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6-23 シドの説得
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「シ、シド? 一体何を……?」
突然抱きしめられたことでジェニファーは動揺した。
「……で下さい……」
ジェニファーの髪に顔をうずめるシドの口から、くぐもった言葉が紡がれる。
「え? 何て言ったの……?」
「泣かないで下さい……」
今度は、はっきりとジェニファーの耳に届いた。
「シド……」
するとシドはジェニファーの身体を離し、両肩に手を置いた。
「ジェニファー様。俺は……」
そこで一度シドは言葉を切る。本当はこの場で、ジェニファーに自分の気持ちを告げたかった。
幼少期からニコラスの専属騎士になる為、厳しい訓練を受けてきたシドは感情さえ殺すように指導されてきたのだ。
誰かに心許すことなく、与えられた任務だけをこなしてきたシドは周囲から「冷血騎士」と呼ばれていた。
(自分にとって特別な存在など出来るはずない……そう思っていたのに……だが、ジェニファー様はニコラス様の……)
「どうしたの? シド」
まだ涙を浮かべているジェニファーの涙をシドは持っていたハンカチで、そっと拭った。
「そんな風に、1人で泣かないで下さい。俺はニコラス様の護衛騎士ですが、ジェニファー様の味方ですから」
「シド……」
「辛い事や悩み事があるなら、ポリーや俺をいつでも頼って下さい」
自分の恋心を押し殺し、ジェニファーを見つめる。
「心配してくれてありがとうシド。でも私なら本当に大丈夫だから」
「何が大丈夫なのですか。俺では頼りになりませんか? ジェニファー様の力になりたいのです」
「で、でも……」
尚も食い下がってくるシドにジェニファーは戸惑う。
(どうしてシドはここまで私に構おうとするのかしら? でもそこまで言うなら……)
「それなら、私のお願いを聞いて貰えるかしら?」
「はい、何でしょう」
「ジョナサンに会いたいの。私からはニコラスに頼みにくくて……シドから話してもらえないかしら?」
「分かりました。今すぐニコラス様に話をしてきます。絶対にジョナサン様に会わせてさしあげます」
シドは大きく頷いた――
****
その頃、ニコラスは自室でジョナサン相手に手を焼いていた。
「ウワアアアアンッ!! マァマッ! マァマァ~ッ!!」
「ジョナサン、ママには会えないんだ。その代わり、パパがいるだろう?」
ニコラスは必死にあやすも、ジョナサンは一向に泣き止まない。
「パパ、ヤッ! マァマ~ッ! アァァアアーンッ! マァマ~ッ!」
身体をのけぞらせ、身をよじって泣き叫ぶジョナサン。
「ジョナサン、頼むから泣き止んでくれ。もうジェニファーを頼るわけにはいかないんだよ」
本心を言えば、ずっとテイラー侯爵家に残って欲しい。ジョナサンの母親として、そして自分の妻として。
けれど、自分にはそれを告げる資格はない。
(そうだ……俺は散々ジェニファーを利用し、傷つけてしまった。もう彼女を解放してあげなければならないんだ……)
その時。
「ニコラス様! 失礼します!」
不意に扉が開かれ、シドが現れた。
「何だ? 見ての通り、今俺はジョナサンの世話で忙しい。話は後にしてくれないか?」
激しく泣くジョナサンをあやしながら、ニコラスは眉を顰める。
「ジョナサン様のことで、手を焼かれているのでしょう? もうニコラス様では無理です。ジェニファー様に託して下さい! ジョナサン様とジェニファー様は互いに必要な存在なのです!」
シドはきっぱり言い切った――
突然抱きしめられたことでジェニファーは動揺した。
「……で下さい……」
ジェニファーの髪に顔をうずめるシドの口から、くぐもった言葉が紡がれる。
「え? 何て言ったの……?」
「泣かないで下さい……」
今度は、はっきりとジェニファーの耳に届いた。
「シド……」
するとシドはジェニファーの身体を離し、両肩に手を置いた。
「ジェニファー様。俺は……」
そこで一度シドは言葉を切る。本当はこの場で、ジェニファーに自分の気持ちを告げたかった。
幼少期からニコラスの専属騎士になる為、厳しい訓練を受けてきたシドは感情さえ殺すように指導されてきたのだ。
誰かに心許すことなく、与えられた任務だけをこなしてきたシドは周囲から「冷血騎士」と呼ばれていた。
(自分にとって特別な存在など出来るはずない……そう思っていたのに……だが、ジェニファー様はニコラス様の……)
「どうしたの? シド」
まだ涙を浮かべているジェニファーの涙をシドは持っていたハンカチで、そっと拭った。
「そんな風に、1人で泣かないで下さい。俺はニコラス様の護衛騎士ですが、ジェニファー様の味方ですから」
「シド……」
「辛い事や悩み事があるなら、ポリーや俺をいつでも頼って下さい」
自分の恋心を押し殺し、ジェニファーを見つめる。
「心配してくれてありがとうシド。でも私なら本当に大丈夫だから」
「何が大丈夫なのですか。俺では頼りになりませんか? ジェニファー様の力になりたいのです」
「で、でも……」
尚も食い下がってくるシドにジェニファーは戸惑う。
(どうしてシドはここまで私に構おうとするのかしら? でもそこまで言うなら……)
「それなら、私のお願いを聞いて貰えるかしら?」
「はい、何でしょう」
「ジョナサンに会いたいの。私からはニコラスに頼みにくくて……シドから話してもらえないかしら?」
「分かりました。今すぐニコラス様に話をしてきます。絶対にジョナサン様に会わせてさしあげます」
シドは大きく頷いた――
****
その頃、ニコラスは自室でジョナサン相手に手を焼いていた。
「ウワアアアアンッ!! マァマッ! マァマァ~ッ!!」
「ジョナサン、ママには会えないんだ。その代わり、パパがいるだろう?」
ニコラスは必死にあやすも、ジョナサンは一向に泣き止まない。
「パパ、ヤッ! マァマ~ッ! アァァアアーンッ! マァマ~ッ!」
身体をのけぞらせ、身をよじって泣き叫ぶジョナサン。
「ジョナサン、頼むから泣き止んでくれ。もうジェニファーを頼るわけにはいかないんだよ」
本心を言えば、ずっとテイラー侯爵家に残って欲しい。ジョナサンの母親として、そして自分の妻として。
けれど、自分にはそれを告げる資格はない。
(そうだ……俺は散々ジェニファーを利用し、傷つけてしまった。もう彼女を解放してあげなければならないんだ……)
その時。
「ニコラス様! 失礼します!」
不意に扉が開かれ、シドが現れた。
「何だ? 見ての通り、今俺はジョナサンの世話で忙しい。話は後にしてくれないか?」
激しく泣くジョナサンをあやしながら、ニコラスは眉を顰める。
「ジョナサン様のことで、手を焼かれているのでしょう? もうニコラス様では無理です。ジェニファー様に託して下さい! ジョナサン様とジェニファー様は互いに必要な存在なのです!」
シドはきっぱり言い切った――
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