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4−13 ジェニファーの目的地

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「はい、ジェニファー」

店を出ると、ダンは先ほど購入したばかりのブローチが入った小箱を手渡してきた。
箱は丁寧にリボンがかけてある。

「ありがとう、ダン。わざわざリボンまでかけなくても良かったのに。サーシャの分だけで良かったのよ?」

「そう言うなって。ジェニファーに正式にプレゼントするのは初めてなんだから。でも、今度プレゼントするときは……直接、指につけてやるよ」

「え? 何のこと?」

ダンは結婚指輪を匂わせる言葉を口にするが、ジェニファーには何のことなのかさっぱり意味が分からなった。
でもそれは無理も無いことだった。ジェニファーはニコラスから結婚指輪を貰ってもいないし、ましてやダンが自分を女性として愛していることなど思ってもいないからだ。

「まぁいいさ。別に今は、な」

ダンは苦笑する。

「そう? ダン。プレゼント大切にするわ。サーシャのプレゼントはダンが買ったのだから、あなたから渡してくれる?」

「分かった。俺から渡しておくよ」

「ありがとう。それじゃ、私行くわね」

ジェニファーは笑顔で手を振ると歩き出し……ダンは慌てて腕を掴んで引き留めた。

「え……? ちょ、ちょっと待ってくれジェニファー! 行くって、一体何処へ行くつもりなんだよ!?」

「え? だってダンはこれから仕入れの仕事があるのでしょう? 私はこの後も用事があるの。だからここで……」

「いや、行く! 俺も今日は一緒に行く! 仕入れの仕事は別に明日だって構わない。なぁ、ジェニファー。俺もいいよな?」

「ダン……?」

必死になって訴えてくるのに、断ることは出来ない。そこでジェニファーは頷いた。

「分かったわ、一緒に行きましょう? でも、あまり楽しくないと思うけどそれでもいいの?」

「ジェニファーと一緒に居られるのに、楽しくないはず無いだろう?」

「そう? おかしなダンね。それじゃ、一緒に行きましょう」

「ああ、一緒に行こう」

くすくす笑うジェニファーに、ダンは大きく頷いた――


*****


 ジェニファーとダンは澄み渡る青空の元、小高い丘を登っていた。

「へ~。ここは素晴らしい眺めだな。丘の上から町の様子が一望できるのか」

ダンは隣を歩くジェニファーに明るく声をかける。

「……」

しかしジェニファーはダンの声が聞こえていないのか返事をしない。口を閉じ、黙って丘の上を目指して歩いている。

ダンは先ほどからそんなジェニーの様子が気になっていた。

(一体、ジェニファーはどうしたっていうんだ? 丘の上が近づくにつれ、口数が減って来たし……)

そこでダンはジェニファーの言葉を思い出した。

『あまり楽しくないと思うけどそれでもいいの?』

(そうだ! ここへ向かう前、ジェニファーはそう言っていた。どうして、わざわざ楽しくない場所へ向かっているんだ?)

けれど、とてもではないが今のジェニファーに尋ねることは躊躇われた。それほど思いつめた表情をしていたのだ。

(まぁいい。目的地に着いてからジェニファーに尋ねよう)

ダンは黙ってジェニファーと丘の上を目指して歩き続けた。


そして、ジェニファーがやってきたのは……。

「ジェニファー、この場所は何だ?」

ダンは丘の上にそびえ立つ屋敷を見上げ、隣に立つジェニファーに尋ねた。

「あの屋敷はね……ジェニーとフォルクマン伯爵が住んでいた屋敷だったの」

その声は……とても悲し気だった――

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