上 下
182 / 198

6-21 届かぬ想い

しおりを挟む
「あ、あの……解放って……?」

尋ねるジェニファーの声が震える。

「言葉通りだ。君と離婚をすると言う事だ。だが、今すぐ離婚するわけにはいかない。戸籍の問題があるからな……書類の提出は1年後にはなるが、ここを出てくのはいつでも自由だ。ジェニファーの意思を尊重するよ」

「そう……なのですね……」

(つまり、私に出て行って欲しいと言うことなのだわ……)

自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。しかし、オレンジ色の燭台に揺れる光の下では顔色が悪いことにニコラスが気付くはずも無い。
そして、ジェニファーの心をえぐるようなニコラスの言葉は続く。

「すぐここを出るのは体調のこともあるから難しいだろう。だから今は自分の身体のことだけを考えて、よく休んでくれ。ジョナサンの世話も大丈夫だ。いずれにしろ、君はここを出て行くわけだからジョナサンにもジェニファーがいない生活に、慣れさせなければいけないしな」

「慣れさせる……? ジョナサン様は、私を恋しがっているということですか?」

尋ねる声が震える。

「確かに、それはあるが……でも大丈夫だ。ジョナサンはまだ1歳だ。今はジェニファーのことを恋しがっているが、いずれ忘れるときがくる。だからそんなに気にすることは無い」

「そ、そうなのです……ね……?」

もうこれ以上ニコラスの話を聞いているのは限界だった。目頭が熱くなり、今にも涙がこぼれ落ちそうになるのをジェニファーは必死で耐えた。

「ああ、ジョナサンのことは気にしないでくれ。それよりも今はジェニファーの今後のことを考えよう。ここを出た後だが、叔母の住む家には戻りたくはないだろう? だから色々な形で生活に困らないだけの支援は出来るだけしていくつもりだ」

今迄の自分の行動を悔い改めたニコラスは、ジェニファーに笑顔で語る。だがそれは返って逆効果だった。

(あんなに笑顔で話すなんて……それほど、私に出て行って貰いたいということなのね……)

「はい……ありがとうございます。今後の生活のことまで考えて下さって、ありがとうございます」

弱々しく返事をするジェニファー。

「そんなのは当然のことさ。何しろジェニーの遺言を守る為に俺は君の自由を奪い、戸籍迄汚すようなことをしてしまったんだ。だから一生、生活に困らないように金銭の保証をすることを誓おう」

「いいえ、金銭の保証などして頂かなくて大丈夫です。私がここへ来たのは自分の意思ですから」

自分がニコラスの元へ来たのは、子供の頃の初恋が忘れられなかったから。
ニコラスの再婚相手として、自分が望まれているからだと思ったからだ。

ジェニファーの望みは、今後もずっとここに置いてもらうこと。
ジョナサンの母親として、そしていつかニコラスに妻として認めてもらうことなのだ。
けれどとてもでは無いが、今のジェニファーには自分の本心を告げることなど出来なかった。

「そんなことは言わないでくれ。俺からのお詫びの気持ちとして、どうか支援は受け取って欲しい。この通りだ」

ニコラスは頭を下げた。

「そ、そんなニコラス様。どうか、顔を上げて下さい。ではそこまでおっしゃるのであれば……援助を受けたいと思います」

「本当か? ありがと」

「こちらこそお気遣い、ありがとうございます」

泣きたい気持ちを必死に押し殺し、ジェニファーは精一杯の笑みを浮かべた――
しおりを挟む
感想 463

あなたにおすすめの小説

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

不愛想な伯爵令嬢は婚約破棄を申し出る

hana
恋愛
不愛想な伯爵令嬢ロゼに縁談が持ち込まれる。 相手は同じ爵位のナイトという青年で、ロゼは彼の婚約者になることを決意する。 しかし彼の幼馴染であるカラフルという女性が現われて……

【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。

❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、済まない。カノンが……。」 「大丈夫ですの? カノン様は。」 「本当に済まない。、ルミナス。」 ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものように済まなそうな顔をして彼女に謝った。 「お兄様、ゴホッゴホッ。ルミナス様、ゴホッ。さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」 カノンは血を吐いた。

みんながまるくおさまった

しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。 婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。 姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。 それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。 もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。 カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

処理中です...