108 / 198
3-11 込みあげてくる複雑な気持ち
しおりを挟む
外に出て庭を歩いていると、腰に剣を下げたシドが駆け寄ってきた。
「ジェニファー様! どちらへ行かれるのですか!?」
「天気も良いし、これからお城のすぐ近くにある公園にピクニックへ行こうかと思っていたの」
「軽食も用意したのですよ」
ポリーはバスケットを嬉しそうに見せるとシドの顔が曇る。
「ピクニックですか……」
「え? どうかしたの? 何かいけなかったかしら?」
「シドさん?」
ジェニファーは慌て、ポリーも戸惑う。
「何故、俺にも声をかけてくれなかったのです? これでも一応、ジェニファー様の護衛騎士ですよ?」
シドは不満そうな表情を浮かべる。
「え? シド?」
(まさか、不機嫌な理由って……そこだったの?)
「ですが、シドさんは剣の鍛錬をしていたのではないですか?」
ポリーはシドの腰に差してある剣を指さした。
「確かに鍛錬中ではありましたが、俺の任務はジェニファー様の護衛ですから」
「護衛って……何もそんな大げさな。大体私は誰かに狙われるような覚えは無いけど」
「そんなことをおっしゃって……お忘れですか? あのときのことを」
「あのときって……あ」
そのとき、ジェニファーは15年前のことを思い出した。ニコラスを待っていた時に男性2人に絡まれて連れ去られそうになった、あの出来事を。
「思い出したようですね?」
「え、ええ。思い出したわ。それに……今はニコラスとジェニーの大切な子供を預かっているのだから、慎重に行動しないといけないわね」
本当ならジェニファーはニコラスの妻であり、ジョナサンの義母である。
だが妻である自覚を持てないジェニファーにとって、ジョナサンは我が子というよりも大切な預かりものという認識しか持てずにいたのだ。
「そうです。ジェニファー様。それではお供させて頂きますので参りましょう」
「ええ。そうね」
「行きましょうか」
シドの言葉に頷き、3人は一緒に公園へ向かった――
**
「あの、ジェニファー様。以前から思っていたのですが……ひょっとして、シドさんとお知り合いだったのですか?」
ポリーが後ろについて歩くシドをチラリと見ると小声で尋ねてきた。
「え? な、何故そんな風に思うの?」
思わずドキリとするジェニファー。
「う~ん……何となくですけど、勘? のようなものです」
「そんなこと無いわ。シドと会ったのは、侯爵邸が初めてよ」
咄嗟にジェニファーは嘘をついてしまった。
15年前の出来事を、どうしても知られるわけにはいかないからだ。
「そうでしたか……妙なことを尋ねて申し訳ございませんでした」
「いいのよ、別に謝らなくても。でも、本当に良い天気ね。公園には芝生が沢山生えているからジョナサンの歩く練習をさせてみるのもいいかもしれないわね」
ジェニファーはごまかすために、わざと明るい声で話をする。
「そうですね。私もお手伝いさせて下さい」
無言で歩きながら、シドは仲良く話をしている2人の様子を伺っていた。耳の良い彼には2人の会話が聞こえていたのだ。
(ジェニファー様……やはり、誰にも15年前の話をするつもりはないのか……)
一度も忘れたことが無かったジェニファーとの思い出。
それを無かったかことにされてしまったようで、シドの心に複雑な気持ちが込み上げてくるのだった――
「ジェニファー様! どちらへ行かれるのですか!?」
「天気も良いし、これからお城のすぐ近くにある公園にピクニックへ行こうかと思っていたの」
「軽食も用意したのですよ」
ポリーはバスケットを嬉しそうに見せるとシドの顔が曇る。
「ピクニックですか……」
「え? どうかしたの? 何かいけなかったかしら?」
「シドさん?」
ジェニファーは慌て、ポリーも戸惑う。
「何故、俺にも声をかけてくれなかったのです? これでも一応、ジェニファー様の護衛騎士ですよ?」
シドは不満そうな表情を浮かべる。
「え? シド?」
(まさか、不機嫌な理由って……そこだったの?)
「ですが、シドさんは剣の鍛錬をしていたのではないですか?」
ポリーはシドの腰に差してある剣を指さした。
「確かに鍛錬中ではありましたが、俺の任務はジェニファー様の護衛ですから」
「護衛って……何もそんな大げさな。大体私は誰かに狙われるような覚えは無いけど」
「そんなことをおっしゃって……お忘れですか? あのときのことを」
「あのときって……あ」
そのとき、ジェニファーは15年前のことを思い出した。ニコラスを待っていた時に男性2人に絡まれて連れ去られそうになった、あの出来事を。
「思い出したようですね?」
「え、ええ。思い出したわ。それに……今はニコラスとジェニーの大切な子供を預かっているのだから、慎重に行動しないといけないわね」
本当ならジェニファーはニコラスの妻であり、ジョナサンの義母である。
だが妻である自覚を持てないジェニファーにとって、ジョナサンは我が子というよりも大切な預かりものという認識しか持てずにいたのだ。
「そうです。ジェニファー様。それではお供させて頂きますので参りましょう」
「ええ。そうね」
「行きましょうか」
シドの言葉に頷き、3人は一緒に公園へ向かった――
**
「あの、ジェニファー様。以前から思っていたのですが……ひょっとして、シドさんとお知り合いだったのですか?」
ポリーが後ろについて歩くシドをチラリと見ると小声で尋ねてきた。
「え? な、何故そんな風に思うの?」
思わずドキリとするジェニファー。
「う~ん……何となくですけど、勘? のようなものです」
「そんなこと無いわ。シドと会ったのは、侯爵邸が初めてよ」
咄嗟にジェニファーは嘘をついてしまった。
15年前の出来事を、どうしても知られるわけにはいかないからだ。
「そうでしたか……妙なことを尋ねて申し訳ございませんでした」
「いいのよ、別に謝らなくても。でも、本当に良い天気ね。公園には芝生が沢山生えているからジョナサンの歩く練習をさせてみるのもいいかもしれないわね」
ジェニファーはごまかすために、わざと明るい声で話をする。
「そうですね。私もお手伝いさせて下さい」
無言で歩きながら、シドは仲良く話をしている2人の様子を伺っていた。耳の良い彼には2人の会話が聞こえていたのだ。
(ジェニファー様……やはり、誰にも15年前の話をするつもりはないのか……)
一度も忘れたことが無かったジェニファーとの思い出。
それを無かったかことにされてしまったようで、シドの心に複雑な気持ちが込み上げてくるのだった――
480
お気に入りに追加
1,915
あなたにおすすめの小説
影の王宮
朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。
ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。
幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。
両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。
だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。
タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。
すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。
一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。
メインになるのは親世代かと。
※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。
苦手な方はご自衛ください。
※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。
不愛想な伯爵令嬢は婚約破棄を申し出る
hana
恋愛
不愛想な伯爵令嬢ロゼに縁談が持ち込まれる。
相手は同じ爵位のナイトという青年で、ロゼは彼の婚約者になることを決意する。
しかし彼の幼馴染であるカラフルという女性が現われて……
【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。
❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、済まない。カノンが……。」
「大丈夫ですの? カノン様は。」
「本当に済まない。、ルミナス。」
ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものように済まなそうな顔をして彼女に謝った。
「お兄様、ゴホッゴホッ。ルミナス様、ゴホッ。さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」
カノンは血を吐いた。
みんながまるくおさまった
しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。
婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。
姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。
それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。
もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。
カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる