上 下
119 / 198

3-22 ダン 2

しおりを挟む
「いや、やっぱり俺なんかが城の中に入るのは申し訳ないよ」

ダンは余程遠慮しているのか、首を振る。

「それだったら、ガゼボはどうかしら? そこだったら椅子もあるし、城の中では無いから気兼ねすること無いでしょう?」

「そうだな、そこならいいかもな」

ジェニファーの提案にダンは笑顔になる。

「それじゃ、早速行きましょう。案内するわ」

「ああ」

2人はガゼボに向かって歩き始めた。シドも後をついて行こうとしたとき、ジェニファーがシドに声をかけてきた。

「シド、ガゼボの場所は知っているからついてこなくても大丈夫よ?」

「え?」

思いがけない言葉に驚くシド。

「で、ですが俺はジェニファー様の護衛騎士ですが……」

「ええ。でも、城の敷地内の中庭で話をするのだから安心でしょう? シドは仕事で忙しいでしょうから大丈夫よ」

シドは何と返事をすればよいか分からなかった。それだけ、今の話はとってショックだったのだ。
そしてそんなシドの様子を黙って見つめるダン。

「その代わり、シドにお願いしたいことがあるのだけどいいかしら?」

「はい、何でしょう?」

「ポリーに少しの間、ジョナサンのお世話をお願いして貰うように伝えてきてくれる?」

「……分かりました。伝えてきます。それでは失礼いたします」

シドは一礼すると、踵を返して去っていく。そのとき、風に乗って2人の会話が聞こえてきた。

「ジョナサンって、確かジェニファーがお世話している子供だったよな?」

「ええ、そうよ。1歳になったばかりなの。とても可愛いのよ」

「へ~。トビーやマークの赤ん坊時代を思い出すな」

「それに、ニックもね」

「ハハ、そのとおりだな」

楽しそうな2人の会話。
けれど、シドには全く分らない話だった。それが、無性に寂しく感じるのだった――


**

ガゼボに到着すると、ダンは珍しそうに辺りを見渡した。

「へ~……これがガゼボか。まるで小さな家みたいだな」

「フフフ、素敵でしょう? でも驚いたわ。突然訪ねてくるのだから」

するとダンが少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。

「……もしかして、迷惑だったか?」

「まさか! 迷惑なんて、とんでもないわ。ダンに会えて、とても嬉しいんだから」

顔を綻ばせるジェニファーを見て、ダンも口元に笑みを浮かべる。

「良かった、ジェニファーが元気そうで安心したよ。手紙の様子では何となく落ち込んでいるように思えたから」

ダンはテーブルの上で頬杖をついてジェニファーを見つめる。そんなダンを見ていると、ジェニファーは少し弱音を吐いてしまいたくなった。

「……やっぱり、分かっちゃったかしら? 確かに、少し落ち込んでいたのは事実なの。でもダンに会えて元気が出たわ」

「そうか? そう言ってもらえると嬉しいな」

優しい目でジェニファーを見つめる。

「何だか、ダン変わったわね。やっぱり結婚して家庭を持ったからかしら? 何だかすごく大人びたわね」

するとダンの表情が曇った。

「あ……」

「どうかしたの?」

「実は……そのことなんだけど……何か、サーシャから聞いていないか?」

「いいえ? 何も聞いていないけど?」

ジェニファーは首を傾げた。

「そうか、きっとサーシャはジェニファーに心配かけさせたくなくて、報告しなかったのだろうな」

「え? ダン。もしかして何かあったの?」

「うん……結婚のことだけど……俺、一月ほど前に離婚されたんだよ。妻に別に好きな男性が出来て、俺はもういらないってね。子供もいなかったし、婿養子の立場だったから家を出るしかなくて……今は1人で暮らしているんだ。おふくろは激怒しているから家にも戻れなくてね」

そしてダンは寂しげに笑った――

しおりを挟む
感想 463

あなたにおすすめの小説

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

不愛想な伯爵令嬢は婚約破棄を申し出る

hana
恋愛
不愛想な伯爵令嬢ロゼに縁談が持ち込まれる。 相手は同じ爵位のナイトという青年で、ロゼは彼の婚約者になることを決意する。 しかし彼の幼馴染であるカラフルという女性が現われて……

【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。

❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、済まない。カノンが……。」 「大丈夫ですの? カノン様は。」 「本当に済まない。、ルミナス。」 ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものように済まなそうな顔をして彼女に謝った。 「お兄様、ゴホッゴホッ。ルミナス様、ゴホッ。さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」 カノンは血を吐いた。

みんながまるくおさまった

しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。 婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。 姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。 それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。 もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。 カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

処理中です...