148 / 199
第6章 8 それぞれの夕食
しおりを挟む
その日の夕食の席―
食卓にはスカーレット、カール、そしてブリジットが席についていた。
「アリオス兄様‥‥今夜は一緒に食事が出来ないなんて残念です」
豪華な料理が並べられたテーブルの前でカールがフォークを手に、隣の空席を見つめてため息をついた。
「きっと仕事の事でお忙しいのでしょう。秘書のザヒム様とお出かけになられたようですから」
「え?スカーレット様はザヒム様の事を御存じなのですか?」
カールはスカーレットを見た。
「ええ。知っています。本日アリオス様の執務室に伺った時にお会いしましたから。」
そしてスカーレットはサラダを口に入れた。
「とても気さくな方なのですよね?」
ブリジットがスープを飲みながら尋ねた。
「ええ、とても感じが良い方だったわ」
「アリオス兄様の執務室に行ったのですか?」
「ええ。大事なお話があったんです」
するとブリジットが言った。
「スカーレット様、カール様にもお話された方が良いのではありませんか?」
「え?何の話しですか?」
カールが首を傾げた。
(そうね…。もしお父様が戻って来られたなら、私の状況も変わってくるかもしれないし‥)
そこでスカーレットは一旦食事の手を止めるとカールを見た。
「カール様、実は亡くなったとされていた私の父が『ベルンヘル』で見つかったとのお手紙を頂いたのです」
「え?!そうだったのですか?!おめでとうございます!」
カールは一瞬驚愕の表情を見せたが、次の瞬間笑顔になった。
「はい、ただ記憶を無くしているようで…私に会えば記憶を取り戻すかもと言われているそうです。それで近いうちに『ミュゼ』に来るそうなのです」
「そうなのですね?それでは楽しみですね」
カールはニコニコしながら言った。
「はい、ありがとうございます」
スカーレットも微笑みながらカールを見た。そしてそんな2人をじっと見つめながらブリジットの心にはある一抹の不安があった。
(スカーレット様は…リヒャルト様が戻られたら、どうするつもりなのかしら?折角ここでの生活にも慣れたのに…。ましてカール様はあんなにもスカーレット様を慕っているというのに…)
****
その頃―
アリオスとザヒムはおよそ貴族とは思えない、庶民が着るようなシンプルなシャツにボトムス姿で、『ミュゼ』の大衆酒場にやってきていた。
吹き抜けの天井に広々とした板張りのホールのような酒場には円形のテーブルが並べられ、大勢の客で賑わっていた。誰もがアリオスとザヒムが貴族であることにすら気付いていない。それほど2人の姿はこの酒場に溶け込んでいた。
「珍しいじゃないか、アリオスがこんな店に俺を誘うなんて」
ザヒムが木のコップに注がれている果実酒をグイッと飲み干すと向かい側に気むずかしげな顔で地ビールを飲んでいるアリオスを見た。
「…」
しかし、アリオスは返事をせずにボイルされたウィンナーを口に入れた。
「おい、アリオス。お前の方から俺を誘っていてそんな仏頂面はよせよ。酒がまずくなりそうだ。何か話があって俺をこの店に誘ったんだろう?」
ザヒムはチーズを口に放り込んだ。
その時―。
「あら~こちら、素敵なお兄さんたちね?どう?私達と同じテーブルで飲まない?」
一人の赤毛の若い女が声を掛けてきた。女の背後のテーブルには数人の若い女たちが興味津々で2人を見つめている。アリオスは女をチラリと見て、途端にうんざりした気持ちになってしまった。女は髪をゆるく結い上げ、豊満な胸元を強調するかのようなブラウスにハイウェストのロングスカート姿だった。身体のラインを目立たせるかのような服はアリオスの嫌悪感を煽るものでしか無かった。
そんな雰囲気をいち早く感じ取ったザヒムが笑みを浮かべながら言った。
「悪いな、俺たち二人共結婚してるんだ。他の男を当たってくれないか?」
「え~?何よ。妻帯者がこんな店に来ないでよね!」
赤毛の女は不機嫌そうに去って行った。
「何で俺たちがあんな言われ方されなくちゃならないんだ?」
アリオスはますますイライラした様子で言う。
「まぁ、そう言うなって。それで?俺を誘った理由をそろそろ話してみろよ?」
「ああ…実は…」
ザヒムに促され、アリオスは重い口を開いた―。
食卓にはスカーレット、カール、そしてブリジットが席についていた。
「アリオス兄様‥‥今夜は一緒に食事が出来ないなんて残念です」
豪華な料理が並べられたテーブルの前でカールがフォークを手に、隣の空席を見つめてため息をついた。
「きっと仕事の事でお忙しいのでしょう。秘書のザヒム様とお出かけになられたようですから」
「え?スカーレット様はザヒム様の事を御存じなのですか?」
カールはスカーレットを見た。
「ええ。知っています。本日アリオス様の執務室に伺った時にお会いしましたから。」
そしてスカーレットはサラダを口に入れた。
「とても気さくな方なのですよね?」
ブリジットがスープを飲みながら尋ねた。
「ええ、とても感じが良い方だったわ」
「アリオス兄様の執務室に行ったのですか?」
「ええ。大事なお話があったんです」
するとブリジットが言った。
「スカーレット様、カール様にもお話された方が良いのではありませんか?」
「え?何の話しですか?」
カールが首を傾げた。
(そうね…。もしお父様が戻って来られたなら、私の状況も変わってくるかもしれないし‥)
そこでスカーレットは一旦食事の手を止めるとカールを見た。
「カール様、実は亡くなったとされていた私の父が『ベルンヘル』で見つかったとのお手紙を頂いたのです」
「え?!そうだったのですか?!おめでとうございます!」
カールは一瞬驚愕の表情を見せたが、次の瞬間笑顔になった。
「はい、ただ記憶を無くしているようで…私に会えば記憶を取り戻すかもと言われているそうです。それで近いうちに『ミュゼ』に来るそうなのです」
「そうなのですね?それでは楽しみですね」
カールはニコニコしながら言った。
「はい、ありがとうございます」
スカーレットも微笑みながらカールを見た。そしてそんな2人をじっと見つめながらブリジットの心にはある一抹の不安があった。
(スカーレット様は…リヒャルト様が戻られたら、どうするつもりなのかしら?折角ここでの生活にも慣れたのに…。ましてカール様はあんなにもスカーレット様を慕っているというのに…)
****
その頃―
アリオスとザヒムはおよそ貴族とは思えない、庶民が着るようなシンプルなシャツにボトムス姿で、『ミュゼ』の大衆酒場にやってきていた。
吹き抜けの天井に広々とした板張りのホールのような酒場には円形のテーブルが並べられ、大勢の客で賑わっていた。誰もがアリオスとザヒムが貴族であることにすら気付いていない。それほど2人の姿はこの酒場に溶け込んでいた。
「珍しいじゃないか、アリオスがこんな店に俺を誘うなんて」
ザヒムが木のコップに注がれている果実酒をグイッと飲み干すと向かい側に気むずかしげな顔で地ビールを飲んでいるアリオスを見た。
「…」
しかし、アリオスは返事をせずにボイルされたウィンナーを口に入れた。
「おい、アリオス。お前の方から俺を誘っていてそんな仏頂面はよせよ。酒がまずくなりそうだ。何か話があって俺をこの店に誘ったんだろう?」
ザヒムはチーズを口に放り込んだ。
その時―。
「あら~こちら、素敵なお兄さんたちね?どう?私達と同じテーブルで飲まない?」
一人の赤毛の若い女が声を掛けてきた。女の背後のテーブルには数人の若い女たちが興味津々で2人を見つめている。アリオスは女をチラリと見て、途端にうんざりした気持ちになってしまった。女は髪をゆるく結い上げ、豊満な胸元を強調するかのようなブラウスにハイウェストのロングスカート姿だった。身体のラインを目立たせるかのような服はアリオスの嫌悪感を煽るものでしか無かった。
そんな雰囲気をいち早く感じ取ったザヒムが笑みを浮かべながら言った。
「悪いな、俺たち二人共結婚してるんだ。他の男を当たってくれないか?」
「え~?何よ。妻帯者がこんな店に来ないでよね!」
赤毛の女は不機嫌そうに去って行った。
「何で俺たちがあんな言われ方されなくちゃならないんだ?」
アリオスはますますイライラした様子で言う。
「まぁ、そう言うなって。それで?俺を誘った理由をそろそろ話してみろよ?」
「ああ…実は…」
ザヒムに促され、アリオスは重い口を開いた―。
2
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います
***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。
しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。
彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。
※タイトル変更しました
小説家になろうでも掲載してます
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる