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1−12 フォルクマン伯爵

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 金の髪に青い瞳の男性はこの辺りでは見かけたことがない、立派な身なりをしていた。

高級そうなスーツにネクタイ。会社勤めをしているザックは、ひと目で相手がどれほど金持なのか見抜いてしまった。

(一体、この人物は誰だ? もしや……)

そのとき、アンがヒステリックに叫んだ。

「一体あなたは誰ですか!? 人の家に勝手に上がり込むなんて、泥棒と同じですよ!」

すると男性は冷たい視線をアンに向ける。

「それは人の気配がするのに、いくらノックをしても誰も出てこないからだ。それで家の中に入ってみれば、怒鳴り声が聞こえている。だから様子を見に来てみれば……大体人の家と言っているが、ここはジェニファーの両親が住んでいた家だ。ということは、この家の持ち主はジェニファーではないのかね?」

「な、なんですって……! どうしてそれを……!」

その質問を男性は無視し、今度は笑顔でジェニファーに話しかけてきた。

「久しぶり、ジェニファー。私を覚えているかね?」

「はい……! フォルクマン伯爵。覚えています」

「フォルクマン伯爵ですって!?」

その言葉にアンの顔が青ざめる。

「このバカッ! お前は伯爵家の方になんという口の聞き方をするのだ!」

ザックはアンを怒鳴りつけると、ペコペコ頭を下げた。

「初めまして、フォルクマン伯爵。我々はジェニファーの後見人の、ザック・ウッドと申します。こちらは妻のアン。そして子供たちのダンにサーシャです。先程は妻が大変失礼な態度を取り、大変申し訳ございません。ほら! アンッ! お前も謝れ!」

相手が伯爵だということを知り、アンは低姿勢に出た。

「フォルクマン伯爵、申し訳ございませんでした。私はジェニファーの叔母のアンと申します。この子の亡くなった母親が私の姉でして、今は私が代りにジェニファーの母親代わりをしています」

「母親代わりというのなら、もっと母親らしいことをしてやるべきではないのか? こんな小さな子に、全ての家事を押し付けているのだろう? 会話が廊下にまで聞こえていたぞ」

「!」

その言葉に、アンの肩がビクリと跳ねる。

(そんな……まさか、伯爵に聞かれていたなんて……!)

「手紙に金銭の要求を書かせたのも、あなたですか」

「そ、それは……!」

「違うのかね?」

「いえ……そう、です……」

「私から金銭を要求したのは、使用人を雇うためなのだろう? ジェニファーの代りに働いてもらうための」

もはや、誰も2人の会話に口を挟めないでいた。そしてジェニファーは伯爵とアンのやり取りを呆然と見ていた。

(信じられないわ……あの叔母様が、伯爵様を前にあんなに怯えているなんて……)

「この屋敷に現金は渡すつもりでいた。だが、その金は病弱な娘の話し相手になってくれるジェニファーへのお礼だ」

「そ、そんな! 私達にくれるのではないのですか!?」

この期に及んで、アンはまだ諦めきれずにいた。
すると……。

「あの、伯爵様」

ジェニファーが恐る恐る手を上げた。

「どうしたのかね?」

「私はお金はいりません。その代わり、この家にお金を下さいませんか?」

「「!!」」

その言葉に、ザックとアンは目を見開く。

「ジェニファー。君はお金はいらないのかね?」

「はい、私は必要ありません。ですが……」

ジェニファーはアンをチラリと見た。

「分かったよ、ジェニファー。君の言う通りにしよう」

伯爵は懐から小切手を取り出すと、ザックに手渡した。

「ジェニファーからの気持ちだ、受け取りなさい」

「え!? こ、こんなに頂けるのですか!?」

「私にも見せて頂戴!」

アンはザックから小切手を取り上げ、目を見開いた。それはザックの稼ぎの1年分に相当する額だったからだ。

「ありがとうございます! フォルクマン伯爵!」

「心よりお礼申し上げます!」

ペコペコと頭を下げるザックとアンを、2人の子供たちが呆れ顔で見ていたのは言うまでも無かった――
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