢磨の頭を占めているのは朱莉の隣に座っている修也の事だけであった。

(あいつが・・・新しい翔の秘書なのか・・・?しかし、一体どういう事なんだ?何故・・・あの男と翔が・・よく似ているんだ・・・っ!)

初めてテーブル席に着いた時、琢磨は修也を見て我が目を疑った。始めは翔だと思い、目をゴシゴシと擦ってしまう程だった。それ程に2人はよく似ていたのである。

「おい、翔。」

琢磨は小声で翔に話しかけてきた。

「何だ?」

「朱莉さんの隣に座っているあの男は・・・一体何者なんだ?お前の新しい秘書なんだろう?何故・・・お前にそっくりなんだよ。」

「あ、ああ・・・。あの男は各務修也と言って・・俺の・・・従弟なんだ・・。」

「何だって?従弟だって?翔・・・お前に従弟がいたのか?」

「そうなんだ・・。俺達と修也は・・・同じ年だ・・・。それに・・琢磨。お前は気付いていなかったかもしれないが・・・高校時代、お前と修也は会った事があるんだよ。」

「おい?!どういう事なんだ。俺に分かるように最初からきちんと話せ。」

琢磨は小声でますます翔に詰め寄った。

「ああ・・・分かった、話すよ・・・。」

そして翔は披露宴が始まる前の間、琢磨に昔話をする羽目になってしまった。



 一方、こちらは朱莉の方である。朱莉は蓮に離乳食を食べさせながら隣に座る修也の事が気になって仕方が無かった。

(一体・・・この人は誰なのかしら・・。多分、・・この間の式典で会った人よね・・?それにしても・・・翔先輩にそっくり・・!)

修也は披露宴の案内状を読んでいたが、朱莉の視線に気づいたのか顔をあげて微笑んだ。

「お子さんのお食事が済んでからお声を掛けさせて頂こうかと思っていたのですが・・・。」

不意に修也が朱莉に声を掛けてきた。

「副社長の・・奥様でいらっしゃいますよね?」

「は、はい。そ・そうです・・・・。」

修也はじっと朱莉の瞳を見つめると言った。

「初めまして、各務修也と申します。」

そしてニコリと微笑んだ。

「!」

朱莉は何故か分からないが頬が熱くなり、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた—。






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