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9-11 2人で買物
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「え~と・・・次に必要なのは・・あ、ベビーバスがいるんだ。」
朱莉は買い物メモを見ながら品物をチェックしている。そして航は大きなカートを押しながら朱莉の後を黙ってついて来ていた。
(くっそ~やっぱり付いて来るんじゃなかった・・・!)
今、航は激しく後悔していた。何故ならこのベビー用品売り場で航は完全に目立ちまくっていたからだ。航は22歳で髪を茶髪に染めた今どきの若者。しかも平日にも関わらずTシャツ姿にジーンズ、そしてスニーカーといういで立ちである。目立つのは当然だろう。おまけに航は成人男性ながら、時々高校生にも間違われることがある程の童顔。その為につい、朱莉も航を子供扱いしてしまうのである。
女性店員たちが何やらひそひそと航を見ながら囁き合っている。
(あの店員達・・・完全に俺が赤ん坊の父親になると思ってるな・・・・?)
イライラしながら横目で女性店員をジロリと睨み付けると、2人の女性店員は慌てたようにパッと航から視線を逸らす。
「航君、御免ね。次は向こうの売り場に行ってくれる?」
朱莉は振り返ると申し訳なさそうに航に言う。
「ああ、いいぜ。次は何買うんだ?」
朱莉の前でイラつく顔は出来ないと思い、航は無理矢理顔に笑顔を張りつかせると、朱莉の後を素直について行く。
あらかた店内を見渡した朱莉は買い物リストをチェックしている。
「え~と・・・ベビーバスに、ベビーカーに、チャイルドシート・・・ベビー枕に防水シーツに哺乳瓶と消毒ケースと消毒薬・・・粉ミルクはアレルギーとか、賞味期限があるから、まだ買えないし・・・。」
朱莉はブツブツ言いながら買い物メモを見つめているが・・・その横顔はとても嬉しそうだった。
「朱莉。」
航はそんな朱莉に声を掛けた。
「何?」
「いや・・・随分楽しそうに買い物してるなって思って・・・。」
航は突然照れ臭くなり、視線を逸らせながら朱莉に話しかける。
「勿論、とっても楽しいよ。だって赤ちゃんのお迎え準備の買い物なんだもの・・。フフ・・きっと小さくて可愛いんだろうな・・・。」
朱莉は頬を染めて嬉しそうに言う。そんな朱莉を見下ろしながら航は思った。
(だけど朱莉・・・。その子供はお前の子供じゃないんだぞ?そして・・・幾ら可愛がっても3年で子供と別れて・・子供はお前の事なんかすぐに忘れてしまうんだぞ?そんなんで・・・お前は幸せなのかよ・・・っ!)
子供と別れる時の朱莉の心境を思うと、航は胸が苦しくなった。
「どうしたの・・・・?航君。あ、もしかして疲れちゃった?」
朱莉が心配そうに航の顔を下から覗き込んできた。
「い、いや。別にそういう訳じゃ・・・。」
航は言いかけたが、朱莉は頭を下げて来た。
「ごめんね。航君。」
「え?何で・・・謝るんだよ?」
「だって仕事で疲れてるのに・・・夜からまた仕事なのに、私の買い物に付き合わせちゃって・・。すぐに帰ろう?それで・・・少し部屋で休んだ方がいいよ。今は17時半だから急いで帰れば18時には家に着くし・・・1時間位はゆっくり出来るでしょう?」
「朱莉、別に俺は・・・。」
朱莉は最後まで聞かずに言った。
「航君はエレベーターの前の椅子で待ってて。お会計してくるから。」
そう言うと朱莉は航の手に触れた。
「うわああっ?!あ、朱莉っ!何するんだよっ?!」
思わず店の中だという事も忘れて航は大声を上げてしまった。
「何って・・・カートを受け取ろうと思ったんだけど・・?あ、ごめんね。航君に勝手に触ったりして。」
朱莉はパッと航から手を離すと言った。
「な・な・何だよ・・・それなら口で言えよな。」
航はドキドキしながら朱莉に言う。
「あ・・・そうだったね、ごめんね。それじゃ、航君。カートを貸してくれる?」
「あ、ああ・・・。そ、それじゃ向こうで待ってる・・・。」
航は俯きながら答えると、ふらふらとエレベーター乗り場へと向かった。
そして歩きながら思った。
(な、何だよ・・・っ!手を触れられたぐらいで・・・あんな騒いで・・。まるで中学生みたいじゃないか・・・っ!)
航は手の甲で口元を押さえながら顔を赤らめるのだった—。
帰りの車の中―
「ねえ、航君。」
「うん、何だ?」
「いいの・・・?運転して貰ってるけど・・?」
「ああ、気にするなよ。俺は運転好きだからな。」
「ふ~ん・・・。それじゃドライブもするんだ?」
「ああ、そうだな。」
「やっぱり男の人ってみんな・・ドライブが好きなんだね。」
朱莉のポツリと言った一言が何故か航は気になった。
「なあ、朱莉。その男の人の中には・・・九条も含まれてるのか?」
苛立ちを押さえているつもりだが、つい強い口調になってしまう。
「九条さん・・・?うん・・多分好きかなあ・・・・。」
「な、何っ?!朱莉・・・お前、九条が好きなのかっ?!」
思わず握るハンドルに力を込めながら航は横目で朱莉を見る。
「え?だって今航君が聞いたんでしょ?九条さんは運転は好きなのかって・・。」
朱莉は不思議そうに首を傾げる。
「あ、ああ・・・なんだ・・・そっちか・・。そうか、九条の奴も運転が好きなのか。」
つい、敵意が籠った口調になってしまう。
「航君・・・。やっぱり疲れてるんでしょう?」
朱莉は心配そうに声を掛ける。
「何でそう思うんだよ。」
「だって・・・何だかイライラしているように見えるから・・・。ごめんね。買い物・・付き合わせて・・。」
「だ、だから・・謝るなって!第一俺から買い物に付き合おうかって声を掛けたんだから、謝るなって。」
航は言いながら思った。
(全く・・・朱莉と一緒だと自分のペースが乱される・・・。)
しかし、何故か朱莉の近くは居心地がいいと感じる航であった。
午後6時―
買って来た荷物は物凄い量になった。それを見て航は言う。
「なあ、朱莉・・・。こんなに大量に買い物して・・何処においておくつもりなんだよ。ベビーダンス迄あるじゃないか。」
すると朱莉は言った。
「大丈夫だよ航君。このリビングにはね、約3畳の広さのウォークインクローゼットがあるんだから。」
言いながら朱莉がリビングの扉を開けると、そこから3畳もの広さを持つ収納部屋が現れた。
「ははは・・やっぱり・・すげーな・・・。」
乾いた笑いをしながら航は思った。
(朱莉の為にこんな立派なマンションを借りる九条といい・・・このマンションの家賃を躊躇うことなく簡単に支払える鳴海といい・・・自分とは住む世界が全く違うんだって事を改めて思い知らされるな・・・。)
そして思わず俯いた航を見て朱莉は声を掛けた。
「航君・・・どうしたの?疲れたんでしょう?リビングのソファで休んだら?19時になったら起こすから。」
「ああ・・そうだな。そうさせて貰うよ。」
航は別に疲れている訳では無かったが、朱莉がそこまで自分の事を心配してくれているのだから、その言葉に甘んじようと思った。
そして航はソファに横になると・・・本当に眠ってしまったのだった—。
部屋の中で美味しそうないい匂いが漂っている・・・。
「航君、航君。起きて・・・時間だよ・・?」
ボンヤリ目を開けると、そこには自分の事を見つめている朱莉の顔がそこにあった。
「あ・・かり・・?」
「うん。ねえ、航君。もう7時になったけど・・・これから仕事があるんだよね?」
「し・・ごと・・?」
航の頭の中はまだ半分寝惚けている。
「航君・・そろそろ起きないと・・・。」
朱莉が航を起こそうと、航の身体に触れた時・・・。
気付けば航は朱莉を強く抱きしめていた—。
朱莉は買い物メモを見ながら品物をチェックしている。そして航は大きなカートを押しながら朱莉の後を黙ってついて来ていた。
(くっそ~やっぱり付いて来るんじゃなかった・・・!)
今、航は激しく後悔していた。何故ならこのベビー用品売り場で航は完全に目立ちまくっていたからだ。航は22歳で髪を茶髪に染めた今どきの若者。しかも平日にも関わらずTシャツ姿にジーンズ、そしてスニーカーといういで立ちである。目立つのは当然だろう。おまけに航は成人男性ながら、時々高校生にも間違われることがある程の童顔。その為につい、朱莉も航を子供扱いしてしまうのである。
女性店員たちが何やらひそひそと航を見ながら囁き合っている。
(あの店員達・・・完全に俺が赤ん坊の父親になると思ってるな・・・・?)
イライラしながら横目で女性店員をジロリと睨み付けると、2人の女性店員は慌てたようにパッと航から視線を逸らす。
「航君、御免ね。次は向こうの売り場に行ってくれる?」
朱莉は振り返ると申し訳なさそうに航に言う。
「ああ、いいぜ。次は何買うんだ?」
朱莉の前でイラつく顔は出来ないと思い、航は無理矢理顔に笑顔を張りつかせると、朱莉の後を素直について行く。
あらかた店内を見渡した朱莉は買い物リストをチェックしている。
「え~と・・・ベビーバスに、ベビーカーに、チャイルドシート・・・ベビー枕に防水シーツに哺乳瓶と消毒ケースと消毒薬・・・粉ミルクはアレルギーとか、賞味期限があるから、まだ買えないし・・・。」
朱莉はブツブツ言いながら買い物メモを見つめているが・・・その横顔はとても嬉しそうだった。
「朱莉。」
航はそんな朱莉に声を掛けた。
「何?」
「いや・・・随分楽しそうに買い物してるなって思って・・・。」
航は突然照れ臭くなり、視線を逸らせながら朱莉に話しかける。
「勿論、とっても楽しいよ。だって赤ちゃんのお迎え準備の買い物なんだもの・・。フフ・・きっと小さくて可愛いんだろうな・・・。」
朱莉は頬を染めて嬉しそうに言う。そんな朱莉を見下ろしながら航は思った。
(だけど朱莉・・・。その子供はお前の子供じゃないんだぞ?そして・・・幾ら可愛がっても3年で子供と別れて・・子供はお前の事なんかすぐに忘れてしまうんだぞ?そんなんで・・・お前は幸せなのかよ・・・っ!)
子供と別れる時の朱莉の心境を思うと、航は胸が苦しくなった。
「どうしたの・・・・?航君。あ、もしかして疲れちゃった?」
朱莉が心配そうに航の顔を下から覗き込んできた。
「い、いや。別にそういう訳じゃ・・・。」
航は言いかけたが、朱莉は頭を下げて来た。
「ごめんね。航君。」
「え?何で・・・謝るんだよ?」
「だって仕事で疲れてるのに・・・夜からまた仕事なのに、私の買い物に付き合わせちゃって・・。すぐに帰ろう?それで・・・少し部屋で休んだ方がいいよ。今は17時半だから急いで帰れば18時には家に着くし・・・1時間位はゆっくり出来るでしょう?」
「朱莉、別に俺は・・・。」
朱莉は最後まで聞かずに言った。
「航君はエレベーターの前の椅子で待ってて。お会計してくるから。」
そう言うと朱莉は航の手に触れた。
「うわああっ?!あ、朱莉っ!何するんだよっ?!」
思わず店の中だという事も忘れて航は大声を上げてしまった。
「何って・・・カートを受け取ろうと思ったんだけど・・?あ、ごめんね。航君に勝手に触ったりして。」
朱莉はパッと航から手を離すと言った。
「な・な・何だよ・・・それなら口で言えよな。」
航はドキドキしながら朱莉に言う。
「あ・・・そうだったね、ごめんね。それじゃ、航君。カートを貸してくれる?」
「あ、ああ・・・。そ、それじゃ向こうで待ってる・・・。」
航は俯きながら答えると、ふらふらとエレベーター乗り場へと向かった。
そして歩きながら思った。
(な、何だよ・・・っ!手を触れられたぐらいで・・・あんな騒いで・・。まるで中学生みたいじゃないか・・・っ!)
航は手の甲で口元を押さえながら顔を赤らめるのだった—。
帰りの車の中―
「ねえ、航君。」
「うん、何だ?」
「いいの・・・?運転して貰ってるけど・・?」
「ああ、気にするなよ。俺は運転好きだからな。」
「ふ~ん・・・。それじゃドライブもするんだ?」
「ああ、そうだな。」
「やっぱり男の人ってみんな・・ドライブが好きなんだね。」
朱莉のポツリと言った一言が何故か航は気になった。
「なあ、朱莉。その男の人の中には・・・九条も含まれてるのか?」
苛立ちを押さえているつもりだが、つい強い口調になってしまう。
「九条さん・・・?うん・・多分好きかなあ・・・・。」
「な、何っ?!朱莉・・・お前、九条が好きなのかっ?!」
思わず握るハンドルに力を込めながら航は横目で朱莉を見る。
「え?だって今航君が聞いたんでしょ?九条さんは運転は好きなのかって・・。」
朱莉は不思議そうに首を傾げる。
「あ、ああ・・・なんだ・・・そっちか・・。そうか、九条の奴も運転が好きなのか。」
つい、敵意が籠った口調になってしまう。
「航君・・・。やっぱり疲れてるんでしょう?」
朱莉は心配そうに声を掛ける。
「何でそう思うんだよ。」
「だって・・・何だかイライラしているように見えるから・・・。ごめんね。買い物・・付き合わせて・・。」
「だ、だから・・謝るなって!第一俺から買い物に付き合おうかって声を掛けたんだから、謝るなって。」
航は言いながら思った。
(全く・・・朱莉と一緒だと自分のペースが乱される・・・。)
しかし、何故か朱莉の近くは居心地がいいと感じる航であった。
午後6時―
買って来た荷物は物凄い量になった。それを見て航は言う。
「なあ、朱莉・・・。こんなに大量に買い物して・・何処においておくつもりなんだよ。ベビーダンス迄あるじゃないか。」
すると朱莉は言った。
「大丈夫だよ航君。このリビングにはね、約3畳の広さのウォークインクローゼットがあるんだから。」
言いながら朱莉がリビングの扉を開けると、そこから3畳もの広さを持つ収納部屋が現れた。
「ははは・・やっぱり・・すげーな・・・。」
乾いた笑いをしながら航は思った。
(朱莉の為にこんな立派なマンションを借りる九条といい・・・このマンションの家賃を躊躇うことなく簡単に支払える鳴海といい・・・自分とは住む世界が全く違うんだって事を改めて思い知らされるな・・・。)
そして思わず俯いた航を見て朱莉は声を掛けた。
「航君・・・どうしたの?疲れたんでしょう?リビングのソファで休んだら?19時になったら起こすから。」
「ああ・・そうだな。そうさせて貰うよ。」
航は別に疲れている訳では無かったが、朱莉がそこまで自分の事を心配してくれているのだから、その言葉に甘んじようと思った。
そして航はソファに横になると・・・本当に眠ってしまったのだった—。
部屋の中で美味しそうないい匂いが漂っている・・・。
「航君、航君。起きて・・・時間だよ・・?」
ボンヤリ目を開けると、そこには自分の事を見つめている朱莉の顔がそこにあった。
「あ・・かり・・?」
「うん。ねえ、航君。もう7時になったけど・・・これから仕事があるんだよね?」
「し・・ごと・・?」
航の頭の中はまだ半分寝惚けている。
「航君・・そろそろ起きないと・・・。」
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