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4−10 記憶に残る店
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――パタン
扉が閉じられると、早速シドはニコラスに訴えた。
「ニコラス様、本気でジェニファー様を1人で出掛けさせてよろしいのですか?」
「本人が1人で行きたいと言うのだから仕方ないだろう?」
「ですが、万一のことがあったらどうなさるのですか?」
「別に危険な事は無いだろう? 『ボニート』は比較的治安が良い場所じゃないか」
「それでもです! 若い女性を1人で歩かせるのは危険だと思わないのですか? 仮にもジェニファー様はニコラス様の妻なのですよね?」
少しも引こうとしないシドを前に、ニコラスはため息をついた。
「分かった……そこまで言うなら、シド。ジェニファーの護衛を頼む。ただし、彼女に気付かれないようにな」
「はい、お任せください」
シドは満足げに頷いた――
****
外出の許可を貰ったジェニファーは部屋に戻ると、早速出掛ける準備を始めた。
「ジェニファー様、ジョナサン様のお世話ならどうぞ私にお任せ下さい」
メイドのココが笑顔でジョナサンを抱いている。
「あ! 私だって、ちゃんとお世話できますから!」
ポリーが負けじと訴える。
「あーら? この間、泣いているジョナサン様に困り果ててジェニファー様に助けを求めに行ったのはどこの誰かしら?」
「あ、あれはたまたまです! その後は泣かれていませんから!」
ココとポリーが対立しそうになるのをジェニファーが宥めた。
「落ち着いてちょうだい。私は、2人のことを信頼しているわ。だから、どうかジョナサンをお願いね。なるべく早く帰って来るようにはするから」
「大丈夫ですよ、ジョナサン様のことでしたら私たちが2人でしっかりお世話いたしますので、どうぞジェニファー様は時間を気にせずにごゆっくりお出かけください」
ポリーの言葉にジェニファーは嬉しそうに笑う。
「本当? そう言って貰えると助かるわ。でも、なるべく早く帰って来るようにはするから。それじゃ行ってくるわ。ジョナサン、愛しているわ」
頬にキスすると、ジョナサンは「キャッキャッ」と嬉しそうに笑う。
ジェニファーは無邪気に笑うジョナサンの頭をそっと撫でると、3人に見送らて部屋を後にした――
****
ジェニファーが城の門を出ると、庭木の影からシドが姿を現した。
「ジェニファー様……後をつけるような真似をして申し訳ございません」
シドは小さな声で謝罪すると、距離を空けてジェニファーの後を歩き始めた。見失わない程度に、尚且つ何かジェニファーの身に危険が及びそうになった時はすぐに駆け付けられるように。
この季節の『ボニート』は快晴に恵まれる。
本日も素晴らしい青空の下、ジェニファーは美しい町なみを歩いていた。
ジェニファーの目的地は、ここへ来た時からずっと行ってみようと考えていた場所だった。
けれどその前に……。
「観光地だけあって、本当にここは色々なお店が並んでいるわね。サーシャはどんな品物を贈れば喜んでくれるかしら」
ジェニファーは以前から旅費を出してくれたサーシャに何かお礼としてプレゼントを買って送りたいと思っていたのだ。
店を探して歩いている時、ふと何処か見覚えある店構えを見つけた。
「あら? この店、どこかで……あ!」
その店は赤レンガ造りの建物で、扉には少し古びた看板が掲げられている。
「『手作りアクセサリーの店』……? あ! この店は、あのときニコラスが連れて来てくれたお店だわ……」
この店では2度買い物をしている。1度目はウサギのブローチ、そして2度目は青い色の蝶のネックレス。
いずれの品物もニコラスが買ってくれた思い出の店。
「この店……懐かしいわ。まだ、あったなんて……あ、そうだわ。ここでサーシャへのプレゼントを買おうかしら」
そこで店の扉に手をかけたとき。
「ジェニファーじゃないか!」
突如、大きな声が背後で聞こえた。
「え……?」
驚いて振り向くと、ジェニファー以上に驚いた様子のダンの姿があった―
扉が閉じられると、早速シドはニコラスに訴えた。
「ニコラス様、本気でジェニファー様を1人で出掛けさせてよろしいのですか?」
「本人が1人で行きたいと言うのだから仕方ないだろう?」
「ですが、万一のことがあったらどうなさるのですか?」
「別に危険な事は無いだろう? 『ボニート』は比較的治安が良い場所じゃないか」
「それでもです! 若い女性を1人で歩かせるのは危険だと思わないのですか? 仮にもジェニファー様はニコラス様の妻なのですよね?」
少しも引こうとしないシドを前に、ニコラスはため息をついた。
「分かった……そこまで言うなら、シド。ジェニファーの護衛を頼む。ただし、彼女に気付かれないようにな」
「はい、お任せください」
シドは満足げに頷いた――
****
外出の許可を貰ったジェニファーは部屋に戻ると、早速出掛ける準備を始めた。
「ジェニファー様、ジョナサン様のお世話ならどうぞ私にお任せ下さい」
メイドのココが笑顔でジョナサンを抱いている。
「あ! 私だって、ちゃんとお世話できますから!」
ポリーが負けじと訴える。
「あーら? この間、泣いているジョナサン様に困り果ててジェニファー様に助けを求めに行ったのはどこの誰かしら?」
「あ、あれはたまたまです! その後は泣かれていませんから!」
ココとポリーが対立しそうになるのをジェニファーが宥めた。
「落ち着いてちょうだい。私は、2人のことを信頼しているわ。だから、どうかジョナサンをお願いね。なるべく早く帰って来るようにはするから」
「大丈夫ですよ、ジョナサン様のことでしたら私たちが2人でしっかりお世話いたしますので、どうぞジェニファー様は時間を気にせずにごゆっくりお出かけください」
ポリーの言葉にジェニファーは嬉しそうに笑う。
「本当? そう言って貰えると助かるわ。でも、なるべく早く帰って来るようにはするから。それじゃ行ってくるわ。ジョナサン、愛しているわ」
頬にキスすると、ジョナサンは「キャッキャッ」と嬉しそうに笑う。
ジェニファーは無邪気に笑うジョナサンの頭をそっと撫でると、3人に見送らて部屋を後にした――
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ジェニファーが城の門を出ると、庭木の影からシドが姿を現した。
「ジェニファー様……後をつけるような真似をして申し訳ございません」
シドは小さな声で謝罪すると、距離を空けてジェニファーの後を歩き始めた。見失わない程度に、尚且つ何かジェニファーの身に危険が及びそうになった時はすぐに駆け付けられるように。
この季節の『ボニート』は快晴に恵まれる。
本日も素晴らしい青空の下、ジェニファーは美しい町なみを歩いていた。
ジェニファーの目的地は、ここへ来た時からずっと行ってみようと考えていた場所だった。
けれどその前に……。
「観光地だけあって、本当にここは色々なお店が並んでいるわね。サーシャはどんな品物を贈れば喜んでくれるかしら」
ジェニファーは以前から旅費を出してくれたサーシャに何かお礼としてプレゼントを買って送りたいと思っていたのだ。
店を探して歩いている時、ふと何処か見覚えある店構えを見つけた。
「あら? この店、どこかで……あ!」
その店は赤レンガ造りの建物で、扉には少し古びた看板が掲げられている。
「『手作りアクセサリーの店』……? あ! この店は、あのときニコラスが連れて来てくれたお店だわ……」
この店では2度買い物をしている。1度目はウサギのブローチ、そして2度目は青い色の蝶のネックレス。
いずれの品物もニコラスが買ってくれた思い出の店。
「この店……懐かしいわ。まだ、あったなんて……あ、そうだわ。ここでサーシャへのプレゼントを買おうかしら」
そこで店の扉に手をかけたとき。
「ジェニファーじゃないか!」
突如、大きな声が背後で聞こえた。
「え……?」
驚いて振り向くと、ジェニファー以上に驚いた様子のダンの姿があった―
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