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5-9 京極の好敵手現れる

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 鳴海グループ総合商社の記念式典から1週間が経過していた。

土曜日午前9時―

二階堂は自宅でオハイオ州にいる琢磨と電話をしていた。

「うん。九条・・・中々良い進捗状況じゃないか。流石だな。」

二階堂は送られてきたデータを眺めながら満足げに言う。

『いえ、これも他の社員達の力によるものですよ。俺一人ではここまでは無理でした。』

「フン・・・相変わらず謙遜だな。ところで今、そっちは何時なんだ?」

『19時ですよ。』

「そうか・・・悪いな。時間外労働させて。」

『仕方ないですよ。日本とこっちでは時差が14時間あるんですから。』

「まあ、それはそうだな。ところで・・・行って来たよ。式典に。」

『・・そうですか・・。』

「全く、あの時は驚いたよ。いきなり電話がかかった来たかと思えば、代わりに自分を式典に参加させてくれなんて・・。大体今迄働いていた会社の式典にノコノコ顔出すなんて・・・普通に考えれば居心地悪いんじゃないか?それにお前言ってたよな?鳴海とは絶縁したって・・・。」

『ええ・・そうですね。』

電話越しから琢磨の躊躇いがちな返事が聞こえた。

「そうまでして・・・朱莉さんに会いたかったのか?」

『え?二階堂社長・・・朱莉さんて・・・。』

「ああ、彼女に許可を貰ったのさ。朱莉さんて呼んでいいと。しかし・・本当に美人だったよな・・・。少し日本人離れした顔立ちだったし・・ひょっとすると外国の血が入っているかもしれないな?まあ・・・あれならお前が夢中になる気持ちも分からなくも無い。」

二階堂はPC画面から視線を逸らしながら言う。

『先輩・・・ひょっとして・・・。』

琢磨の声に警戒心が混ざる。

「お?急に何だ?呼び方が社長から先輩に変わったぞ?」

どこかおかしそうに二階堂は言う。

『・・ひょっとして・・・俺の事をからかっているんですか?』

「いや・・別にそういう訳でも無いが・・・しかし、お前にも見せてやりたかったよ。俺が朱莉さんと2人きりでバルコニーで話をしていたら・・・。」

『何ですって?朱莉さんと2人きりで?!』

琢磨が声を荒げた。

「おい、落ち着けって。人の話は最後まで聞け。」

『分かりました。・・どうぞ続けてください。』

「するとそこへ凄い剣幕で鳴海がやってきたんだよ。嫉妬にまみれた目で俺を睨み付けて・・・いきなり朱莉さんの肩を掴んで抱き寄せるんだからな。」

『何ですってっ?!』

「鳴海・・・朱莉さんに惚れ込んでるな。恐らく。」

『くっ・・!翔の奴・・・!』

「おい、九条・・。2人は夫婦なんだろう?お前のその態度の方が世間から見たらどうかしてると思われるぞ?」

『し、しかし・・っ!』

琢磨はそこで言葉を切った。

「・・・おい、もう正直に俺に話してしまえ。鳴海と朱莉さんの関係を・・・教えろよ。」

『・・・。』

「鳴海に話したぞ?お前が朱莉さんの事を好きだって事。」

『先輩っ!何でそんな余計な事をっ!』

琢磨の焦る声が響いた。

「まあ、落ち着けよ。でも別に驚いていなかったぞ?そんな事はとっくに気が付いていたみたいだ。」

『え・・?』

「何だよ、その意外そうな声は。お前・・もしかして気付かれていないとでも思っていたのか?バレバレなんだよ。俺だってすぐ分かった位なのに・・・。」

『そう・・・ですか・・・。』

「九条、もうこの際だ。正直に教えてくれ。鳴海と朱莉さんの関係を・・・。鳴海からは九条から話を聞かせて貰えと許可を貰ってるんだ。それに・・・正直に話してくれないと・・・・対処出来ない。」

『対処・・・?それはどういう意味ですか・・・・?』

「朱莉さんを守れないって事だ。」

『え?!そ、それはどういう意味ですか?!』

「京極正人を知ってるだろう?」

『!』

「あの男が・・・式典に現れたんだよ。俺と朱莉さんが話をしている時にね・・・。俺の事を物凄い目で睨み付けて来たな。・・可哀そうに・・朱莉さん・・あいつを見て震えていたよ。」

『くそっ!京極の奴め・・・。』

「多分あの男だろう。俺にお前と朱莉さんが一緒に写っていた写真と報告書を送り付けて来たのは。」

『え・・?!俺はてっきりどこかの記者かと・・・。』

「まさかっ!だったら金銭を要求してくると思わないか?あれにはそんな文言は何処にも書かれていなかったしな・・・。だいたい、あの男は俺の事を知っていた。恐らく調べていたんだろう。」

『そ、それって・・・。』

「ああ、恐らくあいつは邪魔なお前を何とかしたかったんだろう?」

二階堂は椅子に寄りかかると言った。

『クッ・・・!』

「まあ、でもいつまでもあの状況が続いていれば、いずれ他のゴシップ記者に目を付けられていたかもしれないが・・・。」

『先輩・・・。実は・・朱莉さんと鳴海は・・書類上だけの夫婦・・・なんです。』

「どういう事だ?本当の夫婦じゃないって・・・?」

『2人は契約結婚の仲なんです。ちょっとある事情から・・それ以上は言えませんが。』

「ふ~ん・・だからお前は朱莉さんに惚れたのか。」

『!・・・否定はしませんよ・・・。』

「しかし、京極の行動を見れば納得がいくか・・。恐らくあの男・・2人が契約婚だと言う事を知ってるに違いない。だから朱莉さんにあそこ迄執着しているんだろう。お前を追い払うぐらいにな・・・。だが・・・やられっぱなしも面白くない。」

『え?』

「1つ・・・あいつの挑発に乗ってやろうかと思う。大事な後輩を脅迫するような奴を見逃す事は出来ないって事さ。大体俺は美人の味方なんだ。あんな綺麗な朱莉さんを怯えさせるような奴を放置できないって事さ。」

『先輩・・・。』

「という訳で、これからは朱莉さんともっと親しくなっておかないとならないな。餌を蒔かなければ魚は釣れないっていうし。」

二階堂は嬉しそうに言う。

『朱莉さんに・・手出ししたら許しませんからね・・・?』

「ふ~ん・・・オハイオ州にいるお前に何か出来るとは思えないけどな?」

『!な、なら明日の便で帰国したって・・・!』

「ば~か。冗談だよ。冗談。ほんとに昔からお前はからかい甲斐がある奴だよ。」

二階堂は笑いながら言う。

「それじゃ、そろそろ電話切るからな。また定期的に進捗状況を知らせてくれ。」

『先輩も・・・知らせて下さいよ。』

「会社の事か?それとも・・京極の事か?」

『そ、そんなの決まっているじゃないですかっ!両方ですよっ!』

「ハハハ・・・分かったよ、それじゃあな。」

そして二階堂は電話を切った。

「・・・。」

電話を切った後、暫く二階堂は考え込んでいたが、やがてPCに向かうとキーを叩き始めた。

そして小さく呟く。

「京極正人・・・喧嘩を売った相手が悪かったな・・・。俺の大事な後輩に手を出した事・・・必ず後悔させてやる。俺はあの2人の様には甘くは無いぞ。何より・・・俺は女性の味方だからな。」

二階堂のPCには京極正人の画像が表示されていた—。



 その頃、京極は姫宮と自室にいた。

「え?今・・・何て言ったの?」

姫宮は驚いた様に京極を見た。

「ああ・・鳴海翔だが・・明日香が去ってから悪い方向へ向かっている。どうも朱莉さんに本気で思いを寄せている。このままではまずいだろう?」

「まあ・・それは確かに・・・。本気で朱莉さんと家族になろうと考えているし・・。でも救いなのは・・・今の所朱莉さんにはその気が無いって事だけど。」

「だが、この先はどうなるか分からない。だから鳴海翔を罠にかけるのさ。」

「だけど・・・うまくいくかしら・・?」

「だからこそ、入念に準備をするのさ。じっくり時間をかけて・・・焦る必要は無い。」

「でもあまり調子に乗っていると・・今に足元をすくわれるかもしれないわ。」

「心配するな、大丈夫だ。これまでだって・・完璧に計画は成功しているんだから。」

そんな京極の横顔を姫宮は黙って見つめていた—。
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