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6-15 ニコラスとジェニファーの願い
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「昔のように……って……?」
ジェニファーの大きな緑の瞳が見開かれた。その瞳を見た時、ニコラスの過去の記憶が僅かに蘇る。
「あぁ……そうだった。あの時俺は君の目を見た時、宝石のように綺麗な瞳だと思ったんだった……」
「まさか……記憶が……?」
「全て戻ったわけじゃないが、ジェニーからの手紙を読んだ」
「え……? でも……あれはジェニーが私に宛てたもので……」
ジェニファーの様子に、ニコラスは慌てて弁明する。
「い、いや。待ってくれ。ジェニファーが持ち帰った手紙の中に、ジェニーが俺宛てに書いた手紙があったんだ。そこに全て書いてあった。ジェニファー、君があの時のジェニーだったのだろう?」
「ニコラス……様……」
ジェニファーはニコラスの話を信じられない思いで聞いていた。こんなに穏やかな口調で自分に話しかけてくるニコラスは再会して初めてのことだった。
ジェニファーは自分があの時の少女だったと告げる気は一切無かった。
子供の頃、一緒に過ごした美しい思い出はジェニーに全てあげようと思っていたのだ。
(もう知られているのなら……今更隠してもしようが無いわね……)
そこで正直に言うことにした。
「そう……です。私が……あのときのジェニーです……」
「!」
ニコラスは小さく息を吐くと、静かに尋ねた。
「どうして、黙っていたんだ? いや……違うな。俺がジェニファーに真実を告げる機会を与えなかったからだろう? 今更謝って済む問題では無いが……俺は最低な男だった。本当に申し訳ない」
そして頭を下げた。
「いいえ……謝らないで……ください。元はと言えば……出会った時にジェニーの名前を名乗ったのは私なのですから……それにテイラー侯爵家へ来た時から……本当のことを告げるつもりは……無かったので……」
「何故だ? どうして黙っていようと思ったんだ?」
そこがニコラスは知りたくてたまらなかった。
「それは……2人の結婚生活の思い出を……壊したくなかったことと……ニコラス様には過去の私では無く……今のジェニファーとしての私を……見てもらいたかったからです……」
その言葉にニコラスは息を飲んだ。
(そうだったのか。だからジェニファーは本当のことを言わなかったのか。なのに俺は伯爵からの話を鵜呑みにし、ジェニーがうわ言で謝る姿を見て勝手に思い込みをしてしまっていたのだ。先入観でジェニファーを見ていたばかりに、こんなことに……)
「……本当に、すまなかった……」
自分のような男はジェニファーの傍にいる資格はないのかもしれない。
それでも欲を言えば……記憶の中に眠、子供の頃のような親しい関係に戻りたかった。
「ジェニファー。もう……昔のような態度で、俺に接するのは無理か? ニコラス様ではなく、ニコラスと呼んではくれないのか?」
身勝手なのは分っていたが、未だに「ニコラス様」と呼ばれることがどうしよも無く寂しかったのだ。
「……命令だと仰るなら、そのようにしますけど……」
じっとニコラスを見つめるジェニファー。
「命令……か。い、いや。だったら、ジェニファーに任せる。無理強いはしたくないからな」
「分かりました」
小さく返事をするジェニファーを見て考えた。
(そうだ。今のジェニファーはとても弱っている。精神的負担をかけるのは良くない。いずれ体力が戻ってくれば……その時にまた話してみよう)
「そう言えば、確かお願いもあると言っていたよな? どんなお願いなんだ?」
「はい……お願いというのは……ジョナサン様のことです……先生に言われたのですが……当分育児は難しいので、申し訳ありませんが……どなたかにお願いできないでしょうか……?」
「何だ。そのことか。だったら俺が面倒を見る。ジョナサンは俺の子供だからな」
「え……? ですが、ニコラス様はお仕事がありますよね……?」
「そうだが、出来る限りジョナサンは俺が見る。どうしても難しい場合はメイドに任せるからジェニファーは余計な心配はせずに、自分の身体を治すことを考えるんだ」
「……ご親切にありがとうございます。ニコラス様。なるべく早く身体を治すようにいたしますね……あの……少し疲れたので、休ませて頂けますか……?」
弱々しく頼んでくるジェニファー。
「あ、ああ。気にしなくていい。今はゆっくり休んでくれ。長居をしてすまなかった。……そろそろ行くよ」
他人行儀と言うより、今も以前と変わらない態度のジェニファーにニコラスは、言いようも無い寂しさを感じていた。本当はジェニファーの様子が心配だったので、もう少し傍にいたかったのだが……。
(恐らく、今の状況では俺がいるとジェニファーは休めないのだろうな)
「早く良くなってくれ。ジェニファー。ジョナサンは連れて行くよ」
ニコラスはジェニファーの傍らで眠るジョナサンをそっと抱き上げた。
「はい……ありがとうございます。ジョナサン様を……どうぞよろしくお願いいたします」
ニコラスは笑みを浮かべて頷くと、ジョナサンを連れて部屋を出た——
ジェニファーの大きな緑の瞳が見開かれた。その瞳を見た時、ニコラスの過去の記憶が僅かに蘇る。
「あぁ……そうだった。あの時俺は君の目を見た時、宝石のように綺麗な瞳だと思ったんだった……」
「まさか……記憶が……?」
「全て戻ったわけじゃないが、ジェニーからの手紙を読んだ」
「え……? でも……あれはジェニーが私に宛てたもので……」
ジェニファーの様子に、ニコラスは慌てて弁明する。
「い、いや。待ってくれ。ジェニファーが持ち帰った手紙の中に、ジェニーが俺宛てに書いた手紙があったんだ。そこに全て書いてあった。ジェニファー、君があの時のジェニーだったのだろう?」
「ニコラス……様……」
ジェニファーはニコラスの話を信じられない思いで聞いていた。こんなに穏やかな口調で自分に話しかけてくるニコラスは再会して初めてのことだった。
ジェニファーは自分があの時の少女だったと告げる気は一切無かった。
子供の頃、一緒に過ごした美しい思い出はジェニーに全てあげようと思っていたのだ。
(もう知られているのなら……今更隠してもしようが無いわね……)
そこで正直に言うことにした。
「そう……です。私が……あのときのジェニーです……」
「!」
ニコラスは小さく息を吐くと、静かに尋ねた。
「どうして、黙っていたんだ? いや……違うな。俺がジェニファーに真実を告げる機会を与えなかったからだろう? 今更謝って済む問題では無いが……俺は最低な男だった。本当に申し訳ない」
そして頭を下げた。
「いいえ……謝らないで……ください。元はと言えば……出会った時にジェニーの名前を名乗ったのは私なのですから……それにテイラー侯爵家へ来た時から……本当のことを告げるつもりは……無かったので……」
「何故だ? どうして黙っていようと思ったんだ?」
そこがニコラスは知りたくてたまらなかった。
「それは……2人の結婚生活の思い出を……壊したくなかったことと……ニコラス様には過去の私では無く……今のジェニファーとしての私を……見てもらいたかったからです……」
その言葉にニコラスは息を飲んだ。
(そうだったのか。だからジェニファーは本当のことを言わなかったのか。なのに俺は伯爵からの話を鵜呑みにし、ジェニーがうわ言で謝る姿を見て勝手に思い込みをしてしまっていたのだ。先入観でジェニファーを見ていたばかりに、こんなことに……)
「……本当に、すまなかった……」
自分のような男はジェニファーの傍にいる資格はないのかもしれない。
それでも欲を言えば……記憶の中に眠、子供の頃のような親しい関係に戻りたかった。
「ジェニファー。もう……昔のような態度で、俺に接するのは無理か? ニコラス様ではなく、ニコラスと呼んではくれないのか?」
身勝手なのは分っていたが、未だに「ニコラス様」と呼ばれることがどうしよも無く寂しかったのだ。
「……命令だと仰るなら、そのようにしますけど……」
じっとニコラスを見つめるジェニファー。
「命令……か。い、いや。だったら、ジェニファーに任せる。無理強いはしたくないからな」
「分かりました」
小さく返事をするジェニファーを見て考えた。
(そうだ。今のジェニファーはとても弱っている。精神的負担をかけるのは良くない。いずれ体力が戻ってくれば……その時にまた話してみよう)
「そう言えば、確かお願いもあると言っていたよな? どんなお願いなんだ?」
「はい……お願いというのは……ジョナサン様のことです……先生に言われたのですが……当分育児は難しいので、申し訳ありませんが……どなたかにお願いできないでしょうか……?」
「何だ。そのことか。だったら俺が面倒を見る。ジョナサンは俺の子供だからな」
「え……? ですが、ニコラス様はお仕事がありますよね……?」
「そうだが、出来る限りジョナサンは俺が見る。どうしても難しい場合はメイドに任せるからジェニファーは余計な心配はせずに、自分の身体を治すことを考えるんだ」
「……ご親切にありがとうございます。ニコラス様。なるべく早く身体を治すようにいたしますね……あの……少し疲れたので、休ませて頂けますか……?」
弱々しく頼んでくるジェニファー。
「あ、ああ。気にしなくていい。今はゆっくり休んでくれ。長居をしてすまなかった。……そろそろ行くよ」
他人行儀と言うより、今も以前と変わらない態度のジェニファーにニコラスは、言いようも無い寂しさを感じていた。本当はジェニファーの様子が心配だったので、もう少し傍にいたかったのだが……。
(恐らく、今の状況では俺がいるとジェニファーは休めないのだろうな)
「早く良くなってくれ。ジェニファー。ジョナサンは連れて行くよ」
ニコラスはジェニファーの傍らで眠るジョナサンをそっと抱き上げた。
「はい……ありがとうございます。ジョナサン様を……どうぞよろしくお願いいたします」
ニコラスは笑みを浮かべて頷くと、ジョナサンを連れて部屋を出た——
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